アモンくん
エゾギクの花言葉
「はぁ……」
キッチンに向かう途中、フラフラと歩いているアモンの姿を見かけた。もう夜になろうとしていて廊下も薄暗いのに今日はそれに気づいていないのか俯きながら歩いている。
「…うっ……ううぅ…」
距離が近づくにつれてどこかで聞いたような泣き声が聞こえてきた。
これは以前……
『アモン…』
慌てて近寄り、アモンに手を伸ばす。あの時差し伸べられなかった手を。
「俺に触るな!!…俺は、俺はダメな子だから……」
差し伸べた手は、拒絶された。
そのまま崩れ落ちたアモンはポタポタと床を涙で濡らす。
このまま廊下にいたら誰かに見られてしまう。
そう思った私はアモンの腕を力任せに引いた。
アモンは、おとなしく、手を引かれてついてきた。
2階執事の部屋ー
ちょうどハウレスもフェネスも貴族に呼ばれて外出をしているところで助かった。
アモンを部屋まで入れると泣きながら部屋の隅にある鞭を手に取る。
『アモン…ダメ、自分を傷つけないで』
「ごめんなさい……ごめんなさい…お母様……うぅ…」
『アモン…アモンは、いつもサボったり、貸しとか言うけど……引き受けた仕事は最後までちゃんとするし…ミスしちゃったときは自分のミスを受け入れて反省ができる…強くて良い子だよ。それができない人なんてたくさんいるのに…アモンは無能なんかじゃない。だから、だから…』
「許してくれますか……お母様…」
ヒュッ
ビシィッ
「ううっ…はぁ…っ…」
『あぁ…アモ、ン…』
アモンが鞭を振るうと棘が付いた鞭がアモンの背中を赤く染めた。
服にみるみる赤い染みが広がり、まるで薔薇のように花を咲かせる。
アモンの絶望が根深いのはバスティンの過去を見たときから想像はできていた。
こんなにも自分を傷つけて、私の知らないところでもずっとずっと傷つけ続けてきたのだろう。
『アモン!!!!お願い!それ以上自分を責めないで!』
「…はっ…あ、あるじさ、ま…?」
『アモン…』
知らぬうちに自分の瞳からも涙が溢れていた。
アモンの苦しみをわかってあげられない自分が悔しくてたまらない。
いつか、いつか私にも話してくれることを信じるしかない。
「い、いつからここに……っみ、見ないでくださいっす!」
『…アモン、庭の薔薇、見に行きたいな』
「りょ、了解っす…でもちょっとだけ待ってほしいっす」
顔を袖でぐしぐしと拭って無理矢理笑顔を作るアモン。
信じる気持ち…今度アモンにエゾギクでも送ろう。
私があなたに贈る、信じる気持ち。受け取ってくれますか?
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