アモンくん
少し長めのお話です。
事故の賜物…?(上)
「主様!今日は中庭のお散歩に行きませんか!」
『ん、今日は天気もいいしそれもいいね、じゃあ行こうムー』
朝、起きて身支度を整えるとムーがそう提案してきた。
一度大きく伸びをしてから自室を出る。
『アモン、おはよう』
「アモンさん!おはようございます!」
「主様!!!おはようございますっす!」
ちょうど中庭へ行くと花に水をあげているアモンがいた。
綺麗な花たちに囲まれているアモンはいつ見ても妖精さんのような神秘的な雰囲気を醸し出している。って言ったらちょっと大げさかな。
でも、なんだかここだけ空気が違う気がする。
『毎日水やりお疲れ様』
「ははっ、全然疲れることなんてないっすよ。俺は花たちの世話が好きなんで」
「アモンさんの育てるお花さんたちは本当にきれいに元気に育ちますよね!」
『花って育ててくれる人を見てるって言うよね』
「そーなんですか?主様」
「俺もどっかの文献で見たことあるっすね。話しかける方が育ちが早いとか」
「へぇえ、お花さんも生きてるんですね~」
ムーがアモンが水をあげた花に自分の鼻をくっつけている。
『アモンが良ければ水やり見ててもいい?』
「全然良いっすけど退屈かもしれないですよ?主様」
『んーん、中庭の雰囲気が好きだから全然退屈なんかじゃないよ』
そう言ってまた水やりを再開したアモンの横をついていく。
丁寧に丁寧に水やりをするアモンは真剣な表情もあれば花を見て愛おしそうに微笑んでいる。本当にここの花たちが大好きで大切に育てているのがわかる。
私もそんなアモンを見て、アモンの育てている花を見る。きれいにこちらを向いて花を咲かせている。
『なんか…アモンの育ててる花を見ると、ひとつひとつ表情が違うって表現の意味が分かる気がしてくるね』
「?どういうことですか?主様」
『同じ花で、同じ模様でも…ひとつひとつ個性が見えるって感じかな…』
「なるほど!確かにみんな違うからよりきれいに見えるのかもしれませんね!」
そんな会話をしていると、いつの間にか水やりをしていたアモンが遠くに行っていることに気づいた。
少し小走りでアモンの元へと駆け寄る。
「ふぅ、こんなもんっすかね」
アモンの元へと駆け寄る私、区切りがついて振り向くアモン。
ちょうどふたりが対面した時
バシャッ
『…きゃっ』
「わああ!主様!!大丈夫っすか?!すみません、ちゃんと周りを確認しておけば…」
『こちらこそごめん!私こそ注意不足だった』
アモンの持っているホースが私の服へとかかり、胸元から下が濡れてしまった。
ひんやりと冷たい服が肌へとくっつく。こっちの世界の服は薄手ではない為透けて恥ずかしいとかはないが、肌と密着する形の服のため肌が冷える。
「主様!屋敷へ戻りましょうっす!」
『ご、ごめんねアモン』
アモンに上着をかけられて屋敷へと戻る。屋敷の玄関でフェネスの名前を叫ぶアモンの声に程なくしてフェネスが奥の廊下から速足でやってきた。
「フェネスさん申し訳ないっすけど急ぎで主様のお風呂の準備をしてもらっていいっすか?」
「それは全然かまわないけど…どうしたの?」
『あはは、私の不注意で水やりしてるアモンのホースの水がかかっちゃって』
「それは災難でしたね。すぐにお風呂の用意をしますのでアモンは温かい飲み物を用意して」
「了解っす。主様、お部屋に移動しましょう」
部屋へと移動をした私をまずは椅子へとかけさせ、アモンはムーにベリアンを呼ぶことを頼んで、そのあとすぐに暖炉の火をつけた。
うーん、と少し悩むそぶりをしてから申し訳なさそうにこちらを向いた。
「…あの、主様」
『え?なに?』
「その…今日フルーレが朝からミヤジ先生と出かけていまして…」
『うん、朝の支度の時に聞いたよ』
「お着替えの手伝いができる執事がいないんで、俺でも大丈夫っすか…?」
『え…?!いや、あの…ひ、ひとりでも大丈夫だよ…?』
「主様…前に言ってたじゃないっすか。こっちの世界の服はひとりじゃ着づらいって…」
しばしの沈黙が流れ…私はアモンに手伝ってもらうことにした。だがさすがに脱がせてもらったりは恥ずかしいので濡れた服は自分で脱いで新しい服をかぶった状態から手伝ってもらった。
「…ここは、こうっすかね…」
『~…』
アモンが試行錯誤をしているがそのたびに肌にラインに触れられているような感覚に恥ずかしさが募る。
肩…腕…背中…腰…どんどん下へとアモンの指先が移動する。
『あ、アモンここまでしてくれたらあとは自分でできるよ…!』
「え、いや、俺のせいっすから俺にさせてくださいっす」
アモンが私のふとももに触れる。思わずビクッと身体が震えた。
私の反応にアモンが思わず手を離してこちらを驚いたように見る。
「あ…こ、怖かったっすか?すみません…」
『え、あ、いや…そうじゃなくて……その…恥ずかしいだけ…』
真っ赤になった顔を覆って力なく座り込んだ。恥ずかしさの限界に達してしまった。
「だ、大丈夫っすか主様…」
コンコンッ
「あ、はい!ベリアンさんっすか?」
「失礼します、主様。アモンくん」
床にへたり込む私とその横にいるアモンの様子を見てベリアンは不思議そうにしていたが、小さく笑ってティーセットを乗せたカートを引いて部屋の中へと入った。
「主様、体が温まる紅茶をお持ちしました」
『あ、ありがとうベリアン…』
「さ、主様。テーブルの方へ行きましょう」
アモンにエスコートされながらテーブルの方へ移動をし、腰を掛ける。
ベリアンがゆっくりとティーカップに紅茶を注ぐ。
アモンは私の後ろで待機している。
「…?主様、少々失礼しますね」
ベリアンが紅茶を淹れる手を止めてティーポットを置いた。
そしてそのままその手を私の方に向ける。
『…っ』
「主様、熱がございますね…お風呂は控えて今日はもうお休みになりましょう。ロノくんに風邪に優しい軽食を用意してもらいますね」
「え…?!主様、熱…って…」
『…体調は…悪くなさそうだけど…』
「これから崩すかもしれないので無理はなさらず休みましょう」
ベリアンがアモンの方を見る。アモンはベリアンの言いたいことを察して私の方へと駆け寄って手を出す。私はアモンの手に自分の手を重ねて立ち上がる。
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