ラトくん
「…ミヤジ先生、お月見ってなんですか?」
「お月見かい?……月を見ながらお酒を飲んだり団子を食べたり、風情を感じることだよ」
「月……ですか」
ミャジ先生は少しだけ言葉を選びながら私に説明をしてくれました。
月が怖い私に説明をするのに少し動揺したのでしょう。
私もそれがわかっていながら聞いてしまいました。
でも、それにも理由があります。
『ロノ!!!!お月見するからお団子作ってよ!!!!』
「団子っすか?いいですねぇ。お酒も用意しましょう!」
先日リビングを通りかかった際に聞こえた主様の会話。
お月見、名前から月が関係していることは察しました。けれどどうしても私はそれがどんなことをするのか気になってしまったのです。
主様がしたがっていることに純粋に興味が湧きました。
「…ミヤジ先生、私にもお月見ができるのでしょうか」
「…っ」
今まで以上にミヤジ先生が動揺しています。
言ってしまって後悔してしまってる私がいます。こんなの私らしくない。
「いいえ。ミヤジ先生なんでもありません。気にしないでください」
くるっと踵を返してその場を去る。
ミヤジ先生は一度私の名前を呼んで、そのまま黙りました。
廊下を歩きながらこのもやもやする感情をどうしようかと悩んでいるときに、前から主様が歩いてきました。
『ラト、どうしたの?』
「…主様」
『なんか、思い悩んでる?話聞こうか?』
「…いえ、そんなことはありませんよ」
『そう?パセリ畑に行くところならついてってもいい?』
パセリ畑に行くわけでもなかったが、どうせなら主様と一緒に行くことにした。
機嫌がいいのかニコニコしながら私の隣を歩く主様。
フルーレとミヤジ先生以外にこうして横を歩いてくれる人なんて主様くらいな気がします。そしてそれを快く思っている私もいます。
「主様もパセリ食べますか?」
『もらってもいいなら今日の夕ご飯にロノに入れてもらっていいかな?』
「クフフ…主様ならパセリも喜ぶと思います」
『あはは、なにそれ~』
ひとつひとつ収穫するとそれを真似して主様もパセリを収穫する。
ふたりで一緒に作業をしているとあっという間にパセリは無くなった。
ひとつつまんで口に入れる。
『あ、また歩きながら食べるとミヤジ先生に怒られちゃうよ』
「おや、それは主様に内緒にしてもらわないとですね」
『ふふ、私がラトを甘やかしちゃうのバレてるんだから』
パセリを抱えながらキッチンの方に向かう。
私は口を開いた。
「主様、お月見が楽しみなんですか?」
『え?あ、うん。お月見、楽しみかな』
私の質問が意外だったのか少し驚きながら主様が答えた。やはり私の発作のことをご存じなのですね。
「…私もしてみたかったです」
『…ラト』
ぽつりと出た言葉に主様が私の顔を覗き込む。
『…月がなくたっていつでも一緒にお団子は食べれるし、少しだけでもお酒飲めるよ』
「でも、それじゃあ…」
『みんなでわいわい騒ぐ名目でお月見とかお花見なんてイベントがあるんだからみんなで仲良く過ごせたらいつだっていいんだと思うよ』
そう言ってにっこりと主様は微笑んだ。
どうしてこんなにも主様は優しいのでしょうか。
「…ありがとうございます。主様」
『ふふ、ようしじゃあさっそくパセリを使ってお団子作ってもらおう!』
「それなら私でも食べれそうです」
『ついでに私の好きなものも作ってもらっちゃお!』
満面の笑みで笑う主様に思わず私も声を出して笑ってしまいます。
先程までもやもやしていたのに今ではすごく晴れやかな気持ちです。
主様、ありがとうございます。あなたがいて本当に良かった。
いつかは、一緒にお月見をしましょう。
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