彼がステージに上がる時
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7
はっきり言ってしまえばあまりにも面倒見が良すぎる。そんなんじゃ周りが自立しなくなっちゃうんじゃないの。
「黒斗。まだそんなことするつもり?」
「おー」
絶対まともに聞いてない。あの王様よりずっとまともだけど、ステージに上がらない分作曲するからそれはもうそっちが本職になってるんじゃないのってくらい真剣になる。
とはいえ、さっきの一時間と違い今は自習時間でもなんでもないし見つかれば怒られる。まぁ、うちの学校は作曲してる奴も多々いるし、そこまで厳しく言われることはないけど…なんたって今はあのとてつもなく厳しい教師の授業。俺がわざわざ後ろを向いてまで止めてるのに。
「…あ、詰まっ…た」
才能はあるけど王様ほどすらすらいかないみたい。生まれながらの天才と、努力した天才はやっぱり格が違う。
「放課後とか時間あるでしょぉ?今はやめたら…?」
黒斗の呟きに今は諦めさせようと振り返った途端。
「何こそこそと喋ってるんですか?」
「うわぁ」
いつの間にか俺の前に立っている例の教師。なんてタイミングで来るわけぇ?
でも俺は悪くないし。授業は真面目に受けてるし。
「黒斗が…」
と、黒斗を犠牲にしようと視線を机にやると、先ほどまで広げていた五線譜のノートが忽然と姿を消している。
「はぁ?ちょっと…」
「椚先生、泉の事よりその横の蒼空をどうにかした方がいいと思いますよ。」
何食わぬ顔で俺を庇うようにみやくんの方へ促す黒斗。当のみやくんはというと、爆睡。
「星宮くん。あなた帰ってきたばかりだからとはいえ多目には見れませんよ!」
何度目だと言わんばかりに声をあげた椚先生から目を逸らし黒斗を見る。無表情で親指を立てるものだから正直腹立つ。誰のせいだと思ってんの?
長々と説教されるみやくんのおかげで残り数分しかなかった授業が潰れた。
実際は残念なことに椚先生が担任だからHRまで差し掛かったわけだけど。
「あーもー、寝てた以外の事も怒られたじゃーん」
「それは普段の行いが悪いからでしょぉ?それよりさぁみやくん、黒斗はなんでぶっ通しで曲作ってんの?」
「新曲予定はないけど…、もしかしてTrickstarだったり?ねぇ黒斗。」
黒斗が聞いてないからみやくんに尋ねたのに、みやくんが黒斗に尋ねたら本末転倒。
でもTrickstarにちょっと手を貸すだけじゃなく、わざわざ曲を作るなんて。
どうしてそこまで面倒を見ているのか全くわからない。
「自分に得はないんじゃないの?」
「でも黒斗のやることは良いことだと思うよ。あいつらにできない所を補って、見本を見せてるんだから。自分がどこまで見せるかはちゃんと見極めてるし。…ちなみに俺に料理を教えるときもそうだし!」
結果、得のないことをしてばかり。
俺のためのその目も、黒斗に得はなかった。生涯ずっと損でしかないのに。
「黒斗って本当、ちょ~馬鹿」
そう悪態をついても反応しない黒斗を見て、もう俺ばかりに構ってくれる黒斗じゃないんだねぇ。なんて痛感する。
中学まではいっつも2人でいて、高校1年の時も一緒のユニットに入るとかなんとかって話をしてて、でもみやくんと仲良くなってからは手のかかるみやくんを構うことが多くなった。
「別に気にしてないけどさぁ」
「どしたの?せなたん。一人で喋り出しちゃう系…?」
「何その本気で痛いものを見るような目は!ちょ~むかつく!」
「だってー。あ、そうだ、今日俺ご飯作らなきゃな。黒斗がこうってことは作る人いないから」
「はぁ?みやくんの壊滅的なご飯を!?」
以前、黒斗が体調不良でご飯当番を変わった時に黒斗の弁当もろとも悲惨なものになったことがある。
味はもちろんのこと、見た目も鮮やかとはとても言えないし。
それが晩御飯になるとかお腹痛くして寝れなくなったらどうするわけ?
「ちょ、壊滅的って!俺だってあれから成長してるんだから!」
「なんなら俺の家来てでもいいからちゃんと健康なもの食べてよねぇ?2人とも体調管理は大事でしょぉ?」
「え、泉の家?」
急に声をかけてきた黒斗。
あ、そういえばうちの親苦手なんだっけ?かなり、好かれ過ぎてて。
「言っちゃ悪いけど、泉の母さんって真を見つけたときの泉みたいで苦手」
「ちょっと待ってそれどういう意味ぃ!?」
「血は争えないってことだよ、せなたん?」
うざい!みやくんに満面の笑みで言われるのがすごく嫌!こういう時だけ順応力高いのどうにかならないの?
でも黒斗にはもちろん、アイドルであるみやくんにもちゃんとしたご飯を食べさせないと、家で2人ともご飯中に死亡なんて事あったら!
「なんかせなたんひどいこと考えてない?俺のご飯の事だよね?ね!」
「まぁ、蒼空の飯は食べ物じゃないのは確かだ」
「えぇ!?いつも教えてくれる側がそんなこと言ったら心折れるんだけど!」
「にしても、泉…。俺はこの一週間で曲を…えっと、1…2…3、4…5曲くらいは作らなきゃならないんだが、一週間ずっと家に邪魔するのは悪いだろ。」
「ちょっと待って、一週間で5曲?王様ならその倍はわかるけど、黒斗が?」
「せなたーん。黒斗は努力して天才になったんじゃないからね?黒斗は努力の天才なの!俺も手伝うよ。歌えばいい?弾けばいい?踊ればいい?」
自信満々に胸を張り仲間を誇るみやくん。俺の知らない事を知ってる。まぁそりゃぁ、1年の中間から一緒に住んでたらそうもなるかぁ。
「一週間くらい誰かが居候するのは別に困らないけどぉ、特に黒斗なら歓迎されるし。黒斗が一週間うちで暮らして耐えれるかどうかだよねぇ」
「ちゃんとした食べ物が食べれるなら耐える」
「ねぇ俺のご飯をどれだけ馬鹿にするの!?」
「お前の家って割りと立派だろ?音漏れとかないよな?曲作りだからさ。もし嫌だったら本当飯食いにだけ行く」
「逆にものすごく傲慢に聞こえるんだけどぉ。俺がアイドルだから当たり前だけど、うちの親は曲作りでうるさくされたりするのは気にしない派」
「なら踊ってもいいのー?」
「まぁ。それなりに。」
「助かる、もし今日明日で出てってくれってなったらおとなしく出てくから。ごめんな」
苦笑いを浮かべる黒斗に、別にぃ。と返事をし俺はレッスンに向かう。どうせ俺が終わるまで教室で曲作りするだろうから。後々合流して家に招こう。
別に、黒斗が謝ることは何もない。
「俺は黒斗に返せないほどの借りがあるって言ったでしょぉ?」
廊下で一人そう呟く。
黒斗の左目、それが俺の借り。黒斗の人生を変えた原因でもある。
「返せないほどの借り?」
「わっ!?」
いつの間にか隣にいるみやくん。
え、黒斗と一緒にいたんじゃなかったっけ?
「俺だけ仲間はずれは嫌なんだよ。黒斗には待ってるなんて言ったけどやっぱり気になってな」
ふふん、と軽快に笑みを溢せば、これの事。と自分の左目を指さす。つまり黒斗の左目の話だろう。
みやくんこんな性格悪かったんだ。というよりは、いつものみやくんと違う雰囲気。という方が正しい。
「…それを知ってみやくんに得があるわけ?」
「得かどうかはわからない。でも仲間はずれが嫌いなだけだ。毎回毎回聞きそびれるけどそれでも黒斗が話そうとしてくれるのは、俺を仲間はずれにしないため」
「仲間、はずれ?」
「黒斗のトラウマが左目なら、俺のトラウマは仲間はずれ…一人になること。」
「…、みやくんは黒斗の仲間でしょ?待ってあげた方がいいんじゃないのぉ?」
俺の前に仁王立ちになるみやくんはまるで言わなければここから先は通さないとでも言い出しそう。しかし俺が黒斗の名前を出すと、一度眉間に深く皺を作った後に苦笑いを浮かべる。
「…あいつの友人ってだけあるか…まぁ聞けたらラッキーって程度で聞いてみただけだしな。」
別にいいや、とでも言いたげに肩を竦め俺の横を通り過ぎていく。去り際にレッスン頑張れ。なんて言って教室に戻っていくみやくん。
「みやくんって、あんな喋り方じゃ…」
なんて俺の呟きは誰に拾われることもなく廊下に響いた。
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はっきり言ってしまえばあまりにも面倒見が良すぎる。そんなんじゃ周りが自立しなくなっちゃうんじゃないの。
「黒斗。まだそんなことするつもり?」
「おー」
絶対まともに聞いてない。あの王様よりずっとまともだけど、ステージに上がらない分作曲するからそれはもうそっちが本職になってるんじゃないのってくらい真剣になる。
とはいえ、さっきの一時間と違い今は自習時間でもなんでもないし見つかれば怒られる。まぁ、うちの学校は作曲してる奴も多々いるし、そこまで厳しく言われることはないけど…なんたって今はあのとてつもなく厳しい教師の授業。俺がわざわざ後ろを向いてまで止めてるのに。
「…あ、詰まっ…た」
才能はあるけど王様ほどすらすらいかないみたい。生まれながらの天才と、努力した天才はやっぱり格が違う。
「放課後とか時間あるでしょぉ?今はやめたら…?」
黒斗の呟きに今は諦めさせようと振り返った途端。
「何こそこそと喋ってるんですか?」
「うわぁ」
いつの間にか俺の前に立っている例の教師。なんてタイミングで来るわけぇ?
でも俺は悪くないし。授業は真面目に受けてるし。
「黒斗が…」
と、黒斗を犠牲にしようと視線を机にやると、先ほどまで広げていた五線譜のノートが忽然と姿を消している。
「はぁ?ちょっと…」
「椚先生、泉の事よりその横の蒼空をどうにかした方がいいと思いますよ。」
何食わぬ顔で俺を庇うようにみやくんの方へ促す黒斗。当のみやくんはというと、爆睡。
「星宮くん。あなた帰ってきたばかりだからとはいえ多目には見れませんよ!」
何度目だと言わんばかりに声をあげた椚先生から目を逸らし黒斗を見る。無表情で親指を立てるものだから正直腹立つ。誰のせいだと思ってんの?
長々と説教されるみやくんのおかげで残り数分しかなかった授業が潰れた。
実際は残念なことに椚先生が担任だからHRまで差し掛かったわけだけど。
「あーもー、寝てた以外の事も怒られたじゃーん」
「それは普段の行いが悪いからでしょぉ?それよりさぁみやくん、黒斗はなんでぶっ通しで曲作ってんの?」
「新曲予定はないけど…、もしかしてTrickstarだったり?ねぇ黒斗。」
黒斗が聞いてないからみやくんに尋ねたのに、みやくんが黒斗に尋ねたら本末転倒。
でもTrickstarにちょっと手を貸すだけじゃなく、わざわざ曲を作るなんて。
どうしてそこまで面倒を見ているのか全くわからない。
「自分に得はないんじゃないの?」
「でも黒斗のやることは良いことだと思うよ。あいつらにできない所を補って、見本を見せてるんだから。自分がどこまで見せるかはちゃんと見極めてるし。…ちなみに俺に料理を教えるときもそうだし!」
結果、得のないことをしてばかり。
俺のためのその目も、黒斗に得はなかった。生涯ずっと損でしかないのに。
「黒斗って本当、ちょ~馬鹿」
そう悪態をついても反応しない黒斗を見て、もう俺ばかりに構ってくれる黒斗じゃないんだねぇ。なんて痛感する。
中学まではいっつも2人でいて、高校1年の時も一緒のユニットに入るとかなんとかって話をしてて、でもみやくんと仲良くなってからは手のかかるみやくんを構うことが多くなった。
「別に気にしてないけどさぁ」
「どしたの?せなたん。一人で喋り出しちゃう系…?」
「何その本気で痛いものを見るような目は!ちょ~むかつく!」
「だってー。あ、そうだ、今日俺ご飯作らなきゃな。黒斗がこうってことは作る人いないから」
「はぁ?みやくんの壊滅的なご飯を!?」
以前、黒斗が体調不良でご飯当番を変わった時に黒斗の弁当もろとも悲惨なものになったことがある。
味はもちろんのこと、見た目も鮮やかとはとても言えないし。
それが晩御飯になるとかお腹痛くして寝れなくなったらどうするわけ?
「ちょ、壊滅的って!俺だってあれから成長してるんだから!」
「なんなら俺の家来てでもいいからちゃんと健康なもの食べてよねぇ?2人とも体調管理は大事でしょぉ?」
「え、泉の家?」
急に声をかけてきた黒斗。
あ、そういえばうちの親苦手なんだっけ?かなり、好かれ過ぎてて。
「言っちゃ悪いけど、泉の母さんって真を見つけたときの泉みたいで苦手」
「ちょっと待ってそれどういう意味ぃ!?」
「血は争えないってことだよ、せなたん?」
うざい!みやくんに満面の笑みで言われるのがすごく嫌!こういう時だけ順応力高いのどうにかならないの?
でも黒斗にはもちろん、アイドルであるみやくんにもちゃんとしたご飯を食べさせないと、家で2人ともご飯中に死亡なんて事あったら!
「なんかせなたんひどいこと考えてない?俺のご飯の事だよね?ね!」
「まぁ、蒼空の飯は食べ物じゃないのは確かだ」
「えぇ!?いつも教えてくれる側がそんなこと言ったら心折れるんだけど!」
「にしても、泉…。俺はこの一週間で曲を…えっと、1…2…3、4…5曲くらいは作らなきゃならないんだが、一週間ずっと家に邪魔するのは悪いだろ。」
「ちょっと待って、一週間で5曲?王様ならその倍はわかるけど、黒斗が?」
「せなたーん。黒斗は努力して天才になったんじゃないからね?黒斗は努力の天才なの!俺も手伝うよ。歌えばいい?弾けばいい?踊ればいい?」
自信満々に胸を張り仲間を誇るみやくん。俺の知らない事を知ってる。まぁそりゃぁ、1年の中間から一緒に住んでたらそうもなるかぁ。
「一週間くらい誰かが居候するのは別に困らないけどぉ、特に黒斗なら歓迎されるし。黒斗が一週間うちで暮らして耐えれるかどうかだよねぇ」
「ちゃんとした食べ物が食べれるなら耐える」
「ねぇ俺のご飯をどれだけ馬鹿にするの!?」
「お前の家って割りと立派だろ?音漏れとかないよな?曲作りだからさ。もし嫌だったら本当飯食いにだけ行く」
「逆にものすごく傲慢に聞こえるんだけどぉ。俺がアイドルだから当たり前だけど、うちの親は曲作りでうるさくされたりするのは気にしない派」
「なら踊ってもいいのー?」
「まぁ。それなりに。」
「助かる、もし今日明日で出てってくれってなったらおとなしく出てくから。ごめんな」
苦笑いを浮かべる黒斗に、別にぃ。と返事をし俺はレッスンに向かう。どうせ俺が終わるまで教室で曲作りするだろうから。後々合流して家に招こう。
別に、黒斗が謝ることは何もない。
「俺は黒斗に返せないほどの借りがあるって言ったでしょぉ?」
廊下で一人そう呟く。
黒斗の左目、それが俺の借り。黒斗の人生を変えた原因でもある。
「返せないほどの借り?」
「わっ!?」
いつの間にか隣にいるみやくん。
え、黒斗と一緒にいたんじゃなかったっけ?
「俺だけ仲間はずれは嫌なんだよ。黒斗には待ってるなんて言ったけどやっぱり気になってな」
ふふん、と軽快に笑みを溢せば、これの事。と自分の左目を指さす。つまり黒斗の左目の話だろう。
みやくんこんな性格悪かったんだ。というよりは、いつものみやくんと違う雰囲気。という方が正しい。
「…それを知ってみやくんに得があるわけ?」
「得かどうかはわからない。でも仲間はずれが嫌いなだけだ。毎回毎回聞きそびれるけどそれでも黒斗が話そうとしてくれるのは、俺を仲間はずれにしないため」
「仲間、はずれ?」
「黒斗のトラウマが左目なら、俺のトラウマは仲間はずれ…一人になること。」
「…、みやくんは黒斗の仲間でしょ?待ってあげた方がいいんじゃないのぉ?」
俺の前に仁王立ちになるみやくんはまるで言わなければここから先は通さないとでも言い出しそう。しかし俺が黒斗の名前を出すと、一度眉間に深く皺を作った後に苦笑いを浮かべる。
「…あいつの友人ってだけあるか…まぁ聞けたらラッキーって程度で聞いてみただけだしな。」
別にいいや、とでも言いたげに肩を竦め俺の横を通り過ぎていく。去り際にレッスン頑張れ。なんて言って教室に戻っていくみやくん。
「みやくんって、あんな喋り方じゃ…」
なんて俺の呟きは誰に拾われることもなく廊下に響いた。
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