フルーレくん
『フルーレ♪』
「あ、主様…近いです」
『今はふたりだし…私はもっとフルーレの顔見たいんだけどなあ』
「……す、少しだけですからね」
『ありがとうフルーレ大好き』
ぎゅっと最愛の彼に抱き着く。
執事と主として出会った私達だが、日々時間を共有して過ごしていくうちに互いに惹かれあい、今となってはふたりきりの時間を作っては我慢していた分愛を育んでいる。
「あ、主様は…なんで俺を選んでくれたんですか…?」
唐突にフルーレが顔を背けながらそんなことを聞いてくる。
思わずきょとんと呆けた顔でフルーレを見つめると、チラッとこちらを見たフルーレと目がばっちり合った。
『…ふふ、内緒。教えてあげない』
「え…!そんな、酷いです主様」
『フルーレが教えてくれたら私も話すよ?』
「…っ!」
私が悪戯っぽく笑うと顔を真っ赤にして困ったように眉を下げるフルーレ。
悩んだ末に少し息を吐いてからぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。
「お、俺は…一目ぼれです…」
『え?』
「……初めて主様を見た時から、俺は主様のお姿に惹かれて………少しずつ主様を知っていくうちに主様が自分を持った強いお方だと知り、今まで俺を見てきた女性とは違う人なのだと実感してからもう抑えられませんでした」
最初は照れくさそうに話すフルーレだが、徐々にこちらに視線を向けては、最後いつもと違う真剣なまなざしで私を見据えた。肉食獣に見られているようなそんな堂々たる顔つきに思わず私は息を飲みこんだ。
「他の誰にも渡したくはありません。俺にはもう主様以外の女性になびくことはありません。これから俺ももっと努力します。ひとりの男として主様を守れるくらいに強くなり、主様に好いてもらえるように自分も磨きます。もちろん、主様をより引き立たせる衣装も作りますね」
最後には柔らかく笑う彼の姿に私の顔から火が噴いて彼の胸元に顔をうずめた。
耳まで赤くなっている私の姿を見たフルーレもようやく自分が饒舌に話していたことに気づいて私と同じくらいに顔を赤くして何か言おうと言葉を探している。
「えっと……だから………その……」
『もう……私よりかっこいいこというなんて…フルーレのばか…』
「え…あ、主様…」
顔をばっとあげてフルーレの襟元を引っ張る。
「ちょ…!」
強引に彼の唇に自分の唇と重ねる。フルーレの柔らかい唇と、彼から香る柔らかい香り。視界を閉ざしている今それしかわからない。
かすかにわかるのは動揺しているフルーレの身体が強張っていることくらい。
「ふは…っな、なにして…」
『…私は…私はフルーレの大好きなところ…もっとあるんだから…』
「ふふ…なんですか、それ。ラトみたいなこと言って…」
『いつも…私がここにきてから…私のために全力なところとか…私を想って誰よりも気遣ってくれて…私のこと考えながら衣装作っているときの真剣だけど時々穏やかに微笑むところとか…知ってるんだから…』
「そ、それは…!」
今日も、屋敷の一室でお互いに顔を真っ赤にしながら愛を育む執事と主。
お互いを想う気持ちを形作りながら、お互いのペースで歩き出したふたりは、顔を見合わせて今日も笑う。
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