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ベリアン







「…主様…これ…」



私の身体に触れたベリアンは痛みで表情を隠しきれなかった膝の部分を見て、悲しそうにしていた。



「すみません…このお怪我で走るのおつらかったですよね…」


『…子供の時以来に転んだけど……こんなに怪我したらそりゃあ子供も泣いちゃうよねっ』


「すぐにお屋敷に帰りましょう…主様」


『…あ、そ、それよりラト大丈夫かな…』


「夜に街まで来ているのならきっとミヤジさんも一緒のはずです。ミヤジさんに任せましょう…」


『…うん』



ベリアンが私を抱き上げる。突然のことに驚いたが、今の私の状態では馬車まで歩くのも無理かもしれない、と思い大人しくすることにした。
少し遠くに見える街を見る。変わらずに華やかにライトアップされている。
楽しくなるはずだったお祭り、今では私もベリアンも怪我をして笑顔なくそのお祭りから帰ろうとしている。
こてん、とベリアンの胸元に寄りかかる。



『…ベリアン』


「どうかしましたか?」


『…お祭り、楽しかった?』


「…はい。主様の笑顔も見れて、主様と恋人に見られて、そして主様の素敵な姿を目に焼き付けることができました。それだけで私は今日という日を主様と過ごせて本当に良かったと思います」


『…ならよかった』



ポロポロと涙がこぼれた。
怖かったからかもしれない。悲しかったからかもしれない。痛かったからかもしれない。
いろんな感情の交じった涙が溢れて止まらなかった。
ベリアンはただただ私を抱く手に力を込めて街を通らないよう回り道をしながら馬車のところへ歩いた。




















気づけば屋敷まで戻っていた。泣きつかれたのか眠ってしまっていたらしい。自室のベッドに寝て怪我をした膝や腕、足や、顔などいたるところを包帯やガーゼで手当てをされていた。
身体を動かすと少しだけ痛むが動けないことはない。ベッドから立ち上がって自室を出た。



「…!主様!」



部屋を出て廊下に出るとちょうどこちらに向かっていたベリアンと目が合った。ベリアンの頬にも手当てした跡がある。


「お身体は大丈夫ですか?痛むところはありませんか?」


『私は大丈夫、フルーレとルカスが手当てと着替えをしてくれたの?』


「そうです。あの格好では…いろいろと思い出してしまいますし…」


『…そっか、ありがとう』


「そうだ主様、少しお時間宜しいでしょうか?」


『う、うん?大丈夫だよ』


「ではこちらに…」



ベリアンに案内されて玄関へと歩く。
外は冷えるからとベリアンに渡されたブランケットを肩にかけて外に出る。



「お!主様!起きたんだな!」


「主様!大丈夫っすか!お怪我は痛くないっすか?」


「主様ー--!僕めっちゃ心配したんですよ!」


「主様!お身体は大丈夫ですか?俺…主様の姿をみて…」


「主様、大丈夫か?無理はしない方が良い」



開かれた玄関の扉の外には執事達が勢ぞろいしていた。私の姿に気づいた執事達がわっと私を取り囲む。心配する瞳、安心する瞳。それぞれ私に向けられている。



「こら、お前たち。そんなに詰め寄られたら主様が困るだろ。…主様すみません。あちらにテーブルを用意したのでそちらにおかけください」


「お前も詰め寄ってんじゃねぇか」


「あはは。ボスキ、それは言ってあげないで。ハウレスも心配で仕事も手に着かなかったくらいなんだから」


「主様、私がおそばにいますので体に痛みとか出たらすぐに言ってくださいね」


「主様、今日は主様のために美しいものをご用意致しましたので存分に楽しんでいただけたら光栄です」


『…?美しいもの?』



執事達が各々私の前で会話を繰り広げる中、最後にナックが言った言葉に不思議そうに私が聞き返すとベリアンが私の手を取った。



「主様、こちらへどうぞ」


『あ、うん』



階段を下りて、先にあるテーブルまでエスコートをされ、椅子に腰をかける。



「うっしゃ!じゃあ始めるぜ!」


「ロノ、浮かれすぎて怪我しないでよね」


「ロノみたいなタイプは一番に怪我するっすからね~」


「っふ」


「バスティンてめえ!今鼻で笑いやがったな!!」



年下組がわいわいしながらなぜか火おこしを始めている。
ロノとバスティンが喧嘩し始めそうになったのをハウレスが叱り、ほどなくして器用にバスティンが火をつけ焚火ができた。



「ふっふっふ。ではみなさん。これを手に持ってくださいね。太くなっている方が先端ですので棒の方を持ってくださいね」


「うーわ。なんかナックうっざ」


「こらこらラムリくん。今日はみんな仲良く、ですよ」


「ほらハウレス。他の執事達を気にかけるのも良いけどハウレスも参加しなきゃ」


「ああ、すまないな…少し目を離すとすぐに、な…」


「ったくだりぃな…やるならさっさとしようぜ。もうねみぃ」


「はい!主様!主様もこれを持ってくださいね!」



フルーレが笑顔で何かを私に手渡してくる。細く長い棒状のもので先端に何かがまかれて少し太くなっている。これは…。



『手持ち花火…?』


「ふふ、みんな主様と思い出を作りたい、と少し前から計画をしていたんです。これはなかなか手に入らないものでナックくんとルカスさんといろいろ試行錯誤をして手に入れたものなんです」


『…そ、そうなんだ』



誰から火をつけるかでなにやら揉めている様子だが、年齢順になったのかフルーレから花火に火をつけている。
保護者のようにハウレスが何やら叫んでいるし、フェネスもそれを楽しそうに見ながら皆になにかを言っている。



「主様、無理はしない方が良いですが、ぜひみんなの輪に入ってあげてください」


『ルカス…うん!ありがとう!ベリアンもいこう』


「えっ主様!」



ルカスの言葉に頷いてベリアンの手を引く。
ロノの後ろから飛びついて登場をするとロノが変な声をあげて驚き、周りのみんなはそれを笑っていた。
花火に火をつけて少しすると色とりどりの火花を散らす。
それをみんなで眺めながらはしゃぐ。



「すまない、遅れてしまった」


「おや、主様。お怪我は大丈夫ですか?」


少し遅れてミヤジとラトが姿を現した。両手にたくさん荷物を抱えている。
ラトは私に気づくなりテーブルに荷物を放り投げて駆け寄ってくる。



「…主様のせっかくの美しいお顔が…やはりあの豚たちは消すべきでしたね」


「ラトくん、そんなことを主様の前で言ってはいけないよ」


『ラト、助けてくれてありがとう』


「クフフ…主様にお礼を言われるのも悪くないですね…それでは私は少々歩きつかれたので寝ますね」


『うん、ラト。今度なにかお礼をするね』


「私もラトくんと一緒に部屋に戻るよ。フルーレくんのことお願いするよ」


『ミヤジ先生、ありがとう』



ラトとミヤジはそう言って屋敷の中に戻っていった。
ふたりがお祭りにいなかったら私とベリアンはどうなってしまっていたのか想像もしたくない。



「おお!うまそうっすね!さすがはお祭りの食事っすね!」


「肉…腹減ったな早く食おう」


「ご飯くんのとどっちが美味しいかな!」


「ラムリさん!それは俺のに決まってるじゃないですか!」


「ロノも久しぶりに夕ご飯を作らなくてもよくなったから今日はちゃんと腕を休めるんだよ」


「また研究に熱中しすぎて倒れないように気を付けるんだよ。朝方にハウレスが血相抱えてロノを運んでくるの心臓に悪いんだから」


「いつもすみませんルカスさん…」


「主様はお祭りでなにか召し上がられましたか?」


「私が美しい主様のために料理を取り分けてきましょう。主様の好みは把握済みですからね」


料理の方に気を取られて花火の方に人がいなくなった。
しゃがんで残っている花火に火をつけると、隣に同じようにしゃがんでベリアンが花火に火をつけた。
パチパチ音を立てて光が放たれる。



「主様、今日の私を見て、失望されましたか?」


『…ううん』


「…そうですか」


『ベリアン、すごい怒ってたけど、私に何かあるかもしれないことを考慮して大人しく殴られたでしょ。そんな人に失望するわけない』


「…あの時、主様の手を掴めなかった自分が、すごく悔しいんです」


『…私も、浴衣なんて着なければ、無事に2人で逃げれたのかなって思うと…』


「…私は……私はまたあのお召し物を着た主様と…歩きたいです」


『…え?』


「あ…もちろん主様がもう着たくないのであれば全然かまいません…その、私はあの姿の主様がすごく……すごく魅力的だと本当に思いました」


『…あはは、ありがとうベリアン。やっぱり私、ベリアンのために浴衣を着てよかった』


「…私のため、ですか?」


『あ……えーっと…えへへ』


「主様…私、今人生で一番ドキドキしているかもしれません」


『…私も』



お互いに顔を見合わせ、ベリアンがそっと私のブランケットの端を私たちと執事達がいる視界を遮るように持ち上げる。
ベリアンを見ていたい気持ちを我慢して瞳を閉じる。彼の息遣いがゆっくり近づいてくるのを感じながら、唇を重ねる。


『ん…っ』


控えめに押し当てるキス。から少しずつついばむように重ねたかと思うと、食らいつくように感情を私に伝えてくる。
ベリアンの勢いに身体から力が抜けそうになるのを地面に手を付いて支える。


『…ふはっ』


ベリアンのキスに夢中になっていると名残惜しく唇が離れた。彼の唇を見つめながらキスをしていた感覚を思い出す。もっと欲しいとまで思える。
そんな私の表情を見ながらベリアンが少し拗ねるような顔をする。



「…主様。…そんな表情をされてしまっては私が我慢できません…」


『…っ。べ、ベリアンがキスするから…』



お互いに照れていると、ベリアンが私のブランケットをかけなおしてくれた。



『ベリアン、来年も夏祭りに行こうね』


「ふふ、私で良ければ」



そんな夏の思い出。



















「あのベリアンが主様と…かぁ」


「ルカスさんはわかっていたんじゃないんですか?」


「…フルーレくんもなかなか鋭いよね」


「主様の表情や言動を見てたらそりゃあわかりますよ」


「ふふ、これは私たちの秘密にしようね」


「もちろん、俺はむしろ主様を応援してますからね!」


「それは私も同意だな」



主様&ベリアン 応援し隊もこっそり結成…?




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