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アモンくん









「主様、横になってくださいっす」


『なんか、ごめんね?』



ベットに腰かけてそのまま横になる。
アモンはそばから離れようとせずに私の横にいる。いつもの余裕そうな表情はなく、真剣に心配している。



「お、俺のせいっすよね…身体を冷やしてしまって…」


『アモンのせいじゃないよ、きっと元々体調崩してたのかもしれないし』


「主様は優しすぎるっすよ」



アモンに手を伸ばす。アモンは私の手を見て自分の手で包み込んだ。そのまま私の手に顔を近づけて私の手の甲にキスをした。




『な、なにしてるの…』


「早く治るようにおまじないっす」


『…ふふ、効き目ありそう』


「…っそ、そんなわけないじゃないっすか…」


『なんでアモンが照れてるの』



クスクスと笑うとアモンはバツが悪そうに頬を指でかいた。
自分の体調は至っていい状態であると思う。なんとなく自分のおでこに手を当てるとあったかいような気もする。
でも周りをよく見ているベリアンが私の変化に気づいて言ってくれたのならおそらく風邪をひいているのだろう。



「ほら、主様。少しお休みになってくださいっす。俺がずっとそばにいますから」


『お仕事は…?』


「今日は警報が鳴らない限りは大丈夫っす。あー……あとは…ハウレスさんにトレーニングに呼び出されなければ…」


『ははっそれは大仕事だね?』


「今日はそれより大事な主様の看病があるんで休むっすよ」


『またそうやって…』



アモンの言葉に困ったように笑うと、おおきなあくびがひとつ出た。溢れた涙を拭うとアモンが私の布団をかけなおした。
手を離そうとするアモンの手をぎゅっと握って離さないようにすると彼は目を細めて可愛らしく微笑んだ。



『アモン…』


「…どうしたっすか?」


『…好き?』


「…っ」


『えへへ…』


「…大好きっすよ。主様」



ウトウトと意識が薄れる中、アモンがそう言ってくれた気がした。

























「アモンくん、主様の様子はどうですか?」



「ベリアンさん!あのあと、すぐに熱があがってきましたけど早めに休んだおかげかそこまで高熱にはならなかったっす」


「それは良かった。ロノくんにも軽食を作ってもらいましたし、ルカスさんからお薬もいただきました」


「なにからなにまでありがとうございますっす」


「いえいえ、アモンくんは主様のおそばにいるっていう重大任務があるではないですか…ふふっ」


「か、からかわないでくださいっす…」



あれから数時間が経った。主様は熱で時々苦しそうな表情をするけれど看病のかいあって熱はだいぶ下がったっす。
寝ている間も主様の手は俺の手を握っていてずっと手を繋ぎあっていたっす。それを見たベリアンさんにずっと笑われ続けてますっすけど…。



「主様が起きたら軽食とお薬を飲んでもらってくださいね」


「了解っす、ベリアンさん」


「そうだ、ムーちゃんがだいぶ心配していたので主様が起きたらムーちゃんに知らせてあげてください」


「ムーっすか…主様のそばから離れないんすよねー…」


「こらこら…主様を独り占めしてはダメですよ?」


「…っ!な、なんでもないっすよ!!ほら、ここは大丈夫っすからベリアンさんは戻ってもらって大丈夫っすよ!」


「ふふ、わかりました。では主様をよろしくお願いしますね。アモンくん」



調子が狂うっすね…あんなに楽しそうにベリアンさんにからかわれるなんて俺らしくないっすね本当。
ベリアンさんが部屋から出ていき、部屋にはまた主様と俺だけになった。



「主様を…ひとり占め…すか。」


「それができたらいいんすけどね…」


「主様…」


『ん…んん~…』



主様がこっち向きに寝返りをうつ。ずっと手を繋いでいて疲れないだろうか、と思うっすけどこれが離そうとしてもぎゅってされちゃうんすよね。そこがまた可愛くてたまらないっすけど。
そんなことを考えながら主様を見ていると主様の長いまつげがピクピク動いてゆっくりとまぶたが開いた。



『…ぁ…ここ、お屋敷か…』


「主様、おはようございますっす。ご気分はどうっすか?」


『アモン…おはよう。うーん…悪くはないかな…』



大きなおくびをして目元をごしごしとこすっている主様。
身体を起こしてもう一度あくびをした。
寝起きの主様の可愛さは格別っすね。執事という立場でなければ今すぐに抱きしめてあげたくなるっす。
ベリアンさんが持ってきたカートをベット横につけて、大きな蓋を外す。



『あ!ロノのご飯…おなかすいた…』


「主様のご飯っすよ。これを食べてお薬も飲みましょうっす」


『はぁい』



するっと繋いでいた手が離れる。数時間自由を奪われていた手が自由になったというのに、そこに残ったものは寂しさだけだった。
素直に返事をして俺の渡した皿を持ちスプーンを使って食べ始める。
顔色もいいし、食事もおいしそうに食べているっす。もう大丈夫そうっすかね。
薬を飲んで今日1日休めば元通りっすね主様。



『んん~…おいしかったぁロノのご飯好きだなぁ…』


「…」


主様から出た「好き」って単語に反応してしまうっす。主様が眠る前の会話が思い出され、思わず顔が赤くなる。
そそくさと主様の食べ終わった食器をカートに直してカートを部屋の入り口に置く。



「主様…」


『ん?』


「眠る前に俺と話したこと、覚えてるっすか?」


『…?えっと、アモンが私の手におまじないしてくれて…ハウレスのトレーニングをサボれるって話?』


「俺のことばっかり覚えちゃって…そんなに俺のことが好きっすか?」



『な…!そ、それが言いたかったわけ?』



主様から言い出したことを覚えてないことにちょっとムッとしながら、「好き」って言葉でからかってみる。



「主様は本当にかわいい方っすねぇ」


『びょ、病人をからかわないのっ』


「はいはい、すみませんっす。お薬もちゃんと飲んでくださいね」


『あ、お水もっと多めにちょうだい』


「了解っす……はい、どうぞっす」


『……うへぇ…粉のお薬は苦いなぁ』


「ロノに甘いもの用意してもらうっすか?」


『今はお腹いっぱいだからいいかな。またあとでお願いするね』


「じゃあ、今は俺で我慢してくださいっすね、主様」


『あははっ最高ね、それは』













そのあと、熱がぶり返すこともなく私の体調は治った。ベリアンやルカス、ムーにもお礼を言って今日も元気に過ごしている。

体調の熱は下がった。けれど、ひとつだけ熱が上がった気がするのは…。


アモンの私を見つめる視線、かな?
なんとなく、あの日からアモンの愛情表現が積極的になった気がするのは多分気のせいではない。

嫌じゃない、むしろ嬉しいくらい。
でもでも胸がどきどきしっぱなしで心臓が持たない気がする。



今日もアモンが私を呼ぶ声がする。

そして一緒に中庭を散歩する。手を繋ぎながら。



「主様、俺は主様のそういうところ、好きっすよ」



そう言って微笑む彼には幸せがにじみ出ていた。






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