アモンくん
デビルスパレスにも冬が来た。現実と変わらず雪が降り積り外は真っ白な世界に包まれている。
白くなった道をアモンと歩く。
アモンの手入れしている中庭には冬の花が少しだけ咲いているが冬独特の寂しさがある。
『…え?パーティがあるの?』
「そうっす。この時期に冬の特産品を吟味するとかなんとか言って貴族が集まるパーティがあるっす。まぁ、この雪道なんで小規模っすよ」
『なんでそんな集まりに執事達が…』
「っま。雑用っすね。馬車が通るための道づくりだったり商人たちの護衛、あとは暇つぶしの余興とかっす」
『私も手伝うよ』
「だめっすよ主様にそんなことはさせられませんっす。でも、美味しいご飯が多いっすから主様にも食べてほしいっすね」
『アモンがそう言うなら本当に美味しいんだ?』
「あ、主様髪に雪がついてるっすよ」
アモンが私に手を伸ばして髪に触れる。
撫でるようなその優しい手つきに思わず胸がドキッと跳ねる。
こういうことを平気な顔してできてしまうアモンは私のことを本当に主としか思っていないのだろうか。
『あ、ありがとう…』
「だいぶ冷えてきたっすね。そろそろ温かい部屋に戻りましょうっす」
『そうだね』
チラとアモンを見ると傘をさしていた手が冷え切って赤くなっているのが見えた。
ずっと冷たい風にさらされてしまったからだろう。
『…あ、アモン。あとでフルーレを部屋に呼んでくれる?』
「フルーレっすか?了解っす」
アモンが笑って頷いた。
そのまま私たちは部屋に戻ってアモンが暖炉に薪をくべてくれた。
暖炉の近くのソファに腰を掛けて渡してくれたひざ掛けを足にかける。
「じゃ、少し待っててくださいっす。フルーレ呼んでくるっすね」
『ごめんね、お願い』
「任せてくださいっすよ!」
たまに小悪魔のようにいじわるしてくるアモンだけど、本当に素直で良い子だな。いつもこうして私のために動いてくれようとしてるのがわかる。そのお返しが、私にもできたらいいな、とあることを考えた。
そのためにはフルーレの協力が必要。
「主様!お呼びですか?」
『フルーレ!うん、あのね、お願いがあって…』
私に呼ばれたことが嬉しかったのかすぐに飛んできた笑顔のフルーレ。
私の言葉に首を傾げた彼に私は説明をするー…。
パーティ当日。
朝早くから多くの執事達がパーティ会場に向かった。
道の整備やパーティの準備を手伝わされるかららしい。
お留守番係になった私と地下組の3人と過ごす朝。
「ミヤジ先生、パーティにはいつ頃向かわれるんですか?」
「お昼頃には向かおうか」
「フルーレ、はしゃぎすぎてはダメですよ」
「そのままそっくり返すよラト」
『あはは』
そんな会話をしながら時間を過ごし、4人で馬車に乗ってパーティ会場へと向かった。
「主様!」
『アモン、パーティは大丈夫そう?』
「力仕事ばかりでヘトヘトっすよ…」
『あはは、お疲れ様』
会場の入り口付近にいたアモンが私に気づいてエスコートをしてくれる。
後ろからフルーレたちのブーイングが聞こえる。馬車の中でフルーレとラトがどっちがエスコートをするか言い合ってたからだろうなぁ…
『ご飯はもう食べた?』
「主様と一緒に食べたいから我慢したっすよ?」
『…っ』
「あれれ顔真っ赤にしてどうしたっすか?」
『さ、寒かったからしょうがない…』
「あははっ」
アモンの言葉に照れながら悪魔執事達が集まっている場所に合流する。
貴族たちはパーティを楽しみながらも陰で私達を見ながら扇子で口元を隠しながら話しているのが見えた。
『…私も挨拶に行った方が良いのかな』
「いえ、それは私達の役目なので主様は大丈夫ですよ」
ルカスが視線を遮るように私の前に立った。
「俺と一緒にパーティを楽しみましょっす主様」
『うん、そだね』
執事達があいさつ回りという名の貴族たちの暇つぶしに使われに行った。
私はフルーレが取り分けてくれた食事を堪能しながらアモンと談笑する。
「かっこいい執事様、私と一緒に一曲いかが?」
「俺っすか?……喜んでお付き合いしましょう、貴婦人」
私を一瞥しながらアモンに手を差し伸べる貴族女性に視線もくれずに食事を続ける。
主様として私ができることは極力「威厳のある悪魔執事の主」を演じること。私はいわば悪魔執事達の弱点。その私の情報は貴族に流れてはいけないらしい。
「アモンが踊っている間俺がおそばにいますね、主様」
フルーレがにっこりと微笑む。私を安心させたいのかな。
貴族女性の手を取ったアモンの踊っている様子を眺める。ダンスを踊っているんだから距離が近いのもこっちを見てくれないのも当たり前なのだが少し複雑な気分になる。
踊っている途中、アモンの正装に貴族女性の髪が引っかかったのかさらりと一束の髪がたれた。
幸いなことにすぐに曲が終わり、互いに礼を交わす。
するとアモンが笑顔で貴族女性の髪に触れている。髪を耳にかける。頬を赤らめる貴族女性。
先日、私の髪についた雪をはらってくれた時のことを思い出してしまう。
『……』
「…主様、ご気分が優れませんか?」
『…え?どうして?』
「どこか…お辛そうに見えたので…」
フルーレが言いづらそうにそう言った。そんなに表情に出ていたことに慌ててフルーレに大丈夫だと伝えた。
『わ、私も踊れるようになったほうが良いのかなって…!ほら、みんなとも踊ってみたいし…』
「それは良いですね!ダンス用の主様の衣装を作らなくっちゃ!」
『ふふ、気が早いよ』
そんな話をしながらアモンを見る。
まだ、貴族女性と話している。すぐに戻ってくると思っていたのに。
『ダンスって二曲連続とか踊るものなの?』
「パートナーだったり、家族、夫婦だったりするとそういうこともありますけど、基本は一曲だけですね」
『そうなんだ…少し風にあたりたいからテラスの方に行ってくるね』
「あ、じゃあ俺もついていきます」
『…ひとりでいたいから中で待機してくれる?』
「え、あ、はい!」
フルーレを出入り口で待機させてテラスへ出る。
ふぅ、と息を吐いて備え付けてある椅子に腰かけた。
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