バスティンくん
指切りげんまん
主様がこの屋敷にきて1か月ほどが経過した。
主様はとても不思議な方だ。今まで他の執事と必要以上に関わらないように遠ざけていた俺が、いつの間にかその執事の輪に入るようになった。
複雑な心境だ。
自らが離れていたのにこの空間が嫌ではない。
『バスティン?ハウレスがトレーニングするって』
「…ああ。わかったありがとう主様」
『あ、ロノも忘れずにつれていくんだよ?』
「アイツは…うるさいから」
『あははっ!またそういうこと言って』
人とのコミュニケーションが苦手な俺と話していても面白くなどないはずなのにいつも笑顔で話しかけてくれる。
悪魔の力を見ても物おじしないその姿にも好感が持てる。
俺は主様を守りたい。そのために強くなりたい。
どんなことからでも主様を守れるように、もっともっと強くならなくてはならない。この先も主様が笑っていられるように。
「…っ。なんだバスティン今日はやけに食いついてくるな…」
「俺は、もっと強くなる…」
「っふ。何かがバスティンに火をつけたのか…ならば俺も本気で行こう」
いつもは体力切れを起こしているトレーニングもハウレスと互角に戦えている。
主様を想う気持ちがこの力を出しているのかと思うと本当に不思議な人だ。
ハウレスが構えなおす前に自分の武器を横から振るう。
勝負あり。
「っぐ……バスティンに負けるとはな」
「…はぁ…はぁ…俺が…勝った…?」
「…ふぅ。その調子だバスティン。これはまぐれではなくお前が成長している証だ」
「…ありがとうハウレスさん」
いまだに自覚が湧かない。
だが、今日の動きは今までよりも明らかに違った。
俺はいてもたってもいられずに屋敷に戻った。
そしてとある部屋の前に立つ。
コンコンッ
『はい?どうぞー』
「失礼します、主様」
扉を開けるとソファに腰かけて本を読んでいる主様の姿。
こちらを見て不思議そうに微笑む主様に返事も待たずに俺は不躾にも歩み寄る。
俺は今すぐにでも主様に自分の気持ちを伝えたかった。
こんな気持ちが初めてだった。自分の感情など今まで誰かに伝えるなど…
「主様、俺、ハウレスさんに勝てたんだ」
『え!!すごいじゃん!今までまだまだ差があるって言ってたもんね』
「主様のおかげだ、主様を守るために強くなるって思って戦ったらなぜか…力が出てハウレスさんの動きもよく見えて…そうしたら勝てていたんだ」
『…ふふっ』
「なんだ?」
『そんなこと直球に言われたら恥ずかしいや。…でもバスティンこちらこそありがとう。私、力になれているか不安だったけど…そういうことを言ってもらえたら私この屋敷にいてもいいんだ、って思えてくる』
「っ!俺は、主様にいてほしい。俺に守らせてほしい。主様となら俺はもっと強くなれる」
『じゃあ約束。私はみんなのそばにいる、バスティンは私のことをずっとそばで守ってね』
小指をこちらに向ける主様の行動の意図が読めずに見つめてるとこちらに身体を向きなおした主様が俺の手を掴む。
突然のことに動揺するが、主様に危害を加えるわけにもいかないので大人しくしていると、俺の小指と主様の小指が絡み合った。
『これは私の元の世界での約束するときにするものでね、ゆーびきーりげーんまーん嘘ついたらはりせんぼんのーます!』
「は、針だと…」
『ふふ、怖いこと言うけどそれくらいやりたくないことを約束するほど私たちはお互いを信じて約束しますってことなの』
「…それは破れないな」
『約束したあとだけどバスティン、無理だけはしないでね。みんなが心配しているより、もっともっと私はバスティンのことが心配だから。たまにはここに休憩しに来てね。いつでも待ってる』
「ああ、約束する」
約束なんて、もう今後しないだろうと人との深いかかわりをやめてから思っていた。
けれど、そんなことを忘れるくらいに自然と言葉が出ていた。
主様は、不思議な人じゃないな。
主様は、俺を信じて強くさせてくれる、俺の大切な人だ。
昔の、俺の相棒のように。
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