フェネスくん
書庫の雰囲気
『…フェネス、いる?』
「…」
目的の人物を探して書庫に来た。
扉から少し覗きながら声をかけるも中から返事はなかった。
けれど、扉のその先に綺麗に輝く赤髪が見えた。
よいしょ、と重い扉を開けて中へと入る。物音を立てないように慎重に近づいて彼の姿が見えるところまできた。
『…』
床に座り込んで周りには本をたくさん積み上げてまるで本に囲まれている彼は集中しているのか真面目な顔で本を読んでいた。
彼を囲んでいる本を間挟んで隣に腰をかけた。
本のにおい、何も物音を立てるものがないこの空間。そこに彼が本をめくる音。
隣にいる彼を見ると座っているのに身長が大きく見える。
何か自分の中から欲望が出てきて、私とフェネスの間にある本をゆっくりとどかしていく。表紙を見てもなんの本なのかわからないようなものが多い。きっと中身を見てもわからないだろう。
『…♪』
本をどかし終えた私は一歩一歩慎重にフェネスの隣に移動した。
あと数センチで肩と肩が触れてしまいそうな距離。ドキドキしながら彼を観察する。
するとフェネスは本を読み終えたのかふぅと息を吐いて本を閉じた。
「…っあ、あるじさま…?!あ、す、すみません俺、本に集中してて…」
『お、落ち着いてフェネス。私も邪魔しないようにこっそりと入ってきたからっ』
「主様、こんなところに座ったら汚れちゃいますよ。せめて俺のハンカチの上に座ってくださいね」
『座ってからもうだいぶ時間たってるから大丈夫』
「……えっと…ここに来てからどれくらい時間を過ごしたのでしょうか?」
『…多分30分ほどは?』
顔を赤らめてやってしまったと言わんばかりにしょげている彼。
それから申し訳なさそうにこちらを見て謝るフェネスに笑って大丈夫と伝えた。
すると突然フェネスが何かに気づいたように驚くと、私から少し離れた。
「俺、主様に近すぎましたね!すみません」
『…?私から隣に来たんだよ』
「…あれ?」
『私も本読みたいから隣で読むね』
「執事が主様と並んで本を読むのは…ハウレスに見つかったら怒られちゃいます」
『ふふっ、見つかったら私も一緒に怒られてあげる』
本のにおいと、何も物音がするものがない空間。彼と私が本をめくる音。
そして肩から伝わる彼の温もり。
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