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ボスキくん




『ボスキ!!』



俺を呼ぶ声に振り返る。
そこには俺の守るべき存在、主様が笑顔で駆け寄ってくる姿が見えた。
だが、最近その存在が特別になった。俺と主様は世にいう恋人関係になれたのだ。



「よう主様、走ったら転ぶぞ」


『子供じゃないんだから!』



俺の横に来て俺の右腕に自分の腕を絡めて身を寄せてくる。
普段の俺なら鬱陶しく思えるこの行動も主様なら振りほどこうと思えない。



『ボスキ、私のこと好き?』


くいっと背伸びをして俺に耳打ちをする。
反射的に身体ごと離して主様の方を凝視すると本人は答えを聞いてもいないのに幸せそうに微笑んでいる。
思わず顔ごと反らす。



「なんで俺がそんなこと…」


『えへへ、私たちもう主と執事の関係以上じゃん』



だらしなく頬を緩ませる主様の表情に柄にもなく胸が跳ねる。
だが俺はその主様の期待に応えることはできなかった。
どうして主様と俺は特別な関係になったのに今更そんな恥ずかしいことを聞くのか?そして言ってほしいのか?
そんな考えがでてきてしまって今この空気から逃れるので必死だった。











「…」



ふと、昼寝をするために中庭の落ち着いたところで横になっていると先程の主様との会話をおもいだした。




「…す…」



もう一文字声に出そうとするも、こんなことをしている自分に虚しさを感じて頭を振ってかき消した。
バカバカしい。恋人になることを認めたんだから気持ちは伝わっている。そう自分に言い聞かせて。




「……」




寝転がっていた身体を起こす。
頭をがしがしと掻くとアモンに結んでもらった髪が崩れた。
そんなことも気にせずに頭の中は俺の言葉を期待する瞳の綺麗な主様が離れない。
深いため息が無意識に出た。


















『ねぇねぇボスキ!綺麗に咲いてるよ』


「そうだな、部屋に合いそうだ」



中庭を主様と歩く。いつもの日課なのだがいつも主様は楽しそうにしてくれている。
俺と一緒に居るのが楽しい、その気持ちが俺にもわかるくらいに伝わってくる。
そう、言葉にしなくたってこうやって気持ちは通じ合える。
俺の気持ちも主様に伝わっている。それでいいんだ。



『へへっ…どう?』



花を一輪手折って自分の耳にかける主様は俺の方を向いてそう問う。
主様の髪色によく似合う鮮やかな花。



「…くくっ、花がより一層綺麗に見えるな」


『えー!ちょっとそれどういうことー!』



むっとしながらも楽しそうに笑う主様は花が気に入ったのかそのまままた中庭を歩き始めた。
風でなびく主様の髪。咲き誇る花を眺める主様の横顔。
俺は今、ようやくわかった気がした。



「…似合ってる」


『ん?なに?ボスキ?』


「…花なんか無くたって主様はきれいだと思うぞ」



気持ちってのは伝えようとする気持ちよりも先に言葉が出てしまうんだと思う。



『…っ』



俺の言葉に主様は一瞬で顔を赤らめて照れくさそうに笑った。
いつもと違うその笑顔を見て俺も思わず赤面する。
主様に背を向ける。



「……ほら、もういいだろ。アモンに花を飾らせるからもう戻ろう」


『え!ねぇ、もう1回!もう1回言ってよ』



俺の横に来ようとする主様よりも速足で歩く。今この顔を見られたくない。
どぎまぎする俺を主様は笑う。



「言わねぇよ。もう十分だろ」


『えー?嬉しかったけどなぁ』



言葉にするのも悪くないと思う。
そんな1日だった。


ま、こんな恥ずかしいこと主様以外に言えないけどな。






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