彼がステージに上がる時
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8
「今日のハイライト、だねぇ?」
「せなたんのお母さんって、本当せなたんのお母さんだな!」
「普段なら許すけど今の状況見て言ってるなら許さないよぉ?」
「おまっ、えら!助けろ、!」
俺は今、絶賛捕縛中だ。あぁ、捕縛されてる、泉の母親に。
あれがこれでこう、という理由で瀬名家に一週間晩御飯をご馳走してもらう了承を得てかれこれ6日。
もちろん、毎日欠かすことなく後ろから抱きつかれる。普通の家庭なら誰かがやめろよ、と止めてくれるだろう。特に旦那である泉の父親とか。しかし父親も俺に溺愛だから地獄なのだ。後ろから母親ならそれをまとめて抱き締めるのが父親。
「毎日毎日、飽きもせず抱き締めて何が楽しいんだろうねぇ?」
「せなたんも人の事言えないよなー。まこたん追いかけるじゃん。飽きもせず」
「…」
お前ら仲良くしてる暇があるなら助けてくれ。5徹してる俺からしてみれば本当に地獄だ。今日が終わるまであと5時間。あいつらに曲を手渡すのが登校してすぐだとするならあと10時間。
早く、早くしなければ。
「あの、すいません。お手洗い借りても?」
俺が2人に問いかけると満面の笑みでいってらっしゃい、気をつけるのよ?と言われる。まだこういう逃げ道があるだけ泉よりましなんだろうが、気をつけることもないだろ。ここ家だろ。
「蒼空。来い」
自分でも苛ついてるのが周りに伝わるだろうというほどの表情で蒼空を引っ張り泉の部屋に行く。泉の部屋にはパソコンと楽譜を広げるにはちょうどよいデスクがある。この一週間、丸々借りている。
隣に蒼空を立たせご飯を頂く直前に踊らせたパートを振り返る。ここの流れがスバルに合っているなら次の流れが別の誰か。
「4人にすればいいんじゃないかな?俺はそれがいいと思う」
「…あー、それがあるな。ありがとう」
ちらりと蒼空を見ればいつの間にか俺の真横から楽譜を見てアドバイスをする。
ふっふーんとドヤ顔を披露する蒼空をよしよしと撫でてやると嬉しそうに笑みを浮かべた。こいつは本当にへんなところで子供っぽすぎる。
「黒斗?はい、うちの両親からぁ。今日でお泊まり最後だから、良かったら食べてだってさぁ?もう、最後ってわかってるなら、さっきも早く黒斗を解放すればいいのにねぇ」
先程引っ張ってこなかった泉が溜め息を吐きながら部屋に入ってくる。ジュースと菓子を持ってきてくれたようだ。その中にはまさかのエネルギードリンクも混ざっている。
「まぁ、またしばらく泊まることないと思えば、思う存分ハグさせてやってもいいんだけどな」
「本当、黒斗って昔と変わらないねぇ」
「黒斗は昔から自己犠牲するっていうの聞いたことあるけど、些細なことも割りとすぐ承諾しちゃうよなー?」
「別に犠牲って訳じゃないっての。俺がやりたいことしてるだけだ」
「まぁ、そんな黒斗に俺は助かってるから、いっぱいありがとう!って感じだけどな!」
「俺も黒斗の性格には呆れることもあるけどさぁ、ありがたい時はあるよ?」
「え、なんだよ。2人して、気持ち悪い」
改めて礼を言われるのは少々不馴れだ。今までやってきたことは礼を言われる以前に当たり前の事だと思っていて、礼を言われるようなことではないと考えていたからだ。
犠牲になってない、という考えも本心なのだが泉に関しては過剰に念を押してくる。次は死んじゃうんじゃないの?なんて縁起でもないことを言うのだからそれだけ俺が色んな事に首を突っ込んでいるということなのだろう。
「今はそこまで過激なファンもいないだろ…?」
簡易テーブルに置いた菓子を取ろうと俺が振り返りながら呟くと泉は完全に緊迫したような表情になっていた。
そういえば、あの事件に関することは俺に申し訳ないと思ってるんだからあまり言わない方がいいのか…気にしてんだろうな。
「これ、貰っていい?」
俺が取ろうとしたなんかいかにも有名店の和菓子をひょいと横から取り上げ泉に確認する蒼空。
横取りされたことに一瞬いらっとくるも、蒼空は相変わらず他人の空気を読むのがうまいよなぁ。なんて感心する。俺も察知するのはうまいと言われるし自負してるが、かといって話題を明るい方に持っていくのが苦手だ。
泉には申し訳ないが、ここは蒼空に任せて俺は仕上げに入る。
「黒斗も、なんか必要なことあったら言ってな?踊るなり歌うなりするからさ」
そんな蒼空の言葉を半分程聞き取り後ろに手を振る。
蒼空が泉と話をしているのはもう生活音にしか聞こえなくなり、さらに集中すればもう何も聞こえない。正確には自分の頭の中で流れる曲しか聞こえない。
「…ん、んー」
実際曲を書き始めてから6日間、見積もって一週間しかなく急げ急げと思っていたがここまで時間の流れが早いとは思ってなかった。今までも慌ただしく曲を仕上げたことはあったが正直5,6曲も作ることはなかったからなおさらなんだろう。
「青春…!」
「青春ねぇ?」
「どうだろうなぁ」
出来上がった曲を二人に読ませ、感想を聞く。普段は蒼空以外にこういうことはしないのだが、せっかくせなたんもいるのに。という蒼空のわがままに応えた。
「まぁ、俺達より見るからに爽やかなガキみたいなユニットだしいいんじゃない?」
「ガキって…」
「俺はこういうの好きだよ?夢を追いかけてこそ青春!学生!俺歌う!」
目を輝かせた蒼空は瞬く間に椅子の上に立ち上がり歌い始める。
蒼空は没になった歌も全部歌ってくれる。俺の作る曲が好きなんだと言ってくれた時は嬉しさが込み上げた。
楽譜を全部コピーしてファイルにはさめてると知った時は引いた。嬉しいけどな。
「どうだろう。歌ってみて高音すぎるとかはないだろ?」
「俺は曲に問題ないと思うよ!あとは4人のそれぞれの声帯と技術だよな。すばりゅんは大丈夫だし、まおまおも問題無さそう、後はまこたんとほっちゃんだな!」
「いい加減あいつの名前まともに呼んでやれ、馬鹿」
「俺は別にぃ…あれの仲間になってるつもりはないからさぁ」
満場一致、というにはしっくりこないが出来上がった曲を細かい所まで再確認しデータに容れていく。前日までに出来上がっていたものは既に曲として出来上がっている。
「あれ?黒斗、作詞作曲はわかるけど、試しのこれ…誰歌ってんのぉ?」
パソコンから流れる曲に身を乗り出して不思議に思う泉。珍しく興味を示しているようだ。流れているのは、音声の入った曲。つまりカラオケではない曲。素人のあいつらの為にあらかじめ歌ったものを渡すつもりだ。
作詞作曲、それはまぁ音源をどうしたとかは一家丸々芸能界に関わっている俺なら苦労はしないということは周知の事実だ。
「え?せなたん声でわかんない?」
「はぁ?どういう意味。一人は多分みやくん…だよねぇ?」
へへーん、と隠し事をしているのが嬉しいのか、それとも泉より何かを知っていることが嬉しいのか絶えず笑顔の蒼空。
ちょっとしたことですぐ得意気になる蒼空に溜め息を吐くと泉がしびれを切らして俺を睨む。
「それ…俺だよ。」
「は?」
睨んでいたのが嘘のように目を丸くする泉は、なんせ近い。さっき身を乗り出したのもあるが、あまりくっついたりするのが嫌いな泉からしてみれば珍しい。
泉がまじまじとこちらを見るものだから俺もちらりと横目に見れば驚き、というより信じてもらえていない視線を送られる。
「黒斗の歌声、久しぶりに聞いた。こんな声してたっけぇ」
「そうだっけか?」
「だって仕事はモデルばかりだったし。…そう考えたら何で黒斗この学科に入ったの?」
泉の問いかけにそういえば、と考える。
瀬名家の両親が泉を守ってくれた俺に何か出来ることはないかと、俺の親は俺を芸能界に入れたいという話をするとこの学院に入らせてくれた、まぁつまり学院でかかる金額の援助だ。つっても当然、全額とまではいかないが…。
泉が借りだといっているあの事件はもちろん親にとっても借りなのだろう。
この話は泉にさらに重圧を掛けるからと俺と両家の親だけの話。
きっといつかその話を泉にする日は来るだろうが…
「俺にアイドルさせたかったんだろうな、親が。でも、3年経った今でも俺は克服できてねぇから、申し訳ない話だけどな」
「ふぅん…?」
納得したのかしていないのか、泉は適当に返事をする。何か腑に落ちないこともあるのだろう。
「っていうか2人とも、俺に言ってないこととか案外多いよなー?」
蒼空の突然のその言葉に泉と顔をあわせて硬直するしかなかった。
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「今日のハイライト、だねぇ?」
「せなたんのお母さんって、本当せなたんのお母さんだな!」
「普段なら許すけど今の状況見て言ってるなら許さないよぉ?」
「おまっ、えら!助けろ、!」
俺は今、絶賛捕縛中だ。あぁ、捕縛されてる、泉の母親に。
あれがこれでこう、という理由で瀬名家に一週間晩御飯をご馳走してもらう了承を得てかれこれ6日。
もちろん、毎日欠かすことなく後ろから抱きつかれる。普通の家庭なら誰かがやめろよ、と止めてくれるだろう。特に旦那である泉の父親とか。しかし父親も俺に溺愛だから地獄なのだ。後ろから母親ならそれをまとめて抱き締めるのが父親。
「毎日毎日、飽きもせず抱き締めて何が楽しいんだろうねぇ?」
「せなたんも人の事言えないよなー。まこたん追いかけるじゃん。飽きもせず」
「…」
お前ら仲良くしてる暇があるなら助けてくれ。5徹してる俺からしてみれば本当に地獄だ。今日が終わるまであと5時間。あいつらに曲を手渡すのが登校してすぐだとするならあと10時間。
早く、早くしなければ。
「あの、すいません。お手洗い借りても?」
俺が2人に問いかけると満面の笑みでいってらっしゃい、気をつけるのよ?と言われる。まだこういう逃げ道があるだけ泉よりましなんだろうが、気をつけることもないだろ。ここ家だろ。
「蒼空。来い」
自分でも苛ついてるのが周りに伝わるだろうというほどの表情で蒼空を引っ張り泉の部屋に行く。泉の部屋にはパソコンと楽譜を広げるにはちょうどよいデスクがある。この一週間、丸々借りている。
隣に蒼空を立たせご飯を頂く直前に踊らせたパートを振り返る。ここの流れがスバルに合っているなら次の流れが別の誰か。
「4人にすればいいんじゃないかな?俺はそれがいいと思う」
「…あー、それがあるな。ありがとう」
ちらりと蒼空を見ればいつの間にか俺の真横から楽譜を見てアドバイスをする。
ふっふーんとドヤ顔を披露する蒼空をよしよしと撫でてやると嬉しそうに笑みを浮かべた。こいつは本当にへんなところで子供っぽすぎる。
「黒斗?はい、うちの両親からぁ。今日でお泊まり最後だから、良かったら食べてだってさぁ?もう、最後ってわかってるなら、さっきも早く黒斗を解放すればいいのにねぇ」
先程引っ張ってこなかった泉が溜め息を吐きながら部屋に入ってくる。ジュースと菓子を持ってきてくれたようだ。その中にはまさかのエネルギードリンクも混ざっている。
「まぁ、またしばらく泊まることないと思えば、思う存分ハグさせてやってもいいんだけどな」
「本当、黒斗って昔と変わらないねぇ」
「黒斗は昔から自己犠牲するっていうの聞いたことあるけど、些細なことも割りとすぐ承諾しちゃうよなー?」
「別に犠牲って訳じゃないっての。俺がやりたいことしてるだけだ」
「まぁ、そんな黒斗に俺は助かってるから、いっぱいありがとう!って感じだけどな!」
「俺も黒斗の性格には呆れることもあるけどさぁ、ありがたい時はあるよ?」
「え、なんだよ。2人して、気持ち悪い」
改めて礼を言われるのは少々不馴れだ。今までやってきたことは礼を言われる以前に当たり前の事だと思っていて、礼を言われるようなことではないと考えていたからだ。
犠牲になってない、という考えも本心なのだが泉に関しては過剰に念を押してくる。次は死んじゃうんじゃないの?なんて縁起でもないことを言うのだからそれだけ俺が色んな事に首を突っ込んでいるということなのだろう。
「今はそこまで過激なファンもいないだろ…?」
簡易テーブルに置いた菓子を取ろうと俺が振り返りながら呟くと泉は完全に緊迫したような表情になっていた。
そういえば、あの事件に関することは俺に申し訳ないと思ってるんだからあまり言わない方がいいのか…気にしてんだろうな。
「これ、貰っていい?」
俺が取ろうとしたなんかいかにも有名店の和菓子をひょいと横から取り上げ泉に確認する蒼空。
横取りされたことに一瞬いらっとくるも、蒼空は相変わらず他人の空気を読むのがうまいよなぁ。なんて感心する。俺も察知するのはうまいと言われるし自負してるが、かといって話題を明るい方に持っていくのが苦手だ。
泉には申し訳ないが、ここは蒼空に任せて俺は仕上げに入る。
「黒斗も、なんか必要なことあったら言ってな?踊るなり歌うなりするからさ」
そんな蒼空の言葉を半分程聞き取り後ろに手を振る。
蒼空が泉と話をしているのはもう生活音にしか聞こえなくなり、さらに集中すればもう何も聞こえない。正確には自分の頭の中で流れる曲しか聞こえない。
「…ん、んー」
実際曲を書き始めてから6日間、見積もって一週間しかなく急げ急げと思っていたがここまで時間の流れが早いとは思ってなかった。今までも慌ただしく曲を仕上げたことはあったが正直5,6曲も作ることはなかったからなおさらなんだろう。
「青春…!」
「青春ねぇ?」
「どうだろうなぁ」
出来上がった曲を二人に読ませ、感想を聞く。普段は蒼空以外にこういうことはしないのだが、せっかくせなたんもいるのに。という蒼空のわがままに応えた。
「まぁ、俺達より見るからに爽やかなガキみたいなユニットだしいいんじゃない?」
「ガキって…」
「俺はこういうの好きだよ?夢を追いかけてこそ青春!学生!俺歌う!」
目を輝かせた蒼空は瞬く間に椅子の上に立ち上がり歌い始める。
蒼空は没になった歌も全部歌ってくれる。俺の作る曲が好きなんだと言ってくれた時は嬉しさが込み上げた。
楽譜を全部コピーしてファイルにはさめてると知った時は引いた。嬉しいけどな。
「どうだろう。歌ってみて高音すぎるとかはないだろ?」
「俺は曲に問題ないと思うよ!あとは4人のそれぞれの声帯と技術だよな。すばりゅんは大丈夫だし、まおまおも問題無さそう、後はまこたんとほっちゃんだな!」
「いい加減あいつの名前まともに呼んでやれ、馬鹿」
「俺は別にぃ…あれの仲間になってるつもりはないからさぁ」
満場一致、というにはしっくりこないが出来上がった曲を細かい所まで再確認しデータに容れていく。前日までに出来上がっていたものは既に曲として出来上がっている。
「あれ?黒斗、作詞作曲はわかるけど、試しのこれ…誰歌ってんのぉ?」
パソコンから流れる曲に身を乗り出して不思議に思う泉。珍しく興味を示しているようだ。流れているのは、音声の入った曲。つまりカラオケではない曲。素人のあいつらの為にあらかじめ歌ったものを渡すつもりだ。
作詞作曲、それはまぁ音源をどうしたとかは一家丸々芸能界に関わっている俺なら苦労はしないということは周知の事実だ。
「え?せなたん声でわかんない?」
「はぁ?どういう意味。一人は多分みやくん…だよねぇ?」
へへーん、と隠し事をしているのが嬉しいのか、それとも泉より何かを知っていることが嬉しいのか絶えず笑顔の蒼空。
ちょっとしたことですぐ得意気になる蒼空に溜め息を吐くと泉がしびれを切らして俺を睨む。
「それ…俺だよ。」
「は?」
睨んでいたのが嘘のように目を丸くする泉は、なんせ近い。さっき身を乗り出したのもあるが、あまりくっついたりするのが嫌いな泉からしてみれば珍しい。
泉がまじまじとこちらを見るものだから俺もちらりと横目に見れば驚き、というより信じてもらえていない視線を送られる。
「黒斗の歌声、久しぶりに聞いた。こんな声してたっけぇ」
「そうだっけか?」
「だって仕事はモデルばかりだったし。…そう考えたら何で黒斗この学科に入ったの?」
泉の問いかけにそういえば、と考える。
瀬名家の両親が泉を守ってくれた俺に何か出来ることはないかと、俺の親は俺を芸能界に入れたいという話をするとこの学院に入らせてくれた、まぁつまり学院でかかる金額の援助だ。つっても当然、全額とまではいかないが…。
泉が借りだといっているあの事件はもちろん親にとっても借りなのだろう。
この話は泉にさらに重圧を掛けるからと俺と両家の親だけの話。
きっといつかその話を泉にする日は来るだろうが…
「俺にアイドルさせたかったんだろうな、親が。でも、3年経った今でも俺は克服できてねぇから、申し訳ない話だけどな」
「ふぅん…?」
納得したのかしていないのか、泉は適当に返事をする。何か腑に落ちないこともあるのだろう。
「っていうか2人とも、俺に言ってないこととか案外多いよなー?」
蒼空の突然のその言葉に泉と顔をあわせて硬直するしかなかった。
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