彼がステージに上がる時
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10
つくづく思うのは、今日までほんの二週間しかなかった。ということ。
「明日、俺たちは勝てるんでしょうか…」
レッスン最終日の帰り道、俺と北斗は一緒に帰路についていた。
不安そうにしている北斗を気に掛けて、黒斗が俺に一緒に帰るよう気を配ったんだけど、案の定始まってもいない戦いに震えている。
「さぁねー、まぁみんな確実に上達はしてるしさ。俺はTrickstarに票いれるけど、あとは他の周りの人次第。そもそも、黒斗が観客として混ざらないみたいだからその分肩入れして票をいれる人が減るし。」
「そう、ですよね。」
「ちなみにほっちゃんは、勝つ気でいるの?」
「え」
ちょっと先を歩く北斗の顔を覗き込み問いかけると、不意の俺の行動になのかそれとも質問になのか目を丸くする北斗。この呼び方をするといっつも目を泳がされるんだよなー。
「絶対勝とうとはみんなの前で言ってたけど、内心は勝てたら良いなってちょっと不安…だ」
足を止めて喋る北斗の声はいつもより小さい。
難しく考えすぎなんだと思うんだけど。
「北斗七星は専門学者じゃなくても見つけやすい星じゃん。あとほら、有名でしょ?」
「は?」
「その名前を持つ北斗ならきっとみんなから愛されるから大丈夫。良いところ、アイドルとしての魅力。一般人でもきっと見つけてくれるからさ」
「待て。意味が…」
わからないかな?俺のこの感覚だけで喋る癖が悪いのか。言いたいことだけでも伝われば良いんだけど。
「まぁ、つまり、見つけてもらう気で歌って、勝つ気でやらなきゃ意味ないよってこと」
正直、俺も一アイドルとして考えたけれどあまり勝ち負けにはこだわりたくない。もちろん今の現状に納得いってないから革命は起きてほしいけど、でもそれ以前にアイドルを楽しめないのは苦痛だと思う。誰しも好きなようにできる事じゃないからなおさら。
「黒斗も応援してるし、せっかく曲も作ってくれたんだしさ?あとほら、一週間ご飯も用意してくれてたでしょ?」
黒斗はこの二週間Trickstarのマネージャーかというほどつきっきりだった。プロデューサーである転校生ちゃんを差し置いててきぱきを仕事を成す様はまるでお母さん。ちなみに俺は転校生ちゃんに何をどうプロデューサーとして学べば良いかを黒斗とあの子の間の掲示板係として世話をしていた。
黒斗の住む家が学校から歩いてまもなくのマンションということもあり泊まりがけのまこたんとまおまおにご飯を運ぶこともあった。
「目良先輩は本当に身を粉にさせてまで協力してくれたからな。ちゃんとお礼を言わないと」
「そうだねー?でも黒斗はきっと、礼なんていらない。って態度とると思うよ」
軽く黒斗の物真似をしながらくすくすと笑みを浮かべると、北斗もそれにつられて笑う。
「ふーん、本当に表情柔らかくなったんだね?躍ってる間だけだと思ってたけど」
「あ、あー…それは…ユニット練習に入るまでの一週間の特訓で。あの双子に表情筋を柔らかくしろと」
表情筋、黒斗にもその特訓させた方がいいかもしれない。黒斗は俺と会ったその時から北斗よりさらに無表情だ。軽い笑顔も作り笑いだし、苦笑といっても鼻で笑うかのような微妙な反応しかないし。
「あれでみんなから好かれてるから凄いよなぁー」
「え?誰が?」
「んー、黒斗。ほら、あいつってほんっっと無表情じゃん」
「俺はあまり目良先輩の事知らないが。確かにあまり表情豊かじゃないな。あと、感情もあまり表に出さないし」
「…うーん」
正直北斗から聞いたその情報に納得せざるを得ない。感情を出してくれなかったり無表情なのは誰彼構わずらしく、無愛想なプレゼンターという肩書きを持っているほど。
でもそんな黒斗でも、よく表情をコロコロ変える相手がいる。
なんて噂を聞いたことがある。つまるところ特別な存在だろう。せなたんか…まこたんか…昔馴染みならなくもない話。
「でも、ほんとプレゼンターって伊達じゃないね。凄いご飯美味しかったし」
「そうだな。明日も、俺たちが出番の合間に食べれるもの作ってくれるって言ってたし。おにぎりとか、だと思うが」
「黒斗の作るものなら安心して食べれるよ。カロリー控えめで食バランスも整ってるし!あ、でも満足感を求めるにはちょっと足りないけどな」
それから何度も明日の動きについて北斗が俺に確認してくる。俺はあまりわかってないからなぁ。なんて笑いながら返せば、そんな!なんて驚かれるけど…何、俺にそういう戦術とか期待してたの?
「あ、俺の家…なんか、すみません。結局最後まで送ってもらう形になってしまった」
苦笑いを浮かべながら敷地に入っていく北斗。しっかりしてるように見えてまだ俺より一つ下か。俺にたいして敬語使わないけど!
「んーん、先輩としてそれらしいことしなきゃだろ?あまり気負いすぎんなよ、北斗。」
去り際に頭を撫でてやれば昔のように嬉しそうにされる。その表情が生きてるならまだ大丈夫だな。なんて心のなかで呟く。
「それじゃーおやすみ~」
「あぁ、お休み。明日は、勝ってみせる」
ひらひらと手を振り家を後にする。
勝つ、の一言にだから気負いすぎだなんて言いたかったが、モチベーションを下げないようにこれ以上は何も言わないでおこう。
「早く帰って黒斗のご飯食べよう。そうしよう」
ぽつり呟き夜空を見上げる。
別にこれといった星座や星があるわけでもなく、自然と溜め息を溢す。
と、その直後上を向いたまま進んだのが祟ったのか、目の前の何かに激突する。
「あいたっ!えっ、なに?ごめんなさい!?」
ぶつかったのが人の感触だったことにさらに心拍数が上がり慌てて頭を下げた。
ちょっとしたヘタレかと思うほどどもってしまったけれど致し方なし!
「お前北斗送るのにどんだけ時間かけてんだ」
「えっ、黒斗?」
「もう学院から出て一時間は経ってるぞ。」
ご飯が冷める。その一言と同時に半分頭を下げた状態の俺の手は黒斗に思いきり引かれる。い、痛いんですけどー!
「あまりにも遅いから心配した。なんかあったのか?」
「え、いや…ないよ?」
「…そうか。ならいい。俺は明日ぶっ通しでTrickstarに付くつもりだからさっさと寝たいのにな、お前が帰ってこないから飯が食えない。」
「えー、そんなん一人で食べれば良かったじゃん。」
「それが、真が家に泊まることになったんだよ。だからお前だけ仲間はずれにできないだろ」
仲間はずれ、あぁ…そうか。仲間はずれは嫌いだし。
黒斗に心の中で感謝しながら…ふふふ、なんて笑みを溢すと、気持ち悪と一言。
黒斗に以前言った子供の頃の話も、せなたんに言った仲間はずれの話も、黒斗はちょっとだけ知っている。
俺が黒斗の左目の話をちょっとだけ知っているように。
「今こうして普通なのは、黒斗のお陰かな」
「なんの話か知らねぇけど、お前が五奇人の中の一人になってるんじゃないかってたまに思ったことはあったんだがな。」
「それだけ俺が変ってこと?」
「そういうこと。でも今思えば普通だな。ちょっと情緒不安定なだけで」
鍵を開けながら改めて俺たちの家の前でちょっと前の話をすると、俺が居候し始めた頃のことを思い出す。
親が投げ出すように俺をこの学校にいれ、あわよくば売れたら自分達の稼ぎ手にしようなんて考えてる。というのを黒斗に相談したのが始まり。
一人暮らししたら家賃諸々の口実で親に金渡さなくて済むと思う。という鶴の一声で俺は決心した。とはいえ一人暮らし怖い。というヘタレの俺に更に手を差しのべてくれたのは他でもない黒斗。
あの時親子関係で情緒不安定の俺に優しくしてくれたのは思えば黒斗しかいなかったのかも。なんて
「ただいま~?」
「あっ、黒斗さん!と、蒼空さん」
「真。遅くなって悪い。ほら、蒼空。さっさと手ぇ洗って食べるぞ」
うん、わかった。元気よく返事をして洗面所に向かうと、真がご飯を盛っているのを視界の隅にとらえる。大分黒斗に感化されてるような立ち振舞い。たった数分しか家にいないのに。
「よしよし、明日のためにも一杯食べて寝るか!いっただきまーす!」
「ん、いただきます」
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つくづく思うのは、今日までほんの二週間しかなかった。ということ。
「明日、俺たちは勝てるんでしょうか…」
レッスン最終日の帰り道、俺と北斗は一緒に帰路についていた。
不安そうにしている北斗を気に掛けて、黒斗が俺に一緒に帰るよう気を配ったんだけど、案の定始まってもいない戦いに震えている。
「さぁねー、まぁみんな確実に上達はしてるしさ。俺はTrickstarに票いれるけど、あとは他の周りの人次第。そもそも、黒斗が観客として混ざらないみたいだからその分肩入れして票をいれる人が減るし。」
「そう、ですよね。」
「ちなみにほっちゃんは、勝つ気でいるの?」
「え」
ちょっと先を歩く北斗の顔を覗き込み問いかけると、不意の俺の行動になのかそれとも質問になのか目を丸くする北斗。この呼び方をするといっつも目を泳がされるんだよなー。
「絶対勝とうとはみんなの前で言ってたけど、内心は勝てたら良いなってちょっと不安…だ」
足を止めて喋る北斗の声はいつもより小さい。
難しく考えすぎなんだと思うんだけど。
「北斗七星は専門学者じゃなくても見つけやすい星じゃん。あとほら、有名でしょ?」
「は?」
「その名前を持つ北斗ならきっとみんなから愛されるから大丈夫。良いところ、アイドルとしての魅力。一般人でもきっと見つけてくれるからさ」
「待て。意味が…」
わからないかな?俺のこの感覚だけで喋る癖が悪いのか。言いたいことだけでも伝われば良いんだけど。
「まぁ、つまり、見つけてもらう気で歌って、勝つ気でやらなきゃ意味ないよってこと」
正直、俺も一アイドルとして考えたけれどあまり勝ち負けにはこだわりたくない。もちろん今の現状に納得いってないから革命は起きてほしいけど、でもそれ以前にアイドルを楽しめないのは苦痛だと思う。誰しも好きなようにできる事じゃないからなおさら。
「黒斗も応援してるし、せっかく曲も作ってくれたんだしさ?あとほら、一週間ご飯も用意してくれてたでしょ?」
黒斗はこの二週間Trickstarのマネージャーかというほどつきっきりだった。プロデューサーである転校生ちゃんを差し置いててきぱきを仕事を成す様はまるでお母さん。ちなみに俺は転校生ちゃんに何をどうプロデューサーとして学べば良いかを黒斗とあの子の間の掲示板係として世話をしていた。
黒斗の住む家が学校から歩いてまもなくのマンションということもあり泊まりがけのまこたんとまおまおにご飯を運ぶこともあった。
「目良先輩は本当に身を粉にさせてまで協力してくれたからな。ちゃんとお礼を言わないと」
「そうだねー?でも黒斗はきっと、礼なんていらない。って態度とると思うよ」
軽く黒斗の物真似をしながらくすくすと笑みを浮かべると、北斗もそれにつられて笑う。
「ふーん、本当に表情柔らかくなったんだね?躍ってる間だけだと思ってたけど」
「あ、あー…それは…ユニット練習に入るまでの一週間の特訓で。あの双子に表情筋を柔らかくしろと」
表情筋、黒斗にもその特訓させた方がいいかもしれない。黒斗は俺と会ったその時から北斗よりさらに無表情だ。軽い笑顔も作り笑いだし、苦笑といっても鼻で笑うかのような微妙な反応しかないし。
「あれでみんなから好かれてるから凄いよなぁー」
「え?誰が?」
「んー、黒斗。ほら、あいつってほんっっと無表情じゃん」
「俺はあまり目良先輩の事知らないが。確かにあまり表情豊かじゃないな。あと、感情もあまり表に出さないし」
「…うーん」
正直北斗から聞いたその情報に納得せざるを得ない。感情を出してくれなかったり無表情なのは誰彼構わずらしく、無愛想なプレゼンターという肩書きを持っているほど。
でもそんな黒斗でも、よく表情をコロコロ変える相手がいる。
なんて噂を聞いたことがある。つまるところ特別な存在だろう。せなたんか…まこたんか…昔馴染みならなくもない話。
「でも、ほんとプレゼンターって伊達じゃないね。凄いご飯美味しかったし」
「そうだな。明日も、俺たちが出番の合間に食べれるもの作ってくれるって言ってたし。おにぎりとか、だと思うが」
「黒斗の作るものなら安心して食べれるよ。カロリー控えめで食バランスも整ってるし!あ、でも満足感を求めるにはちょっと足りないけどな」
それから何度も明日の動きについて北斗が俺に確認してくる。俺はあまりわかってないからなぁ。なんて笑いながら返せば、そんな!なんて驚かれるけど…何、俺にそういう戦術とか期待してたの?
「あ、俺の家…なんか、すみません。結局最後まで送ってもらう形になってしまった」
苦笑いを浮かべながら敷地に入っていく北斗。しっかりしてるように見えてまだ俺より一つ下か。俺にたいして敬語使わないけど!
「んーん、先輩としてそれらしいことしなきゃだろ?あまり気負いすぎんなよ、北斗。」
去り際に頭を撫でてやれば昔のように嬉しそうにされる。その表情が生きてるならまだ大丈夫だな。なんて心のなかで呟く。
「それじゃーおやすみ~」
「あぁ、お休み。明日は、勝ってみせる」
ひらひらと手を振り家を後にする。
勝つ、の一言にだから気負いすぎだなんて言いたかったが、モチベーションを下げないようにこれ以上は何も言わないでおこう。
「早く帰って黒斗のご飯食べよう。そうしよう」
ぽつり呟き夜空を見上げる。
別にこれといった星座や星があるわけでもなく、自然と溜め息を溢す。
と、その直後上を向いたまま進んだのが祟ったのか、目の前の何かに激突する。
「あいたっ!えっ、なに?ごめんなさい!?」
ぶつかったのが人の感触だったことにさらに心拍数が上がり慌てて頭を下げた。
ちょっとしたヘタレかと思うほどどもってしまったけれど致し方なし!
「お前北斗送るのにどんだけ時間かけてんだ」
「えっ、黒斗?」
「もう学院から出て一時間は経ってるぞ。」
ご飯が冷める。その一言と同時に半分頭を下げた状態の俺の手は黒斗に思いきり引かれる。い、痛いんですけどー!
「あまりにも遅いから心配した。なんかあったのか?」
「え、いや…ないよ?」
「…そうか。ならいい。俺は明日ぶっ通しでTrickstarに付くつもりだからさっさと寝たいのにな、お前が帰ってこないから飯が食えない。」
「えー、そんなん一人で食べれば良かったじゃん。」
「それが、真が家に泊まることになったんだよ。だからお前だけ仲間はずれにできないだろ」
仲間はずれ、あぁ…そうか。仲間はずれは嫌いだし。
黒斗に心の中で感謝しながら…ふふふ、なんて笑みを溢すと、気持ち悪と一言。
黒斗に以前言った子供の頃の話も、せなたんに言った仲間はずれの話も、黒斗はちょっとだけ知っている。
俺が黒斗の左目の話をちょっとだけ知っているように。
「今こうして普通なのは、黒斗のお陰かな」
「なんの話か知らねぇけど、お前が五奇人の中の一人になってるんじゃないかってたまに思ったことはあったんだがな。」
「それだけ俺が変ってこと?」
「そういうこと。でも今思えば普通だな。ちょっと情緒不安定なだけで」
鍵を開けながら改めて俺たちの家の前でちょっと前の話をすると、俺が居候し始めた頃のことを思い出す。
親が投げ出すように俺をこの学校にいれ、あわよくば売れたら自分達の稼ぎ手にしようなんて考えてる。というのを黒斗に相談したのが始まり。
一人暮らししたら家賃諸々の口実で親に金渡さなくて済むと思う。という鶴の一声で俺は決心した。とはいえ一人暮らし怖い。というヘタレの俺に更に手を差しのべてくれたのは他でもない黒斗。
あの時親子関係で情緒不安定の俺に優しくしてくれたのは思えば黒斗しかいなかったのかも。なんて
「ただいま~?」
「あっ、黒斗さん!と、蒼空さん」
「真。遅くなって悪い。ほら、蒼空。さっさと手ぇ洗って食べるぞ」
うん、わかった。元気よく返事をして洗面所に向かうと、真がご飯を盛っているのを視界の隅にとらえる。大分黒斗に感化されてるような立ち振舞い。たった数分しか家にいないのに。
「よしよし、明日のためにも一杯食べて寝るか!いっただきまーす!」
「ん、いただきます」
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