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アモンくん








『貴族の女の人の方が自然だよなぁ…』



なんだか、執事達が貴族と関わっていると私が場違いなような気がして少し居心地が悪いのは感じていた。
私は別の世界から来た人間。それはここで過ごしていたって変わらない事実。
この世界で生きてきたもの同士の方が自然に見えるのは普通のことなのに。



「あーるじーさまっ」


『きゃっ!』


急に視界にドアップの顔が出てきて小さな悲鳴をあげる。
よく見るとその顔はアモンで私が座っている椅子の後ろから顔をのぞかせていたようだ。



「あははっ!良い反応っすねぇ!」


『も、もう!驚いたじゃん!!』



アモンが来たことに少し安心しつつも今は顔を合わせたくなかったと思う自分もいる。



『さっきの女の人と親しげだったね?』


「ああ、なんか前から俺たちと話してみたかったらしいっすよ。だいぶ悪魔執事についても調べててくれてみたいで色々と話せたっすね」


『へ、へぇー…なんか意外だね』


「あんな貴族は初めてっす。それも女性で」



アモンは先程の女性を思い出しているのかこちらを見ない。



「…主様は」


『…ん?』


「主様には、お慕いしてる男の人とかいないっすか?」


『…っ』



アモンの意外な言葉に思わず目を見開く。
すぐに顔を反らして意味もなく椅子に座りなおす。



『……いるよ』


「…え?」



言葉を言い切ってからアモンの方に振り返ってまた意味もなく、微笑む。
そう、意味なんかない。



『冷えてきたし、中もどろっか』


「あ…俺の上着…」


『大丈夫、フルーレにあとでブランケットもらうから』


「でも、風邪ひいちゃうっすよ」


『いいの。…ありがとう、アモン』


























「ありがとうございました、ご婦人」


「ふふ、こちらこそ。久しぶりにこんなにダンスを楽しみました」


俺の正装にひっかけてしまった髪の束を手にとる。
紳士がするような髪に口づけなど俺にはできないけれど耳にかけるくらいはしといた。
嫌な顔などせずに頬を染める姿に主様を重ねる。



「執事様、実はわたくし執事様たちを支持しておりますの。以前、天使が現れた時に助けていただいて……」



女性の話を聞きながら記憶を辿るが俺の頭の中には主様しかないのでこの女性のことはまるで覚えていない。
チラ、と主様の方を見るとフルーレと親しげに話しているのが見える。
早く戻りたいのに、そう思って笑って女性の話を聞か流す。



「あら、次の曲が始まってしまいますね。良ければもう一曲……」


「すみません!俺もう行かないと」


「あ…執事様!」



話題が一区切りついたところで一礼をして女性の元を去った。



「主様!」



主様がいた場所には主様もフルーレの姿もなかった。
貴族の相手を終えたであろうベリアンさんやルカスさんに聞くも主様の行方を知ってる執事はいなかった。



「早く会いたいのに…っ」


会場を出て廊下を早足で歩く。
キョロキョロと周りを見渡しながら歩いていると見慣れた姿が見えた。



「フルーレ!」


「あ、アモンさん。ダンスは終わったんですか?」


「さっさと終わらせてきたっす。それより主様は?」


「今、このテラスで休憩中。ひとりになりたいらしい」


「失礼するっすよ」


「あ!アモンさん!」



フルーレの言葉を遮ってテラスの中へ入る。
椅子に腰掛けた後ろ姿に安心してしまう。
いつもの調子で驚かすと思ったとおりの反応をする主様。この反応が好きでいつもいたずらをしてしまいたくなる。
だが、そんな主様が先程の貴族の女性の話を出してくる。



「その質問の意図は嫉妬っすか?」



そう聞きたくなって口を開いた。
いつもみたいに冗談交じりに。
でも今は、冗談じゃない主様の言葉が欲しくなってしまう。



「主様には、お慕いしている男の人はいないっすか?」



主様が驚いたように目を見開いた。
俺の質問が意外だったのだろう。
主様の世界にいるのだろうか。それとも、俺以外の執事にいるのだろうか。
俺は不安を胸に主様を見る。主様は背を向けている。



『いるよ』


主様の言葉に俺は頭が真っ白になった。
たくさん聞きたいことはあったはずなのに。俺に微笑みかける主様の姿を見たらそんなこと許されない気がして。
顔を逸らして唇を噛んだ。



『冷えてきたし、もどろっか』



立ちあがった主様を引き止めたくて俺の上着を差し出すも、やんわりと断られてしまう。
執事と主様、その一線を引かれてしまった気がした。



『いいの。ありがとう、アモン』



俺は、主様に俺の気持ちを伝えたかったっす。
そんなこと許されないのはわかってるっすけど、俺が主様のことをお慕いしていることだけでも、知ってほしい。
俺じゃ主様のお慕いしている人に勝てないかもしれないっすけど、主様のためなら俺はなんでもできるし、なんでもしたいっすから。


その想いは冬の冷たい風と一緒に俺の横を通り過ぎて行った。
フルーレと話す主様の姿はどこか今までの主様と違った人に見えて、遠い人になってしまった。



『アモン、行こう』


「了解っす、主様」







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