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ボスキくん



私のヒーロー




突然13人の執事の主となった私。天使狩りや貴族社会という慣れない環境に不安を覚えながらも、穏やかな日々を過ごしていた。
そして、最近執事に対してこんな風に感じていた。




「ぁあ?俺たちがヒーローだぁ?」


『うん、街の人たちに認知されながら天使っていう悪を倒してる感じ、ヒーローっぽくない?』


「っは。主様も皮肉が言えるようになったか。悪魔執事って言われてる俺たちがヒーローなわけないだろ」


『…ヒーローだって街の人たちから羨望の眼差しで見られるだけじゃないのよ。それにここの人たちだってそんな噂を真に受けないで自分たちの目でボスキ達を見て評価してる人だっているじゃない』


「そうかよ」



ボスキはそれだけ返して私に用意したお菓子をひとつつまんで食べる。
私の言葉がそんなにも気にくわなかったのだろうか。



『…ボスキだって、いつでも私のことを守ろうと動いてくれるし……私はボスキを見てヒーローみたいだなって思ったんだ』





そのあとの会話はなかった。
ボスキに嫌な思いをさせてしまったと思い、他の執事に同じ会話をすることはなかった。ボスキの性格だからわかったけれど他の執事はきっと私に気を遣って気を悪くしたことを隠していたであろう。


















「…!警報!…っく今のタイミングか…」


『ハウレス!今屋敷にいる執事は?!』


「…主様。今は俺とボスキ、フルーレ、ラト、ラムリ、ナック、ルカスさんですね…」


『…ハウレスもこれからルカスと貴族会議だよね…』


「…はい。でもルカスさんに先に行ってもらって天使をいち早く倒し後を追うこともできます」


「ならそうしようぜ、主様」


「ボスキ…」


『…そうだね、天使狩りにはハウレス、ボスキ、ラムリで行こう。貴族会議の方には一応ルカスの補佐にナックを』


「はい、主様。すぐに準備いたします。ボスキ先に馬で街へ行ってくれ。すぐに合流する」


「うるせぇ。指図すんな」


「頼んだぞ」



作戦が決まるとハウレスがすぐに行動に移る。
ボスキはハウレスの言葉に舌打ちをしながらこっちをみた。



「主様、そういうことだから俺と来てくれ」


『え?私馬乗れない…』


「ッチ、俺の馬に乗ればいいだろ」


『わ、わかった!』




玄関から外に出て、ボスキが飼育小屋から馬を引いてくるのを待つ。天使狩りに行くこの緊張感はどれだけ時間が経っても慣れない。


「うし、行くか」


『ご、ごめん…支えてくれる?』


「馬くらいに乗れるようになっといたほうがいいぞ」


『こ、これから頑張る…』



ボスキの助けもあって馬に跨ると、軽やかに私の後ろに乗るボスキ。私を腕で挟みながら手綱を握るボスキの体の大きさを背中で感じる。
手綱をしならせると馬が走り出す。ボスキの馬は他の馬よりも一段と足が速い。ものすごい勢いで風を切るのと、馬の揺れに怖くて目を閉じる。



「舌噛まねぇようにな」


『わ、わかってる!』


「…返事しなくていいから聞いても良いか?」



いや、返事しなくて良いって言いながら疑問形?と心の中でつっこみながら大きく頷いてみる。



「女って言うのはこういう王子様ってやつが好きなもんじゃねぇのか?」



あまりに突拍子もない質問に思わずボスキの方を振り向いてしまう。
急に体制を変えてしまってふらっと体の軸がずれて、ボスキが冷静に義手の方の手を私のお腹に回した。



「ばか、落ちるぞ」


『ご、ごめ…』


落馬する恐怖に心臓が早鐘を鳴らしている。



「ったく……さっきの質問は気にすんな。街までこのまま走るぞ」



そういうとボスキはもう一度手綱をしならせた。馬のスピードがより速くなる。














「あれだな…」



街へ着いて馬を近くの木にくくりつけると、ボスキは上空にある天使を確認する。ボスキと一緒にその方向へ走り出す。天使に近づくにつれて住人の悲鳴が大きくなる。



「主様、間に合わねぇ。力を解放してくれ」


『…無理はしないでね!!』


「わかってる」


『…ボスキの力を解放する!!』



剣を構えたボスキが天使に突っ込む。遅れてその戦況が一望できる場所へとたどり着いた私は次々に天使を切り裂くボスキの無事を願う。
ボスキの登場で天使の数は減っていく。これならボスキの体力が尽きる前に倒しきれるかもしれない…!
だが、私の予想とは裏腹にまた上空から今よりもっと多くの天使が
降ってくるのが見えた。



『ボスキ…!!!無理はしないで!!!ハウレスたちがすぐ来るはずだから…!!!!』



ボスキに向かって叫ぶ。聞こえていてほしいけれど、ボスキは天使を斬ることをやめない。
今の戦況から目を離せないでいると、待っていた声が聞こえた。だがそれは違った声色をしていた。



「主様…!!!危ない……!!!!」



ハウレスの声がした。視界に映るボスキと目が合った。その視界にまばゆい光が見えた。バッと後ろを振り向くと2体の天使がこちらに光を発してるのが見えた。



『…!たすけ…!』


「主様--ッ!」



ザクゥッ



「ぐぅうう…!」



突如目の前の天使が消えた。青い後姿によって。
だが、その後姿は天使を斬った後に目の前で崩れ落ちた。
うめき声をあげて倒れそうになるのを反射的に受け止める。
近くにいた天使が消え、遠くで天使を倒していたボスキが目の前で苦しんでいる。




「主様…!大丈夫ですか…!!!」


「主様!!!ボス!!!!」



ハウレスとラムリが駆け寄ってくる。ラムリに私を任せてハウレスは残りの天使を倒しに行った。



「ボス、すごかったですね!僕たちより距離があったのに一直線に主様を助けに行って、体の負荷やばいですよ」


『え、そうなの…』


「あんなに必死な表情してるボスも珍しいですよー」



ラムリが近くに寄ってくる天使を狩りながらそんな話をする。
太ももにボスキを寝かせながらボスキの意識が戻るのを待つ。苦しそうに息をしながら苦痛に顔をゆがめるボスキを見て、少しでも楽になれば、と浄化を試みてみる。



「っぐ…」


『ボスキ…!大丈夫?』


「主様…無事だったか…」



まだ苦しそうだが、こっちを見て無理に笑おうとしているボスキに思わず涙が溢れた。なんでこんなにも危険な世界にボスキ達が生まれてしまったのか、と思ってしまう。
私の瞳からぽろぽろとボスキの頬へと零れる。



「おい…泣くなよ…せっかくヒーローみたいに助けたじゃねぇかよ」


『…っボスキ…ありがとう…』


「大人しく…俺に守られてくれ主様…俺が守るからよ」


『…うん、…うん…』



それだけ言ってまた痛みに苦しみ気絶したボスキ。
ハウレスとラムリによって残りの天使は倒され、街の親切な人の家にボスキが運ばれた。
そして1時間が経過してボスキが目を覚ました。



「…ここは」


『ボスキ!目が覚めた?街の人のお家で休ませてもらってるの』


「…迷惑かけたみたいだな」


『…ふふ、どこかのヒーローさんが無茶してくれたおかげよ』


「うるせぇ」


だいぶ体力も戻ってきたのかいつもの調子で話しているボスキに心の底からほっとする。



『ボスキ』


「なんだ」


『私は、王子様よりもヒーローの方が好きよ』


「…っふ。そうか」



ボスキは今まで見た笑顔の中で一番輝いた笑顔だった。








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