ルカスさん
『………』
この屋敷に来てからそれなりの時間が経った。執事達は良好な関係を築けて…楽しい時間を過ごした。
夏を超えて秋に入った。現実よりも過ごしやすいこの土地の環境は木々が美しく秋色に染まっている。
だが、すぐに冬に入るらしい。
「主様?どうされました?」
『…秋ってすぐ終わっちゃうよね』
「…そうですね、美しい季節なのにもったないです」
私の少し後ろでひかえていたルカスが私の隣に立って少し遠くに見える紅葉を一緒にみてくれる。
少しだけ、ルカスの横顔をみる。
紅葉にも負けない美しく整った顔は横顔でもわかるくらい。
『…』
どんなに彼を見つめてもこの気持ちはきっと彼には届かない。
行き場のないこの恋心のぶつけ場所も、隠す場所も捨てる場所も、私にはわからない。
「主様?そんなに見つめられるとさすがの私も照れちゃうな…♪」
『あ、ごめ…その、ルカスの赤毛も、綺麗な赤色だなって…』
ルカスの瞳に私が映るのを見てドキッとする。思わず変なことを口走ってしまいルカスが瞳を細めて微笑んだ。
今、時間が止まったら私たちはずっと見つめあって微笑んでいられるのだろうか。
なんて、らしくないことを考えてしまう。
「主様はいつも嬉しいことを言ってくれますね」
『私、ルカスの髪……』
そう言って口を止める。この先の言葉は言ってはいけない気がしたから。きっとそのまま私の気持ちも乗ってしまいそうで。
『…そろそろ行かなくちゃ』
「もうそんな時間ですか、主様との時間はあっという間だね」
立ち上がってルカスの方を見る。
明日もきっと私は彼と時間を一緒に過ごす。
そんなことわかっているのに。
今はなんだか彼の姿を目に焼き付けたくなった。
「また、帰ってきてくださいね、主様」
『うん、またね、ルカス』
交渉役が得意な彼にはきっと私の気持ちなどわかりきっているのだろう。
それでも執事としての距離感を保っているのは、それが彼の気持ち。
お互いの気持ちを伝えあうのなんて、できない。
今日も瞳の中に彼への気持ちを込めて彼を見つめる。
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