ルカスさん
『今の時間は部屋にこもって薬の調合の時間、か…きっと天使狩りの時用の傷薬とかかなー…』
頭の中に刻み込んだ最愛の人の行動パターン。
『…ある程度薬の調合が進んだらベリアンの日程次第でティータイムにするはず…』
いつ顔を見れるのか考えては口元が緩む。
『…でも、今日はベリアンがグロバナー家に呼び出されているから、きっと私のもとに来てくれる…』
目を細めて想像をする。
『…あぁ、早くルカスに会いたい』
ダメだとわかっていても、ストーカーまがいなことがやめられない。
『ルカス、ゴミまとめにきたよ』
「おや、主様。そんなこと主様にさせるわけにはいかないな…ラムリくんはどうしたのでしょう」
『…ラムリはきっとまたサボリじゃないかなぁ』
「…ふぅ、また私から注意をしないと…」
『いいのいいの、何かしてないと部屋で退屈しちゃうから。身体を動かすためってことで私に任せて』
適当に理由を付けてものが散乱したルカスの部屋をぐるりと見渡す。
ほとんどが薬の調合や貴族たちからの書類や手紙、天使などの調査資料などなど、難しい文字がずらりと並んだ面白くないものである。
だが、ここにはたまにルカスに関するお宝も眠っているから私は今ここに来た。
『あ、また洗濯物し忘れたでしょ』
「少し研究に没頭してしまってね…」
把握済みです。
『ついでに洗濯してくるね』
「いえいえ、大丈夫ですよ」
『ついで♪ついで♪』
「これではどちらが執事かわかりませんね…」
ゴミを集めながら部屋の整頓もしていると、書類を書き終えたのかルカスが立ちあがる。
「はい、主様。私の仕事もキリがつきましたのでそれくらいで大丈夫だよ」
『……そっか。じゃあ残りはラムリに任せるね』
「ありがとうございます主様。おかげで綺麗になりました」
『いえいえ、仕事の邪魔してごめんね』
「主様のお姿が見れただけで私は嬉しいですよ」
ふふ、とふたりで笑いあって私はルカスの部屋を出た。
ゴミをまとめた袋とルカスの洗濯物を持って、自室に向かう。
部屋に入り、鍵をかけ、椅子に腰かける。
『ふふ…洗濯物までゲットできた…』
ルカスの洗濯物に顔をうずめて大きく呼吸をする。
まるで彼に包み込まれているような気分になれる。シャツを2枚とハンカチだけなのが少し残念。下着も混ざっていればよかったのに、せめて靴下も欲しかったな、とないものねだりもする。
『これも3日くらい堪能してから洗濯してアイロンかけて返すからね…』
愛しい人に話しかけるようにシャツにそう言ってもう一度匂いをかぐ。
それを数分…数10分と堪能してからゴミ袋をあさる。
ゴミなど言ってはいけない、これはルカスから生まれたものなのだから。
『髪の毛数本…書き損じの手紙…ふへへ…』
ひとつひとつを眺めてルカスを想い浮かべる。
うっとりと見とれながら鏡台の中にある小箱を取り出す。
この中にはこの行動に目覚めたときから集めているルカスに関するものが詰め込まれている。
もちろんルカスや他の執事には言ってもないし知られてもない。
『ぁぁ写真も欲しいな……こっちの世界じゃカメラなんて手に入らないし…はぁ……どんどんルカスがたりなくなる…』
小さくため息を吐いて小箱を鏡台に直す。
再度シャツに手を伸ばして抱きしめながら鼻をこすりつける。
このままルカスの香りと混ざり合いたい。ぐちゃぐちゃにどっちかわからなくなるまで一緒になりたい。
『ルカス…ルカス……』
決して主従関係は越えられない。
それをわかっているからこそこういう手段でしか想いを伝えられない。
罪悪感と背徳感。
後ろめたさはあれど、満たされる。
『ごめんルカス!返すの遅れちゃった』
「主様、ありがとうございます。綺麗にしてくださって本当にありがとうございます」
『フルーレとシャツのほつれとか、ボタンの縫い直しとかもしたんだよ』
「ふふ、主様は素敵なお嫁さんになれますね」
『そ、そんなことないもん…』
ルカスの言葉に素直に照れながらシャツを名残惜しく返す。
ニコニコと変わらずに微笑む彼の姿を目に焼き付けながら仕事の邪魔にならないようにと話を切り上げると部屋に戻った。
今日もストーカー活動を頑張ろう。
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