彼がステージに上がる時
What is your name?
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11
本日の主役であるTrickstarを、俺はこの教室の誰かもわからない席を借り眺める。ここは少々講堂から遠い…たらたらとしている場合ではないのだが。最後の時間を惜しみ無く駄弁っている転校生と4人。
「ね、黒斗。そういえばあの子の名前知ってる?」
「この俺が。女の名前知ってると思うか?」
真向かいの席に座る蒼空になぜかこっそりと名前を聞かれたが知っているわけがない。転校生。としか識別していないのだ。
「なんでか知らんが、気になるなら自分で聞いてこい。」
一週間プロデューサーとしてのあれこれを教えていたくせにまさか知らなかったとは逆に驚きだ。蒼空が躊躇なく5人の輪の中に入っていき苦笑いを浮かべながら転校生の名前を聞いていた。
あいつは順能力が高いというか、周りに溶け込みやすいというか。急に現れた蒼空に誰一人嫌な顔をせず受け入れられている。もともと全員心の広い奴らだというのもあるが、俺が行ったら確実に転校生は嫌な顔をするだろう。
かれこれ会っては"近寄るな"という態度を俺が向けているから嫌われているといって間違いはない。まぁ、女に嫌われたからどうしたと言う話だが。
「目の前にいる転校生のために歌うぞ~、みたいな感じの方が俺たちも気合いが入るしね!俺たちのキラキラした大活躍を、たっぷり堪能してね~☆」
まったく時間ギリギリまで随分と呑気な奴だ。と心で呟きながら立ち上がる。さすがにこれ以上ここにいると間に合わない。
スバルが転校生に渡すらしいチケットは最前列の特等席。まぁ、スバルにしてはいいプレゼントだ。たしか蒼空も最前列を取ったそうで、自腹だったな。転校生が迷子にならないように案内くらいはしてやれるだろう。
「おい、急かすようで悪いけど……。もう紅月の演目が終わっちまうぞ、あと15分もない。多少遅れても、2winkが時間稼ぎをしてくれるだろうけど」
真緒は俺が立ち上がったことに察して全員に声を掛ける。空気の読める奴は話が早くて助かる。
「さっさと講堂に移動した方がいい。間を外すと観客が帰っちゃうかもしれないしな」
「とはいえ、お前、それ逆につけてんぞ。」
仕切る真緒を感心しながら見やればネックレスが反対になっている事に気づく。Trickstarからとった"TS"が逆になっていて格好悪いことこのうえないのだが。
「えっ、えぇ!?」
「緊張したのか?ったくほら、直してやる。慌ててちゃまともに外せもしないだろ」
「ったくー、サリ~ってばドジっ子だな!」
スバルがにやにやと笑いながら真緒の額をつつく。まぁ確かにドジと言えばドジだが、とはいえ周りも相手を気にかけられる程余裕がないことの現れだ。
普通なら同じユニットの仲間が気づくものなんだが。
「はいはい、これでよし。今さら衣装の見直しなんてできないんだからな?全員ちゃんと着てるよな?」
「うむ、では出発しよう、万難に打ち勝とう。俺たちの夢を、みんなに届けにいこう。」
「ひゃあ~、緊張感がMAXで全身ガクガクだよ!でも、これは武者震いだ~!がんばるぞっ♪」
武者震いには多少無理がある真の言い訳に苦笑いを浮かべる。これから何か重大な事を起こそうとしているこいつらは少し馬鹿な位がちょうどいいのかもしれない。転校生もそれを見てくすりと笑う。
以前自分は何も力になれてなかったからと笑顔を浮かべるより眉間に皺が寄っていることが多かったが、今ばかりは笑っても罰は当たらないだろう。
まぁ、まだ結果が出ていないだろと言われればそれまでなのだが。
「さぁて、楽しいライブの始まりだ~☆そうそう!転校生は、受け付けにいるしののんにチケットもらってね。俺たちは講堂の裏口から、こっそり入るから!」
「あー、蒼空、ちゃんと案内してやれよ?俺も裏の方にいるし、ついていけるのはお前だけだ。まぁ入ってからはその、紫之がいるから安心だけどな」
「まってどういう意味!俺じゃ役不足~?」
溜め息を吐きながら教室のドアを開け廊下を確認する蒼空。まぁ鉢合わせはしないだろうが生徒会に会うと厄介、だしな。
「ホッケ~!ウッキ~!サリ~!転校生!黒斗先輩にホシノ先輩も!俺、今日という日を迎えられて最高に幸せだよっ☆」
「思えば遠くにきたものだな。まぁ、感慨に耽るのは後回しだ。俺たちの歌で、革命を起こそう。今日、夢ノ咲学院は生まれ変わる」
一つ下の年齢と言えど若いなぁ。なんて考える。無駄に大袈裟な点がなおさら若く感じるのだろう。
羨ましい、青春らしい青春を送ってきたこいつらをただその一心で見つめた。
「頑張ってこいよ。というより、楽しんでこい。俺から言えるのはそれくらいだな」
一人ずつ頭を撫でる。あまり乱れると面倒だからあくまでもぽんぽんと触れる程度だが、ライブが終わったら思いきり撫でてやろう。勝っても負けても撫でてやる。
「黒斗が楽しめって言うなら俺は躍れ!って応援する。笑顔で躍るんだぞ?楽しまなきゃ損!」
結果同じこと言ってる蒼空も、アイドルとして、先輩として一番の笑顔であいつらをまとめて抱き締める。こういうノリになると本当面倒くさい奴だな…。
もういいよー、なんてスバルに口を挟まれ解放したのを見計らい俺は再度出発するよう促す。
「希望の輝きを放とう、Trickstar!」
北斗のその一言に全員が本気で戦う意思を持つ。教室を出てまもなく裏口から入る道と受付への道で蒼空と転校生は別れる。
願うような表情の転校生と最後まで笑顔のままの蒼空に見送られ、俺はTrickstarを裏口まで連れていく。
講堂が近付くと、まだ見えてもいない観客の熱気に当てられ4人の表情が強ばる。
「…」
「僕、転けたりしたら自害する」
「お前らはここに来てまで震えてんのかよ」
舞台袖でいつもより小さくなる真を撫でる。こういうときは冗談の一つも思い付けばいいのだが。
「あー、もしお前らが怖がってステージでまともに踊れなかったら俺は容赦なくお前らを怒鳴り散らすが?」
「俺は、怒られるのだけは嫌です」
「俺も…!」
「っ、僕、黒斗さんの怒った顔はもうみたくないかな。」
「えっ、お前らみんなそんなに嫌なのか!なら俺も黒斗さんに怒られるの嫌だ」
「複雑な心境だが…怒られたくないならここで縮こまってないで行ってこい」
隠そうと思ったが多分俺の眉間には皺がよっていたのだろう。全員苦笑いを浮かべながらもステージに上がっていく。
横目にそれを見ていた2winkが上手く仕切っていくのを眺め俺は先程すれ違ったUNDEADに振り返る。
「随分とあいつらの面倒見ちゃって~?黒斗ってそういうの好きだよね」
「おー、薫お疲れ。これチョコ、あとスポドリ」
男からチョコもらっても嬉しくないけどさ。なんてぶつくさ言いながらチョコを受けとり間髪いれずに開封する薫。
残念ながらパフォーマンスは見れなかったが女が観客にいる以上ちゃんとやっていたのだろう。…多分
「人数分あるから。ほら、アドニスも、お疲れ」
衣装の一つである帽子を脱ぎ髪をかきあげるアドニスの頬にスポドリを宛てる。急な冷えに一瞬肩を跳ねさせていたが特に怒る様子もなくいつもすまない、と一言だけ言って受け取った。
「目良センパイよー。あいつらのパフォーマンス見ねーのか?」
「…あー、まぁ俺はいいかって思って。蒼空にも何度か、S2の時とかステージに立ってもらったりしてたけど、いつもここで終わるの待ってたしな」
「趣味はドリフェス鑑賞。まぁつまり他の奴らのパフォーマンス鑑賞は好きだってのに、一番手塩にかけてる奴のは見ねぇって、変な奴」
晃牙が訝しげに問いかけてくる。
確かにただ単純に客としてパフォーマンスを見るのは好きだ。しかし手をかけた奴らを客としての立場では見れない気がして、いつも蒼空のライブでも舞台袖で無心で眺めている。今回もそれは変わらない。
「まぁ、黒斗が客としてサイリウムを振らんでも、Trickstarは勝てるじゃろう。何せ我輩と黒斗が肩入れしたのじゃし、負けるなんぞ許されんしのう?」
「まぁ、今回は奇襲だしな。俺もその点では確信は得てる」
Trickstarのライブを横目に溜め息を吐く。今回はUNDEADの力があってこそだ。そうすれば副会長のいる紅月にはほぼ勝てる。
しかし問題はそれだけで解決はしない。
「でも…退院したって情報が、父親から来たんだよ」
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本日の主役であるTrickstarを、俺はこの教室の誰かもわからない席を借り眺める。ここは少々講堂から遠い…たらたらとしている場合ではないのだが。最後の時間を惜しみ無く駄弁っている転校生と4人。
「ね、黒斗。そういえばあの子の名前知ってる?」
「この俺が。女の名前知ってると思うか?」
真向かいの席に座る蒼空になぜかこっそりと名前を聞かれたが知っているわけがない。転校生。としか識別していないのだ。
「なんでか知らんが、気になるなら自分で聞いてこい。」
一週間プロデューサーとしてのあれこれを教えていたくせにまさか知らなかったとは逆に驚きだ。蒼空が躊躇なく5人の輪の中に入っていき苦笑いを浮かべながら転校生の名前を聞いていた。
あいつは順能力が高いというか、周りに溶け込みやすいというか。急に現れた蒼空に誰一人嫌な顔をせず受け入れられている。もともと全員心の広い奴らだというのもあるが、俺が行ったら確実に転校生は嫌な顔をするだろう。
かれこれ会っては"近寄るな"という態度を俺が向けているから嫌われているといって間違いはない。まぁ、女に嫌われたからどうしたと言う話だが。
「目の前にいる転校生のために歌うぞ~、みたいな感じの方が俺たちも気合いが入るしね!俺たちのキラキラした大活躍を、たっぷり堪能してね~☆」
まったく時間ギリギリまで随分と呑気な奴だ。と心で呟きながら立ち上がる。さすがにこれ以上ここにいると間に合わない。
スバルが転校生に渡すらしいチケットは最前列の特等席。まぁ、スバルにしてはいいプレゼントだ。たしか蒼空も最前列を取ったそうで、自腹だったな。転校生が迷子にならないように案内くらいはしてやれるだろう。
「おい、急かすようで悪いけど……。もう紅月の演目が終わっちまうぞ、あと15分もない。多少遅れても、2winkが時間稼ぎをしてくれるだろうけど」
真緒は俺が立ち上がったことに察して全員に声を掛ける。空気の読める奴は話が早くて助かる。
「さっさと講堂に移動した方がいい。間を外すと観客が帰っちゃうかもしれないしな」
「とはいえ、お前、それ逆につけてんぞ。」
仕切る真緒を感心しながら見やればネックレスが反対になっている事に気づく。Trickstarからとった"TS"が逆になっていて格好悪いことこのうえないのだが。
「えっ、えぇ!?」
「緊張したのか?ったくほら、直してやる。慌ててちゃまともに外せもしないだろ」
「ったくー、サリ~ってばドジっ子だな!」
スバルがにやにやと笑いながら真緒の額をつつく。まぁ確かにドジと言えばドジだが、とはいえ周りも相手を気にかけられる程余裕がないことの現れだ。
普通なら同じユニットの仲間が気づくものなんだが。
「はいはい、これでよし。今さら衣装の見直しなんてできないんだからな?全員ちゃんと着てるよな?」
「うむ、では出発しよう、万難に打ち勝とう。俺たちの夢を、みんなに届けにいこう。」
「ひゃあ~、緊張感がMAXで全身ガクガクだよ!でも、これは武者震いだ~!がんばるぞっ♪」
武者震いには多少無理がある真の言い訳に苦笑いを浮かべる。これから何か重大な事を起こそうとしているこいつらは少し馬鹿な位がちょうどいいのかもしれない。転校生もそれを見てくすりと笑う。
以前自分は何も力になれてなかったからと笑顔を浮かべるより眉間に皺が寄っていることが多かったが、今ばかりは笑っても罰は当たらないだろう。
まぁ、まだ結果が出ていないだろと言われればそれまでなのだが。
「さぁて、楽しいライブの始まりだ~☆そうそう!転校生は、受け付けにいるしののんにチケットもらってね。俺たちは講堂の裏口から、こっそり入るから!」
「あー、蒼空、ちゃんと案内してやれよ?俺も裏の方にいるし、ついていけるのはお前だけだ。まぁ入ってからはその、紫之がいるから安心だけどな」
「まってどういう意味!俺じゃ役不足~?」
溜め息を吐きながら教室のドアを開け廊下を確認する蒼空。まぁ鉢合わせはしないだろうが生徒会に会うと厄介、だしな。
「ホッケ~!ウッキ~!サリ~!転校生!黒斗先輩にホシノ先輩も!俺、今日という日を迎えられて最高に幸せだよっ☆」
「思えば遠くにきたものだな。まぁ、感慨に耽るのは後回しだ。俺たちの歌で、革命を起こそう。今日、夢ノ咲学院は生まれ変わる」
一つ下の年齢と言えど若いなぁ。なんて考える。無駄に大袈裟な点がなおさら若く感じるのだろう。
羨ましい、青春らしい青春を送ってきたこいつらをただその一心で見つめた。
「頑張ってこいよ。というより、楽しんでこい。俺から言えるのはそれくらいだな」
一人ずつ頭を撫でる。あまり乱れると面倒だからあくまでもぽんぽんと触れる程度だが、ライブが終わったら思いきり撫でてやろう。勝っても負けても撫でてやる。
「黒斗が楽しめって言うなら俺は躍れ!って応援する。笑顔で躍るんだぞ?楽しまなきゃ損!」
結果同じこと言ってる蒼空も、アイドルとして、先輩として一番の笑顔であいつらをまとめて抱き締める。こういうノリになると本当面倒くさい奴だな…。
もういいよー、なんてスバルに口を挟まれ解放したのを見計らい俺は再度出発するよう促す。
「希望の輝きを放とう、Trickstar!」
北斗のその一言に全員が本気で戦う意思を持つ。教室を出てまもなく裏口から入る道と受付への道で蒼空と転校生は別れる。
願うような表情の転校生と最後まで笑顔のままの蒼空に見送られ、俺はTrickstarを裏口まで連れていく。
講堂が近付くと、まだ見えてもいない観客の熱気に当てられ4人の表情が強ばる。
「…」
「僕、転けたりしたら自害する」
「お前らはここに来てまで震えてんのかよ」
舞台袖でいつもより小さくなる真を撫でる。こういうときは冗談の一つも思い付けばいいのだが。
「あー、もしお前らが怖がってステージでまともに踊れなかったら俺は容赦なくお前らを怒鳴り散らすが?」
「俺は、怒られるのだけは嫌です」
「俺も…!」
「っ、僕、黒斗さんの怒った顔はもうみたくないかな。」
「えっ、お前らみんなそんなに嫌なのか!なら俺も黒斗さんに怒られるの嫌だ」
「複雑な心境だが…怒られたくないならここで縮こまってないで行ってこい」
隠そうと思ったが多分俺の眉間には皺がよっていたのだろう。全員苦笑いを浮かべながらもステージに上がっていく。
横目にそれを見ていた2winkが上手く仕切っていくのを眺め俺は先程すれ違ったUNDEADに振り返る。
「随分とあいつらの面倒見ちゃって~?黒斗ってそういうの好きだよね」
「おー、薫お疲れ。これチョコ、あとスポドリ」
男からチョコもらっても嬉しくないけどさ。なんてぶつくさ言いながらチョコを受けとり間髪いれずに開封する薫。
残念ながらパフォーマンスは見れなかったが女が観客にいる以上ちゃんとやっていたのだろう。…多分
「人数分あるから。ほら、アドニスも、お疲れ」
衣装の一つである帽子を脱ぎ髪をかきあげるアドニスの頬にスポドリを宛てる。急な冷えに一瞬肩を跳ねさせていたが特に怒る様子もなくいつもすまない、と一言だけ言って受け取った。
「目良センパイよー。あいつらのパフォーマンス見ねーのか?」
「…あー、まぁ俺はいいかって思って。蒼空にも何度か、S2の時とかステージに立ってもらったりしてたけど、いつもここで終わるの待ってたしな」
「趣味はドリフェス鑑賞。まぁつまり他の奴らのパフォーマンス鑑賞は好きだってのに、一番手塩にかけてる奴のは見ねぇって、変な奴」
晃牙が訝しげに問いかけてくる。
確かにただ単純に客としてパフォーマンスを見るのは好きだ。しかし手をかけた奴らを客としての立場では見れない気がして、いつも蒼空のライブでも舞台袖で無心で眺めている。今回もそれは変わらない。
「まぁ、黒斗が客としてサイリウムを振らんでも、Trickstarは勝てるじゃろう。何せ我輩と黒斗が肩入れしたのじゃし、負けるなんぞ許されんしのう?」
「まぁ、今回は奇襲だしな。俺もその点では確信は得てる」
Trickstarのライブを横目に溜め息を吐く。今回はUNDEADの力があってこそだ。そうすれば副会長のいる紅月にはほぼ勝てる。
しかし問題はそれだけで解決はしない。
「でも…退院したって情報が、父親から来たんだよ」
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