ハウレスくん
サマーフェスティバル!
あなたを見るとドキドキしてる
「主様…?」
ドーンッ
喉でつっかえている言葉を伝えたい、そう思ったとき最後に打ち上げられた花火が空いっぱいに咲いた。
「フェネス、今日はすまないな」
「いえいえ、ハウレスにも良い気分転換になるでしょ」
「そうなのだが…やはり心配でな」
「そんなこと言ってたら主様が申し訳なく思っちゃうから今日は主様に集中するんだよ」
「ああ……わかってる」
ふと聞こえたフェネスとハウレスの会話。
私は少し開かれた扉から聞こえてくる会話を中のふたりから見えないように壁にもたれかかって聞いていた。
数週間前に、街でお祭りがあることをベリアンから聞いた私はハウレスと行きたくてベリアンにお願いをしてみた。
ベリアンは快く承諾をしてくれてハウレスと一緒に仕事の調節や時間が作れるように動いてくれていた。
ハウレスも「楽しみですね」と笑ってくれてふたりの時間が過ごせることに純粋に喜んでいた。
「はぁ…貴族たちには毎度困らされるな」
「今日に限って依頼を押し付けてくるなんて意図的だよね」
「とりあえず、祭りの警備もしなければならないからナックとベリアンさんに頼もう。ルカスさんは祭りの医療係を外せない」
「ラトくんがいるからミヤジ先生も屋敷にこもっちゃうしね。僕も一応ベリアンさんについていくよ」
「それが良いな。だがそうなると年下組を誰がまとめるか…」
「あ、そうか…うーん……」
そこまで聞いて私はその場を去った。
私の一言でみんなを困らせてしまったことに罪悪感が抑えきれない。これ以上みんなの迷惑になりたくなくて書き置きを残して私は金色の指輪を外した。
「…っ?主様が帰られた?」
「え?主様?」
フェネスと今日の割り振りを考えているとき、自分にそんな感覚が感じられた。
持っているノートから顔を上げて廊下を覗き込む。なにか、嫌な予感がする。
「いってきたら?」
「…フェネス」
俺の心を読んだかのようにフェネスが背中を押す。
ノートを渡して俺は主様のところへ走った。
コンコンッ
「主様、失礼します」
主様の部屋の扉を開けると、窓から入った涼しい風が俺の横を通る。
部屋には主様の姿はなく、風になびいて机に置いてある紙がピラピラと俺に気づいてほしそうに音を出している。
「…手紙」
『これを読んでいる執事へ。
あっちの世界で急用を思い出してしまいました。ハウレスには申し訳ないけど今日の約束には行けなくなったと伝えてください。』
そう紙には書かれていた。何度も何度も書き直したような跡。
ゴミ箱の中にはくしゃくしゃに丸められた紙もあった。何気なくゴミ箱から拾い上げる。
『ハウレス、わがままいって困らせてごめんね。』
書いては消して汚れた紙の端にそう書かれていた。
フェネスとの会話を思い出す。
俺自身、こういうことに気づくのは珍しい気がする。主様が何かを誤解されて俺に気を遣ってくださったことに気づけるなんて。
「主様!!!俺は迷惑だなんて思ったことはありません!!!俺は本当にこの日を楽しみにしておりました!!」
俺は主様の部屋の中央でそう叫んでいた。
主様に聞こえているかわからない。けど声に出して伝えたい。伝わてほしい。その一心で叫んだ。
「主様はもっとわがままを言ってもいいんです!俺がそれをすべて受け止めて見せます!主様に頼ってもらえることが、俺は嬉しいです!」
ッス…
「…!主様」
『…ハウレス』
主様が戻ってこられたことがうれしくて思わず主様の手を握る。もう俺に気を遣って目の前からいなくなってほしくなかった。
まだ迷いがあるのか表情には暗く、少し瞳が揺れ動いてる。
「主様、不安があればぜひ俺にいってください。俺は、主様を迷惑だと思ったことはありませんから必ず主様のおそばに行きます」
『…で、でもそれで仕事に支障が出たら…!』
「大丈夫です。年下の執事達がまだ心配なだけで仕事ができないわけではありませんから。それに、主様とふたりで出かける執事……という立場を他の執事に、渡したくありません…」
『…っ』
「…主様、俺と夏祭りへ行ってくれますか?」
『…うん』
笑顔で返事をする主様の顔を見ていると俺も思わず頬が緩んでしまう。
こんなにも和やかな気持ちでいられるのは主様のまえでだけだ。
「そ、そんなに押したらバランスくずすって…」
「でもでもハウレスさんがなんて言ってるか気になるっすよ」
「あのハウレスがなぁ…へへ」
「わ!ちょっと…」
「「「うわぁ!」」」
ドササ…
「……お前たち…」
ハウレスと笑っていると部屋の入り口の扉が突然開いて外から数人の執事達が雪崩れてきた。どうやら盗み聞きかなにかをしていたみたい。
状況を把握したハウレスが雪崩れた執事達…ロノ、アモン、ラムリ、フェネスの前に仁王立ちをする。これは…ハウレスの雷が落ちちゃうなぁ。
ワイワイ ガヤガヤ
色々あったが無事に夏祭りに来れました。
ハウレスと人混みをかき分けながら出店を見ていると急に手を掴まれた。バッと振り返ると、照れた表情でハウレスが手を繋いでいる。
「あ、主様とはぐれたら執事失格ですから…」
『…ありがとう、ハウレス』
「では参りましょう」
しっかりとふたり手を繋いでふたたび歩き出す。
出店のものを買って食べたり射的で遊んでみたり、歌や踊りを見たりと楽しんでいるハウレスを見て私も笑っていた。
一通り楽しんで休んでいると花火の時間が近づいてきていた。
『花火、そろそろだね』
「そうですね、よく見えるところへいきましょうか」
街の住人達も移動し始めて波ができている。
ハウレスは変装用の謎の帽子を被りなおして私の手を握った。
「はぐれないようにきをつけてくださいね」
『うん!』
波に従ってハウレスと歩く。前をハウレスが歩いてくれているおかげで比較的歩きやすい。
「おい~そっちいくなよ~」
「ひとが多いから仕方ないだろ~」
「花火楽しみねー」
「早く行こう!見える場所なくなっちゃう!」
『え、ちょっと…手が』
「っ主様!」
『ハ、ウレス!』
私とハウレスの間に人が入り込んで無理矢理引きはがされる。
ぎゅっと力を込めて手を握るとハウレスがこちらに気づいた。
「っく…」
ハウレスが離すまいと掴んでいるが私とハウレスの距離が空くごとにその間に人が抉りこんでくる。
手の平、親指、小指、と徐々に離れていく。
『ハウレス!』
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