フルーレくん
守りたい。
『フルーレ、お疲れ様』
「あ…主様…ありがとうございます」
フルーレは私が手渡した水を受け取って一口飲んだ。
荒くなった息を整えているがまだ肩で息をしている。
最近、私が屋敷によく来るようになって天使狩りに行くようになりそれをいつも見ているフルーレがハウレスにトレーニングをつけるように頼み込み始めた。
ハウレスはフルーレの意思を汲み取ってロノたちと同じようにトレーニングをしていた。
だが、筋力も体力もロノたちと全然違うフルーレにはついていくだけでもすごいことだろう。
『今日もトレーニングやりきれたね』
「はぁ……はぁ……ふぅ…俺はまだまだです。こんなことで満足しててはダメなんです」
苦しそうに息をしているが、目には真剣さが残っている。自分を追い込むフルーレの姿に少しだけ同情してしまう。
理想の姿があったとしても自分の器量では到底追いつけないことを続けていること。
自分には向いていない、そんなことを分かっていても続けていること。
自分にも思い当たることがあり、フルーレに自分を重ねてしまう。
『あんまり無理はしないでね』
「……主様もやっぱり、俺には向いてないと思いますか?」
『…え』
フルーレがキッとこちらを睨むように見上げる。
本当に心配して出た言葉だがフルーレには違う感情に捉えられてしまったようだ。
だが、力が込められ上がった眉はすぐに力が抜け垂れた。
自信が無さそうに俯いて表情が見えなくなった。
「ハウレスさんにトレーニング付けてもらう前から、自主的にトレーニングはしていたんです。筋トレ程度ですけど…それでも俺の腕や脚はこんなに細いままなんです」
『…フルーレ。フルーレも十分頑張ってる。私にはわかってる。でもそれと同じくらいハウレスやロノ、バスティンも頑張ってきて今があるから…フルーレもトレーニング続けたらみんなみたいにつよくなれるよ…』
「…そ、それでも変わらなかったら…?悪魔執事なのに…俺だけ戦えなかったら…う、うぅ…」
俯いたフルーレからポタポタ雫がこぼれた。
泣いていることに気づいて手を差し伸べようとするとするりとその手をかわしてフルーレが立ち上がった。
私から一歩離れて俯きながら頭を少しだけ下げて走り去っていく。
私は、かける言葉を間違えてしまったのだろうか。
地下執事の部屋ー…
「こんな俺じゃ……こんな俺じゃ悪魔執事になった意味がない……ぐずっ…どうして、どうして俺はいつもこうなんだ…」
『フルーレッ!』
走り去っていったフルーレを見ながら悩んだが、少ししてからすぐに追いかけた。筋力がないフルーレだが私より足は速い。
「どうして…」
『…いつでもフルーレのそばにいたいから。ひとりで悩まないで。ひとりで泣かないで』
「う…うぅ…」
歯を食いしばって嗚咽を我慢しているフルーレはこちらを見ながら先程よりも勢いよく涙が溢れている。
フルーレに近づいて目を合わせるとフルーレが私に抱き着いて声を上げて泣いた。
フルーレの苦しみが私を抱きしめる強さから伝わってくる。
「主様…いつか俺、俺ひとりでも主様を守れるくらいに強くなります……だから、だから主様、俺を見ていてください…お願いします…!」
『うん…私はずっとフルーレの主だし、フルーレのこといつでも応援してるから』
その日からフルーレはトレーニングに励んでいる。もちろん衣装係としての仕事も力を抜いていない。
頑張りすぎて心配になるけれど、とても頼もしい顔つきになった気がする。
彼が、私を守る剣となり戦ってくれる日は、遠くないのかもしれない。
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