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ハウレスくん




休息は大事だよ







『…ス!……ハ…レス……ハウレス!』


「…ハッ」



誰かの呼び声に目を開いて飛び起きる。
こんなにも呼ばれて気づかないなんてどうしたんだ。



「あ…るじさま?」


『うん、私だよ。どうしたの?今日はぐっすり寝てたね?』


「え…今、今何時でしょうか!?」


『もう11時になろうとしてるね』


「そんな…!仕事も、トレーニングも…朝飯も過ぎている…」



いつもは一番に起床して1日の空気の入れ替え、換気から始まる生活。
なのに寝坊など、信じられなかった。



「…!それよりも仕事を片付けなければ…!今日はグロバナー家の…!」


『ああ、それならフェネスが内容を把握してるからアモンとナックと片付けてるはずだよ』


「そ、そうですか…じゃなくて俺が何もしないわけには…!」


『ああ、もう。みんなハウレスも限界だろうって今日はハウレスのお休みの日にしようって相談したのよ』


「え…?」


主様の言葉の意味が一瞬理解できずに問い返す。
主様はいつの間にか運び込まれていたカートを俺の部屋の入り口から俺のそばに押してきた。



『ハウレスのお仕事はフェネスとアモンが。ロノとバスティンのトレーニングはボスキが。設備の担当はラムリとナックが協力してくれてるよ。(アモンとラムリはトレーニングがサボれるって喜んでたけど)あ、あと今日は入ってきた重要案件はベリアンとルカスさんでまとめてくれるって言ってたな』


「ボスキが…?」


『ふふ、笑っちゃったよ。ボスキに提案したら「なんで俺が…」って嫌がってたけどロノが「ボスキさんやる気ないからなー…」ってぼやいたら急にスイッチ入っちゃって、ほぼボスキとロノの喧嘩みたいになってて、バスティンはボスキがやる気になったのを喜んでるし…ふふふ。ほんと面白かった』


「…っふ。それは面白いですね、ちゃんとお礼しないと」


『…ハウレス。ひとりで抱え込まなくてもみんなこうして協力してくれるんだよ。それは日々ハウレスが頑張っていることをみんなは理解してるからこそ、その重荷を背負ってくれるんだから。フェネスが補佐してくれてるって言ってもハウレスはもう少しみんなに甘えてもいいと思うよ。……って一番ハウレスの責任をわかってない私が言っても無責任かな…』


「…主様…」


『ごめんね、私みんなのために何もできてないけど…みんなの心配はさせてほしいっていうか…主の私だからこそできることを探してるんだけど…悪魔の解放だけしかできないから…』


「…っふ、主様こそ、ご自分に自信を持ってください。主様が思っているよりも主様の存在はみんなの力、そして癒しになっています。主様がいるだけでこの屋敷の空気は変わりますし、執事達も主様のことを必要としています」


『…も、もう!私の話はいいから…ハウレスお腹空いたでしょ?』


「そういえば…」


きゅるる~…


「…!」


『ふふ、お腹で返事しなくても…』



クスクスと笑う主様に顔を赤くしてお腹を押さえることしかできない…。
恥ずかしくてやるせない…。



『ロノにね、お願いしてハウレスの分の朝ごはんとっといてもらったんだ。ダメになっちゃうものもあったんだけど、その分余しで作ってもらったよ』


「…すみませんわざわざ俺のために…」


『ちゃんと食べないと疲れも取れないからね。ご飯食べてゆっくり今日は休んで』



押してきたカートの上に乗っている皿の大きな蓋を取って中身の香ばしい香りが鼻を刺激した。
ふたたびお腹が鳴る俺に主様は笑いをこらえて料理の皿を渡してもらってしまった。
今日の俺は本当にどうかしている。


「主様は、今日どうされるんですか?」


『ん…?今日はハウレスのお世話しながらハウレスの代わりにお屋敷を巡回しながらもめ事を止めてこようかなって思ってる』



屋敷、執事のことをもう把握している主様の言葉に俺も共感して苦笑いした。俺の普段の苦悩を主様に押し付けてしまうことを申し訳なくなるが、俺じゃなく主様の言葉ならさすがに年下の執事達も言うことを聞くだろう、と任せることにした。
これが甘えるってことなのだろうか。


「主様に、任せてしまうのは申し訳ないです。なにか失礼なことがあったら俺に言ってください。しっかりと叱っておくので…」


『あはは!わかった。さ、冷めないうちに食べちゃって。今日のロノのご飯おいしすぎてほっぺ落ちちゃうから』


「あ、はい。主様の前で飲食をするのは…少し気が引けますね…」


『あ、ごめん私がいたらゆっくり休めないよね。じゃあムーとさっそく巡回してくるよ』


「主様」


『ん?』


「…本当にありがとうございます。今日もですけど…いつも、その感謝しています」


『…ふふ。こちらこそ。いつもお疲れ様ハウレス』



そう言って主様は出て行った。
肩の力が抜けて、ロノの料理を口にする。こんなにゆっくりと食事をするのはいつぶりだろうか。
少し食事のメニューを変えたと言っていたが、これはもう疲労回復のための食事のメニューだ。主様がノロに頼んで作らせたのだろうか…。
主様の気遣いに笑みがこぼれた。胸の内が温かい。
ふと、カートの上に紙切れが置いてあるのに気づいた。皿をカートの上に直してその紙切れを手に取る。



『ハウレスへ。いつも本当にお疲れ様。
今日は本当になーんにも考えずに休むこと!!
気分転換に外に出たくなったらいつでも呼んでね。私がいないとすぐ仕事しそうだし!』



主様からのお手紙。
そっと胸に抱いて主様の笑顔を思い出す。なぜか、妹のことが頭をよぎった。こんな俺にも気が強い女性は…妹しか知らなかったはずなのに。


主様。
いつの間にか、俺の中でこんなにも大きな存在になっていたのですね。
やはり俺の命は主様のためにあります。
今度こそ、今度こそ俺の命に代えても主様をお守りします。






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