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ハウレスくん






手が離れた瞬間にハウレスが見えなくなっていく。花火の時間が近づくにつれて急ぐ人が増えて波が激しくなってきている。
なんとか波から抜け出して脇道に出る。



『はぁ…!とりあえず…何かに巻き込まれないようにじっとしとこう…』



目的の場所に行ってからハウレスと合流することも考えたが、人が多すぎて見つかる気がしないので、ハウレスが私がいないことに気づいて戻ってきてくれることを祈ることにした。



『…ハウレスがいないだけで寂しい』















「主様…!!主様…!!!」


息を切らして人をかき分ける。絶対に離さないと心に決めていたのにあんなにもたやすく離してしまったことが悔しくて申し訳ない。
波に逆らいながら必死に大切な人を探す。



「あの人に何かあったら俺は…!」



俺を迷惑に思ったのか男が俺を突き飛ばす。
ふらっとバランスを崩しながら端の方へ追いやられた。


「…はぁ、主様。大丈夫だろうか…」


ドーンッ



「しまった…花火が始まってしまった…」



空を見上げると、赤、青、黄色…と色とりどりの花が咲き乱れていた。
どれだけ美しくても隣にあの人がいなければただの光の集まりにしか見えない。



「……」



意を決してもう一度波に突っ込む。



















『花火、始まったみたい…』



ドーンと火薬がはじける音がする。
街の方では建物の隙間から見える程度であまり感動はない。
人がまばらになった祭りには隙間から見える花火を見ながらご飯を食べる人が多い。
人目のつかないところでハウレスを待っているが一向に姿は見えない。
貴族の集まりの時のようにあの美形な顔で女性に言い寄られている姿がふと思いだされた。
ふるふると頭を振ってかき消す。



『…はぁ』



人も減ってきて目的の場所に向かうか迷う。















「ここ辺りにいないのか…街に戻ったのか…?」



花火が始まったことで道中に人はまばらになって見渡せるようになったが主様の姿がない。
花火が見える場所に行ったか街へ戻ったかの二択に少し悩む。
バッと俺は走り出す。

















「主様!!!!」



『……』



「主様!!!いらっしゃいますか!!!」



『……ハウレス…』



「どこだ…どこにいる主様…」



『…やっぱり私とお祭りにきたこと後悔してるかな…』



「主様!!」



『…っ』



「主様…?」



『はうれす…!ハウレス!!!』



私を呼ぶ声に顔を上げると、周りを見渡しているハウレスと目が合った。
私の姿を確認したハウレスが駆け寄ってくる。
思わず私も走り出していた。



『ハウレス!!!ごめん、ごめんね…』


「主様…!ご無事で…ご無事で本当に良かった…!お怪我はありませんか?変な輩に絡まれていませんか?怖くなかったですか?」


『うん…うん…っ!大丈夫…!』


「良かった…本当に…ほんとうに…」



ハウレスが私を抱きしめる。筋肉のついたたくましい腕が私の身体を包み込んで私の寂しさも埋めてくれるようだった。
私もハウレスの背中に精一杯腕をまわして抱きしめ返す。



「主様…手を離してしまって本当に申し訳ございません…主様をひとりにさせてしまって…」


『…ううん、こうやって見つけてくれるって思ってたから…大丈夫。ありがとう、ハウレス』


「……あ、す、すみません…こんな、だきしめてしまって…」


今の状況に気づいたハウレスがバッと身体を離した。


「また…主様が離れて行ってしまうことが…俺、不安で…すみません。大変失礼いたしました…」


いろいろな表情がまじったハウレスの顔を見る。
さっきまで不安で寂しくてどうようもなかった。
でもハウレスの姿を見たら嬉しくて安心した。

でも今は、ハウレスを見てハウレスにだきしめられて、ドキドキしてる。




「…主様?」


喉につっかえている私のこの気持ち。
いつの間にか最後の大きな花火がいままでよりも高い位置で大きく花を咲かせていた。



『…私、ハウレスが好きだよ』



心で育んだハウレスへの気持ち。
今日、今この時に花を咲かせた。大切に大切に育んだ愛情を込めた恋の花。


「主様……っふ、俺も主様が好きです」






私達の恋の花。






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