このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ハウレスくん







とある日ー街にてー…




「バスティン!!東側からもくるぞ!!!」


「わかった」


「ロノ、引き続きそっち側の天使を頼む!」


「おう!」



天使が出現してそれを狩りにきた私たち。
ハウレスが状況を判断しながらロノとバスティンに指示を出している。
その間にも主である私を守りながら天使を狩っている。
目の前で次々に倒される天使を見ながら早く終わるよう祈る。



「…っ主様!天使からの攻撃が来ます!こちら側へ避難を!」


『わ、わかった!!』



ハウレスの差し出す手を握って言われるがまま移動をする。
ふと私の頭上に影が差した。



「主様!!!!」



振り返ろうとした瞬間ハウレスの声とかぶって視界が暗転した。
轟音。押しつぶされる感覚。



『な、なに…?え…?』



私にのしかかる重さは視界に見えるハウレスの腕からハウレスが私に覆いかぶさっているのがわかった。
まるで身を預けているようにハウレスの全体重が私ののしかかっている。
おそるおそる振り返る。



『は、ハウレス……?』



ポタ、と赤い雫がこぼれた。
私を守るように覆いかぶさっていたハウレスは頭から血を流して意識を失っていた。
慌ててハウレスを受け止めるように身体を反転させる。身体をできる限り揺らさないように気を付けて。



『ハウレス!!!!ハウレスったら!!!!!起きて!!!!お願い!!!!』



いくら大きな声で呼びかけてもハウレスは動かない。
私の声に気づいたのかバスティンがこちらに駆け寄ってきた。



「主様!」


『ば、バスティン…!ど、どうしよう…私のせいで…ハウレスが!!』


「……大丈夫だ、息はある。すぐに天使を片付けてルカスさんに診てもらおう」


『…う、うん。ごめんね…』



冷静なバスティンをみて取り乱していた私も少しだけ冷静になった。
できることを、と思って着ていた上着をハウレスの頭に巻き付けた。こんなので止血になるのかわからないがやれることをやろうと思う。
どんどんハウレスの顔は青白くなってきている。失血量が多すぎるんだ。
頭だけではなく体中にも傷がある。
周りを見渡すと大きい瓦礫がいくつも転がっていた。
上を見上げる。建物が半壊している。



『まさか…あれが崩れて…下敷きになりそうな私を守ったの…?』



そんな無謀な…と思ったけれど、執事である彼は命がけで主である私を守る。それに疑問や迷いなどないのだろう。
私からしたらそんなの重いし責任で押しつぶされそうだし、なにより取り残されて悲しいじゃない。



『ばかハウレス…っ。死んだら本当に嫌いになってやるんだから…』




涙を流す私のもとに天使を狩り終えたロノとバスティンが駆け寄ってくる。
二人係でハウレスを馬車に運んで屋敷へと戻る。
私たちを見たベリアンがすぐにルカスに伝えて、そのままハウレスは運ばれていった。
私とロノ、バスティンはベリアンに手当てを受けた。



「おふたりはお怪我が少なくてよかった」


「まぁ俺だからな」


「ふん。俺がフォローしてなければ後ろから攻撃くらってたな」


「なんだとこのやろう!!」


「ふふ、元気そうでなによりです。はい、手当てが終わりましたよ」


「ありがとうございますベリアンさん!……主様、大丈夫ですか?」


『え、あ、うん…』


「ハウレスさんなら大丈夫だ、主様」


「そうですよ、ルカスさんもいますし。あとで一緒にお見舞いに行きましょう」



3人が私を見て励ましてくれる。きっと一緒にいる時間が長いからハウレスが無事に元気になることを信じているのだろうか。
それなのに私は不安で仕方ない。私のせいでハウレスを失うことになったらどうしたらいい?



『…私、ルカスのところにいってくる!』



制止の声も聞かずに部屋を飛び出す。
3階に上ってルカスの部屋をノックする。



「ちょっと待ってくれるかい?今手が離せない…からっと」


中からルカスの声が聞こえた。
少し迷ってから扉を開けた。


『ごめん…ハウレスの様子が心配で……』


「おや、主様だったんですね」


ベッドに横たわるハウレスは苦痛に顔を歪めている。そこらじゅうに包帯が巻かれて、生傷もまだ残っている。



「んー…まだ少しかかるし、この姿を主様に見せたくはないんだけど…」


『…だ、大丈夫…そばにいたいだけだから…』



傷を私の視界から隠すようにルカスが立った。
私の返答に少しだけ困っている様子だが治療に戻るルカス。



「…うぐぅ……!」


「ハウレスくん、もう少しだよ。頑張ってね」


「…はぁ……はぁ…」


カチャカチャと器具を使っては、配合した薬を塗る。
ハウレスのうめき声に胸が痛む。



「うん、とりあえずは処置はできたかな。あとは様子を見て薬を処方しようか」


『…終わった?』


「主様、お待たせしてすみません。命に別状はないですよ」


『ハウレス…!』



私がハウレスに駆け寄る。
まだ苦しそうにしているが傷や血が見えないだけでも生きていることを実感できる。


「もしかしたらこれから発熱や痛みが出るかと思いますので数日は様子見が必要です」


『わ、私が看病する!!!!』


「主様……きっとハウレスくんのことだから主様をかばったのだろうけど、責任は感じなくていいんですよ。主様にお怪我がなくてよかったですし、ハウレスくんの判断なのですから」


『でも…』


「主様はお優しいですね。ハウレスくんが目を覚ましたら一番に主様に伝えますね。看病は私とベリアンで交代でしますからお見舞いに来てくれたらハウレスくんもきっとすぐよくなります」



優しくルカスが私を諭す。
なにもできない私よりルカスとベリアンに看病を任せた方が良いのはわかっているのに。何もできない自分が無力すぎて。



『た、たくさんお見舞いに来る!お花も飾るし、起きた時にすぐ食べられるようにご飯も作る!必要なものがあれば私が持ってくる…!』


「ありがとう、主様。じゃあお願いしようかな」



そうしてハウレスが目を覚ますまでの間、ルカスとベリアン、ふたりが不在の間は私とフルーレやフェネスと看病をすることになった。
夜が明けてからハウレスの容態は急変した。ルカスの言っていた通り発熱してルカスが用意していた薬を使ってもなかなか熱は下がらなかった。



『ハウレス…』


お見舞いに来ていた私は中庭でアモンと一緒につんだお花を飾りながら苦しそうにしているハウレスのそばにいた。
冷たい水を含ませたタオルをおでこに置いてもすぐに熱を含む。
タオルを水に浸して少ししぼってハウレスのおでこに乗せる。



『…』



ハウレスの手を両手で包む。


「…うぐ…はぁ…はぁ…」


呻くハウレスは痛みに耐えるように手に力を籠める。私の左手が力強く握られて骨がきしむ。
私の手が痛くても気にならなかった。ハウレスはそれ以上に痛くて苦しい思いをしているのだから。



『ハウレス……目が覚めたら、甘いもの一緒に食べようね…』


『中庭を一緒に歩いて街にも一緒に行こう…』


『熱もすぐさがるよ、怪我もきっとすぐに良くなる…』


『大丈夫、大丈夫だよ』



まるで自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
いくらハウレスの息があるとわかってても、ルカスが大丈夫だと言っていても、みんなが励ましてくれても、今目の前でハウレスが目御開いて私に微笑んでくれないとこの不安は消えない。




『私が、ずっとそばにいるから……』



目を閉じておでこにハウレスの手をあてる。
すると、私の手を力強く握っていたハウレスの手から、

力が抜けた。



『…えっ』


最悪の事態が頭をよぎってハウレスの顔を確認する。
ハウレスは、先ほどより楽になった表情で正常に呼吸をしていた。
どうやら薬が効き始めたようだ。
良かった、と私が全身から力が抜けて椅子に座り込んだ。
少しの安堵感。




『…少し楽になったみたいで良かった』



ハウレスの手を頬に当てて彼の体温を感じる。
もう一度ハウレスの顔を確認すると赤い中にも金色が混じる真珠のような瞳と目が合った。



『は、ウレス……?』


「…あるじさま…」



目を覚ましたハウレスが柔らかく微笑んだ。
思わず涙が溢れる。
泣き出す私にハウレスが少し身体を起こして私を抱き寄せてくれた。



「ご無事だったんですね…本当によかった…」


『…っふざけないで!そのせいでハウレスが…』


「…俺は大丈夫ですよ、信じてください。主様を置いて俺は死にはしません」



ハウレスが私の背中をぽんぽんと叩く。優しい彼の手つきに徐々に感情が収まる。
身体の限界が来たのか私を抱きしめながらベッドに横になるハウレス。



『あ、ごめ…すぐどく…』


「いえ、隣にいてくれませんか…?」



ひとつのベッドでふたり横になって見つめ合う。まっすぐとこっちを見るハウレスに思わず顔が赤くなる。
腕にも包帯を巻いて怪我をしているのにも関わらず私の枕代わりにして抱きしめてる。



「…今だけ俺のわがままをきいてほしいです主様…」


『…うん』



そのまままた意識を失ったハウレス。
今度は少しだけ幸せそうに微笑みながら寝息を立てている。
彼の温もりに包まれて寝不足気味だった私も睡魔が襲ってくる。
少しだけ…少しだけ……と私も意識がとんだ。









「おや…ふふ、ベリアン見てよ」


「あらあら……ハウレスくんはもう大丈夫そうですかね」


「熱も下がった様子だし峠は越えただろう、見なかったふりをしようか…♪」


「そうですね、おやすみなさいませ、主様」



看病をしに来たベリアン達は、ベッドで眠る私たちを見て微笑ましそうに部屋を出ていった。



「若いっていいね、ベリアン」


「ふふ、ルカスさんもまだまだお若いですよ」







.
10/10ページ
推し!