ボスキくん
とある昼下がりー…。
ボスキのお昼寝に合わせて木陰の涼しい場所に来ていた。
辿り着くなり私の座る場所に自分の上着を敷いて隣で寝転がるボスキに苦笑いしながら腰を掛ける。
『ボスキ、寝ちゃった?』
「……」
ボスキから返事はない。これ、無視してたら本当に執事として失格よね…。
頬を撫でるようにそよ風が吹く。
こんなにもゆったりとした時間を過ごすのはいつぶりだろうか。
むしろ初めてなんじゃないかとも思える平和な時間。
『ふわぁ~ん』
思わず大きなあくびが出てしまう。
隣でボスキが寝てるからつられて眠気が来ちゃったのかな。
『……』
しばらくボスキを眺めてからボスキの上着の上に寝転がる。
身体をくるっとボスキの方に傾けて目を閉じる。
木々が風に揺られる音しかしない世界にボスキの鼓動が少しだけ聞こえた気がする。
もしかしたら自分の物だったのかもしれない。
けれどそんなことも忘れていまうくらいに夢の世界に入るまで時間がかからなかった。
『んぅ…』
どれくらい眠ってしまったのだろうか。
寝ぼけ眼で視界を確認する。
なんだか眠ったときよりも暖かくて…枕があるような気がする。
誰かが部屋に運んでくれた…?いや、視界はちゃんと外だ…。
『…ん?』
頭がだんだんハッキリしてきて気づいた。
ボスキの香りとボスキの寝息。私がくっつく形で眠ったはずなのにいつの間にかボスキの腕枕をされ、ボスキが私の身体に寄りかかるように眠っていた。
『わ…っ』
腕枕しながら寝てたら疲れるだろうに、とあまり体重をかけないように頭をずらす。
真横にあるボスキの寝顔。少しだけ眉が柔らかくなって子供のような寝顔のボスキに少しだけ笑ってしまう。
『寝てるとこもかっこいいとか本当…罪だよなぁ』
つんつん、と頬をつついてみる。ふにふにと柔らかい感触が指から伝わる。
一瞬ピクッと眉が動いた。
「…主様、あんまちょっかい出すなよ」
『…わ、ごめ…わぷっ』
唐突にボスキに抱きしめられるような形になる。
胸元に鼻がぶつかる。
ボスキの左腕が私の腰に回されそのままポンポンッと一定のリズムで叩かれる。
「わかったら大人しく寝とけ」
『も、眠たくな…っ』
喋ろうとすると頭を押さえられて胸板に直撃する。
拒否権はどうやら私にはないみたい。
それでも腰をたたく手つきは何よりも優しいんだからずるい。
しばらくそのままでいると自然と眠気がやってくる。
『ボスキ…』
虚ろの中彼の名前を呼ぶと今度は優しく身体が包み込まれた。
あれ、そういえば…ずっと腰を叩いてくれてたけど…ボスキ、寝てないのかな…。
そんなことを考えながらまた夢の中へと落ちていった。
「……やっと寝たか…。ったく…主様にひっつかれるとこんなにも寝れねぇとはな…」
腕の中で眠る我が主様。
無防備で幸せそうに眠るその寝顔を見ていると心臓の音がやけにうるさい。
起きていたら起きていたらで急に頬なんて触りだすし、人の気も知らないで。
「…ま、いいもん見れたからいいか…」
サラッと愛しの主様の髪に義手の指を通す。
いつまでもこうして平穏な時間が過ごせたらどれだけ幸せだろうか。
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