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ルカスさん








『それでね!それでね…』


「ふふ、主様が楽しそうで私も嬉しいですね」





ふと部屋の窓から見えた景色に目を奪われる。
中庭で散歩をしていたのか主様とベリアンが仲良さそうに寄り添って話あっている姿から目を離せない。
ふむ、と顎に指をあててラックにかけてあった上着を手に取り羽織る。














「主様、疲れてはいませんか?」


『え?ううん!全然!楽しいから疲れてないよ』


「おや、それは嬉しいです」


「主様、ベリアン。こんにちは、散歩中ですか?」


「ルカスさん!」


『あ、ルカスだ。散歩中だよ!』


ニコニコと笑う主様はベリアンを見て微笑んでいる。
ベリアンも今まで見たことないような満ち足りた笑顔で主様を見ている。



「少し、主様に用事がありまして…お時間よろしいでしょうか?」


「なにかあったんですか?」


「…んー。ベリアンにはまだ内緒、かな…?♪」



いつものように微笑みを作ってベリアンの質問を流してみる。
不思議そうな顔をしていながら主様が私の方に駆け寄ってくる。
なぜかその仕草を見ただけで胸のあたりが温かい。



『じゃあ私ルカスのところに行ってくるね!』


「はい、いってらっしゃいませ主様」


「では、行きましょう」



手を差し伸べるとなんの疑問も無く手を重ねる主様。
中庭を後にした私たちはそのまま主様の自室へと向かい、私はティーセットを準備しにキッチンへと移動していた。



「ロノくん」


「ルカスさん!どうしたんですか?」


「主様とティータイムを過ごそうと思うのだけど、なにか用意できるかい?」


「あ!もうそんな時間なんですね!用意していたスイーツがあるんで、これ持って行ってください」


「うん、今日も美味しそうだね、ありがとう」


「へへっ!主様のために作るものはなんでも気合がはいっちまうっすね」


「わかっていると思うけど、頑張りすぎないようにね」


「はい!肝に銘じます!」



ロノくんとの会話もそこそこにティーセットを乗せたカートを主様の部屋に運ぶ。



「主様、失礼いたします」


『はい!どうぞー』


「ティーセットとスイーツをお持ち致しました」


『やった!今日はなに?なに?』


「ふふ、本日はマドレーヌですよ♪」


『あはは!ベリアンが喜びそう!』



そう言って微笑む主様はきっとベリアンの笑顔を思い浮かべているのでしょう。
少しだけ、意地悪をしたくなる気持ちが芽生える。



「私の前で他の執事を思い出して微笑むだなんて、妬けますね」


『え…っ?』


「ベリアンと仲が良さそうでちょっと妬いちゃうね」


『そ、そんなこと…ないもん…』



動揺して顔を赤らめる主様。
今、主様の心を占めているのは私の言葉ですか?
それとも、ベリアンへの想いですか?
そんなことは怖くて聞けませんが、前者であることを祈ってしまいます。



「…ふふ、冗談ですよ。さぁどうぞ」


『…うん、いただきまーす』



ぎこちなさそうに紅茶を飲む主様の近くに立って待機する。
紅茶を楽しんでからマドレーヌを頬張る主様にどこか安心をする。
先程までベリアンと一緒にいた主様を見ていた時は胸がざわついていたのに今、私と一緒にいる主様を見ると安心をするのは、きっとこれが恋心と言うものなのでしょう。
私だって長い時を生き、それなりの経験をしています。
この想いに気づかないわけがない。



「…主様は、ベリアンと特別な関係になれるとしたら、どうするのでしょう」


『…げふっ………ごほっごほっ…』


「おやおや…すみません唐突に質問をしてしまいました…お水も用意していますのでお飲みください」



私の差し出したコップを受け取って水を流し込む主様はほどなくして落ち着いた。



『…ふ、ふぅ…本当に突然どうしたの?』


「いえ、純粋な好奇心です♪」


『…べ、ベリアンとは本当になんていうか……』



ごにょごにょと言葉に迷っているかのような様子の主様にまた胸がざわつき始める。
自分の感情を安易に表には出せないので無意識に微笑んで主様を見つめると、少しだけ上目遣いの主様と目が合った。



『…ただの執事としか見れないかなぁ』


「…え?」



主様の言葉に思わず、素の声が出た。
笑顔を作るのも忘れてきょとんと主様を見てしまう。



『いや、本当にベリアンとは気兼ねなく話せる人ではあるけど…』


「……」


『それはこう!人としてベリアンが話しやすいだけであって、特別とかではないよ?!』


「………ふふっ」


『…ルカス?』



声を出して笑いだす私に主様は不思議そうにこちらを見る。
なんだかこころが軽くなった気がする。



「…じゃあ私が特別になれるチャンスがあるんですね…♪」


『…えっ』


「ベリアンを選んでしまうなら…ベリアンの幸せも願って身を引くつもりだったけど、そうじゃないのなら…私もこれから本気を出して主様を落としに行かなくては…ね?♪」


コツン、と主様の方に近づいて耳元でそう囁いてあげるとバッと身体をのけぞらせて主様はトマトのように顔を真っ赤に染めた。
そう、そうやって私だけ意識してくれればいい。
私で頭一杯になってもう他の執事のことなど考える余裕なんて与えない。
人と関わるのは苦手だけれど、心理戦や頭脳戦では少しだけ部が良いのだから。


「覚悟はよろしいでしょうか…?主様…♪」






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