ロノくん
最近の楽しみ
悪魔執事13人がいるこのお屋敷に来て結構な時間が経った。
そんな私の最近の楽しみ。
チラッ
『ロノ…?』
「ん、主様!こんにちは!」
キッチンにいるロノの元へ通うこと。そうして彼との時間を過ごすこと。
専属執事になれば一緒に時間を過ごせるのだが、彼の趣味も時間も彼の自由に過ごしてほしいからと、私が通っている。
ロノも最初は申し訳なさそうにしていたが、日に日に当たり前になっていくとロノの方から迎えてくれるようになった。
それも嬉しいことなのだが、もっと彼との距離は縮まっていた。
「主様、ティータイムにするか?」
『ふふ、今日はロノと一緒にデザートを作りたいな』
「お、それは面白そうですね!やりましょう!」
ロノの隣にぴったりくっついてキッチンに立つ。
私も料理上手になりたいと頼み込んで立たせてもらって、こうしてロノと料理ができている。手が荒れるからと洗い物はさせてもらえないが、簡単な仕込みやほんのちょっとしたお手伝い程度のことを任させるようにはなってきた。
「じゃあ主様、生クリームを混ぜてもらっていいですか?」
『うん!ツノが立つまでだよね!がんばる!』
「疲れたら言って下さい、俺が変わるんで!」
ロノは生地作り、私は生クリーム担当になった。ロノの真剣に作る姿を見ながら一生懸命生クリームを泡立てる。
トレーニングをしているときもそうだが、ロノは自分の好きなことに関しては本当に努力家で一切手は抜かない。それが表情から見て取れるのだ。
多分、最初にバスティン達とトレーニングをしているロノを見かけてから彼のこの表情を近くで見たいって思い始めたんだと思う。
そうして巡回という名目でロノを見に行くたびにロノのことを知っていって、気づけばキッチンに通い始めて理由をつけて彼との時間を過ごすようになった。
「へへっ今日のは最高に美味くなりそうだ!」
『それは楽しみだね!』
「一番に主様に食べてもらうからな!」
ニカッと笑ってこっちを見るロノに思わずドキッと心臓が跳ねる。
いつの間にかもう焼く段階に入っているロノがオーブンに生地を乗せた鉄板を入れている。手元にある生クリームもだいぶツノが立ち始めている。
なんだかこのあっという間の時間が「ロノとの時間もあっという間だぞ」と煽ってくるようで不安がよぎった。
「そうだ、ベリアンさんにも持って行こう。最近また休んでなさそうだしな」
『ねぇロノ』
「どうしました?主様?」
『ロノは彼女とかいたことあるの?』
「…なっ!?な、ど、どうしたんだ主様、急に、そんな」
『え、あ、いや…ふと、気になっただけ…』
「そ、そうっすか…俺は、いたことないですね……結構、無縁な生活してたんで…」
言いにくそうに目を反らしながら話す彼の姿を見て、また新た一面が見れたことを喜ぶ自分もいる。
ツノが完全に立った生クリームを氷水の中に入れてロノの元へ歩み寄る。
『…じゃあ、私をロノの彼女にして?』
「あ、主様?!」
『…なんて、ダメだよね』
勢い任せに口から出た言葉。
ハッと我に返るころにはもう取り返しがつかなくなっていて、慌てて冗談のような口調でごまかす。
こんなことしかできないのなら、はじめから言わなければいいのに、と自分に悪態をつく。
「…主様」
『あ、さっきのは気にしないで!』
「主様は、俺のことが好きなん…すか?」
『……うん、大好きだよ』
ロノの質問に冗談では返したくなかった。これだけはごまかしたくない。
私はロノが大好きで、今までの行動だっていつもロノに私を意識してほしかった。
主と執事の関係なのに、今私はそれを破ってしまったのである。
「…そう、だったんですね」
『…あ、でも別に無理強いしてるわけじゃないから!その、今まで通りしつじとして…』
ロノの返事が怖くて私は口元を引きつらせながら必死に笑っている。
今の私は好きな人の前でするような顔じゃないくらいひどいだろう。
けれど、彼はそんな私を優しく抱きしめてくれた。
視界には彼のキッチン服の一部しか見えなくて、甘いスイーツの香りと一緒に彼の香りらしきものがまじっている。
腰と背中に彼の腕の筋肉が感じられて、顔の右側に彼の髪が当たってくすぐったい。
「今は…天使狩りとか……そういうので主と執事としての関係だけど……もし…この先、もう天使がいない世界になったら…いや、そういう世界にするから、そしたら俺と…結婚してくれますか主様」
『…っろ、の…』
抱きしめられていてロノの表情は見えないが、腕に力が込められているのが身体から伝わる。
私も彼を抱きしめ返す。大きなその背中に回しきれない腕を精いっぱいのばして応える。
『…私も、ロノと結婚する』
その日、私たちはもっと距離が縮まった。
彼との時間はもっと特別になり、お互いにその時間をもっと大切にするよになった。
それだけで私は幸せだった。けれどロノは天使を完全に葬ることをいつも約束してくる。それから話し出すの。私と結婚した先の未来のことを。
「俺が、誰よりも主様を幸せにして見せます!だから待っててください!主様!」
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後日談ー
「ロノくん。ロノくん」
「?ルカスさん!どうかしました?」
「いや、先日君に用があったからキッチンを訪ねたんだけどね」
「?はい?」
「君の熱い熱いプロポーズが聞こえちゃってね、私の方が照れてしまったよ」
「~???!き、聞いてたんですか…!」
「ふふ、主様とそういう関係になるのは私は反対はしないけど、ちゃんと場所は選ぼうね」
「~…き、肝に銘じます…」
「じゃあ、過労には気を付けるんだよ、ロノくん」
私も恋でもしようかなぁ、と思うルカスであった。
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