ハウレスくん
※これは「休息は大事だよ」のちょっとした番外編です。そちらを見てから読むと内容が理解できて楽しい、かも?※
そして思ったよりも長くなってしまいました
頑張れ主様
『ムー!いるー?』
「はぁ~い主様~!お呼びでしょうか!」
『ハウレスの代わりに巡回するからついてきてくれる?』
「はい!僕も巡回します!」
ムーの承諾をもらってさっそく屋敷の巡回をする。
1階ー
「おや、主様。どうかされましたか?」
『あ、ベリアン。ハウレスの代わりに巡回中♪』
「ベリアンさんこんにちは!」
「ふふ、ムーちゃんも一緒なんですね。ハウレスくんのお仕事は大丈夫ですよ。フェネスくんがちゃんとこなして問題はなさそうです」
『さすがだね!フェネスも自分に自信持っていいと思うのに』
「そうですね、あんなにハウレスくんの補佐ができるのは彼だけだと思います」
『ベリアンもなかなかすごいと思うけど…』
「いえいえ、私はお手伝い程度にしかできませんよ」
そんな世間話をしてベリアンと別れた。
1階は問題なさそう!おっけい!あ、ちなみに地下にいるミヤジ先生たちは今日は孤児院のお勉強会に行ってます。いつか私もついていきたいな。
2階ー
コンコンッ
「はい?」
『しつれいしまーす…フェネス、お仕事は大丈夫そう?』
「あっ!主様。わざわざありがとうございます。えっと、今はなんとかなっていますね」
「主様!俺もいるっすよ!」
『アモンも今日はありがとう。ハウレスのお仕事もフェネスなら大丈夫だと思った』
「フェネスさんはハウレスさんの右腕ってやつですよね!」
『ムー、よくそんな言葉知ってるね。そうそう本当に右腕って感じ』
「いえいえ、俺はそんな大した奴じゃないですよ…」
「フェネスさん、自信持っていいと思うっすよ。俺はとてもじゃないけどハウレスさんの補佐なんてできないっす。ボスキさんのお世話で精一杯っすよ」
「ボスキのフォローもなかなか大変だと思うけど…」
『ハウレスもフェネスになら任せて大丈夫って思って今日は大人しく休んでるんだと思うし、私も微力ながら何かあれば手伝うし頑張ってね』
「ありがとうございます。主様。俺なんかのために本当…」
「謙虚っすねぇフェネスさんは本当に」
「謙虚ですねぇ…」
『本当に謙虚…』
「え?え?な、なになに…」
アモンと私とムーでフェネスを生暖かい目で見つめる。そんな私たちにフェネスは困惑していて3人で笑った。
3階ー
「…主様。3階は大丈夫でしょうか…」
『ムー…それは私も思っていることだから心して向かおう』
階段をのぼりながらすでに聞こえてくる話し声に苦笑いをする。
「いちいちうるさいなーナックは」
「ラムリ、何度言えばわかるんですか。補修っていうのは適当にやっては意味がないんですよ」
「別に雨漏りは塞いどけば漏れないと思うんだけど。ナックが細かすぎんだよ」
「一時しのぎではダメってことを……はぁ。頭が痛くなってきました」
『……様子見に来たよーふたりともー』
「主様ー♪僕に会いに来たんですか?僕に会いたかったんですよね!僕もです主様ー♪」
「ラムリ!主様に失礼ですよ。…主様、足を運んでいただきありがとうございます。ラムリが大変失礼な態度をとってしまい申し訳ありません」
『んーん、私が無理に仕事を頼んじゃってごめんね。ナックも普段力仕事をしないから大変でしょう?』
「いえいえ、主様の頼みとならば私も男です。力をふんだんに使わせていただきます」
「さっきから僕に指示ばかりで自分なにもしてないじゃん」
「ラムリのやり方が雑だから注意ばかりして仕事が進んでないんですよ」
「あはは…結局こうなっちゃいますね…主様…」
『…どうしたものかな…』
「主様♪僕、これから休憩するんですけど主様も一緒にどうですか?」
「な…まだ作業始めて30分も経ってないのに休憩だなんて…主様、断っていただいて結構です」
「はあ?ナックに言ってないんだけど。ほんとうざい」
『あはは…ラムリ、私のティータイムがお昼ご飯のあとだからその時に一緒に紅茶でも飲もうね。それまでお仕事終わらせてゆっくりできるようにしといてね』
「はーい♪主様とティータイムできるのなら僕頑張っちゃいます!ほらナック。手休めないでよ。終わらないじゃん」
「…はぁ。主様ありがとうございます…」
『頑張ってね、ふたりとも。あとで何か甘いものでも持ってくるよ』
ムーと苦笑いしながらふたりも元から離れた。背中からふたりの言い合う声がまた聞こえ始めるのを聞こえないふりした。
コンコンッ
「おや…誰かな?」
『…ルカス、私』
「ムーです!」
「おやおや、主様。こんにちは。ムーちゃんも」
『お仕事はどう?』
「…?ああ、順調ですよ。特に重要案件も悩むほどではなかったですし、滞りなく済んでます」
一瞬不思議そうにしていたが私の質問の意図を察したルカスが笑顔でそう答えた。流石は交渉係。人の意図をくみ取るのが本当にうまい。
「主様、今巡回しているのですか?」
『うん、ハウレスの代わりに私ができることをって思って』
「ふふ…適任だと思いますよ。ハウレスよりも場を収めるのがお上手な主様だからこそ」
『そ、そうかな…正直不安しかないよ』
「先程もラムリさんとナックさんの言い合いを止めるのに骨が折れましたもんね…」
「ああ…あのふたりはなんだかんだでやるときはやるので…ラムリくんが脱走しなければ…」
「だ、脱走って…」
『ハウレスの苦労がよくわかるよ本当に』
「ふふ、まだまだこんなものじゃないですよここの屋敷は」
ルカスの笑みに、なんとなく何が言いたいかわかるが、あえてその思考を止めた。
外から聞こえる声にも耳を貸さないことにした。
そしてルカスとの会話もそこそこに1階まで戻って屋敷の外へ出る。
アモンの育てている花たちがある中庭とは別の、開けた庭の方へと向かうと怒声が飛び交う3人が見えた。
『わあ、こっちもこっちですごいねぇ…』
「ハウレスさんと同じトレーニングをしているのか疑っちゃいますね……」
「ボスキさん!!本気で剣を振り回さないでくださいよ!」
「ぁあ?トレーニングで中途半端にやってても強くなるわけねぇだろ」
「…はぁ…はぁ…もう一度手合わせを頼む。」
「バスティンの方がやる気じゃねぇか。ロノはそんなもんか」
「…ぐ…お、俺ももう一度だ!!」
2体1にも関わらず、バスティンもロノもボスキにあしらわれている。
ボスキは右腕と右目が不自由な分、剣を下手に振るのでは無く避けることに専念して2人の体力が切れたところに剣を向けている。
これはこれで、ハウレスとは違うトレーニングでふたりにもいい刺激になっているだろう…。
ロノに関してはボスキに煽られて無茶苦茶な戦い方をしているのが私にも見てわかる。
バスティンも体力が切れているから大剣を振るタイミングがボスキとかみ合っていない。
『こう見ると…ボスキって本当にすごいよね』
「…そうですね…バスティンさんもロノさんも決して弱いわけでもないのに…」
「…はぁ…はぁ…くそっ、攻撃が当たらねぇ…」
「…っく……ロノ、お前は邪魔だ、休憩でもしてろ」
「…んだと…?邪魔なのはてめーだろーが!大剣を当たらねぇのに振り回しやがって!」
「…っ、お前が邪魔だからだ」
「…ッチまた始まったよ」
「あー…始まっちゃいましたね。主様、行きましょう」
『そうだね』
遠くから眺めていたが、3人の元へと歩く。
バスティンとロノの言い合いは終わらず、ボスキは暇そうにあくびをした。
そして私たちに先に気づいたボスキが剣を仕舞ってこちらへ向かって歩いてくる。
「よお、主様」
『ボスキ、トレーニングお疲れ様。調子はどう?』
「ずっとこんな感じだ。まぁ俺の休憩時間みたいなもんだから良いんだけどよ」
『え、止めないの?』
「なんで俺がガキの喧嘩を止めなきゃならねぇんだよ。散々言い合ったらそのうちまた俺に突っかかってくるんだよ」
「なるほどー…想像できますね」
「あ、主様!!お疲れ様です!」
「主様…来てたのか」
ようやく私とムーの姿に気づいたロノが駆け寄ってくる。その後ろをバスティンもついてくる。
『ふたりとも、お疲れ様。喧嘩するのはほどほどにね』
「コイツが突っかかってくるんですよ」
「俺は本当のことを述べているだけだ」
「てめぇ…!」
「わー!主様の前で喧嘩しないでください!」
「…ぐ…主様、すみません」
「…すまない、主様」
『もう。ふたりとも屋敷の周りを10周と腹筋腕立て100回ね!』
「…うげぇ!」
「…っく…」
苦渋の顔をしながら走り出すふたりにムーは安心したように息を吐く。
ボスキも感心したような表情をしている。
「主様はすげーな。あっさりと言い合いが収まった」
『今回は素直に従ってくれただけだよ』
「走りながら喧嘩し始めなければ良いですけど…」
「ま、俺もいい運動したから風呂でも入ってくる。主様、失礼するぜ」
『うん、ボスキありがとうね』
そうして私の屋敷の巡回は終わった。
無事にみんなのお仕事のフォローができたかはわからないが、協力的な姿がわかって嬉しいかな。
『ハウレス、いる?』
ハウレスの部屋へと帰ってきた。ノックをしたが返事がないため、少しだけ扉を開ける。中を覗き込むとベットに膨らみがあるのを見つけた。
「すぅ…すぅ……」
『…寝てる…』
ハウレスの寝顔はレア。目を輝かせてその寝顔を見つめる。起きないようにゆっくりゆっくりと近づく。
いつものキリッとした表情とは違って穏やかな表情で寝息を立てている。
これで、少しはいつもの疲れがとれたらいいな、とハウレスを見ていると自分も少し眠くなってきた。
巡回中、少し気を張っていたから気が緩んだせいかな。
ウトウトしてハウレスのベッドの横に座り込んで寄りかかる。
『少しだけ……』
「……ん、寝てしまってたか…」
ぼんやりする頭で起き上がる。ゆっくり休んだからか身体が軽い。
大きなあくびをしてトイレにいくために身体を横に向けて気づいた。
誰かの頭が見える。と、いうかこの髪色は…。
「主様…?」
なぜかベットの横に座って眠っている。
こんな姿勢では身体が凝ってしまう。どうしたものか、と考えて少し悩んで意を決する。
「し、しつれいします…主様…」
主様の膝裏と腰に腕を回して持ち上げる。至近距離の主様からは甘い香りがする。柔らかい肌が手と腕から伝わってきてなぜか罪悪感が湧いてくる。
優しく起こさないように自分のベッドに寝かせる。
今日1日、俺のために動いてくださってお疲れのようですね。
「主様、ありがとうございます」
主様が寝返りを打ってこちらの方へ身体を倒す。その表情は気持ちよさそうに幸せそうに微笑んでいる。
ロノのどんなに美味しい料理よりも、ゆっくりと眠る休息よりも、
いまこの主様の表情を見た時が一番癒されている気がする。
「…っふ、俺も他の執事に負けないくらい、主様のことが大好きなんだな」
ほほにかかっている主様の髪をそっと耳にかける。
こんな休日も、たまにはいいな。と心から思う。
明日から、また頑張ろう。
主様のご厚意を無駄にしないためにも。
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