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アモンくん










とある日ー




『ん。今日は薔薇が生けてある。1本だけなんて珍しい』






次の日ー


『今日は薔薇が5本…?』




次の日ー



『わ、今日は……9本。……薔薇もたくさん花言葉あったよね…本数で変わるって言ってた』



次の日ー


『花束みたいになってる!絶対何か意味があるはず!………20……24本だ今日は!』




私は書庫へと走り出した。
綺麗に整頓された本棚から植物に関するものを探し出す。


『花言葉………薔薇………あっ』


あった。
薔薇の花言葉が記されている本を手に取る。
薔薇の本数から色、葉があるかないかでも意味合いが変わるらしい。
アモンが飾ってくれた薔薇は赤い薔薇だった。



『1本の薔薇は…"あなたしかいない"。えっと次の日は5本………"あなたに出会えて良かった"。9本は……"いつもあなただけを想っています"。………24本は…"あなたのことを1日考えてしまいます"。………あはは、アモンらしいな…』



意味を見れば見るほど胸の奥が暖かくなる。
数ある中でアモンが選んでくれた薔薇の意味。
彼の中の素直な気持ち。
本を閉じて胸に抱く。
アモンに会いたいな。





次の日ー



『今日は…3本…?』



今まで数が増え、意味合いも深くなっていた。
それが急に減った。
私は昨日書庫で見つけた本のところへ走る。
あのまま昨日自室まで持ち帰ってきてしまったから机においてあるはず。



『3本……3本……』



花言葉の意味を見たとき、
私は自室を飛び出していた。
彼に会いに行かないといけない、その衝動で足が勝手に動く。
2階執事部屋の扉をノックもなしに開ける。
驚いたボスキが飛び起きた。



「な、あ、主様?ど、どうした?」


『アモン見なかった?!』


「アイツなら花でもいじってるんじゃねぇか…?」



若干引き気味のボスキが答えると雑に扉を閉めてまた中庭に走り出す。



『アモン……!!!!』


「…主様?」 



息切れをしながら目的の人物が目に入り無理やり大声を出す。
花壇に水をまいていたアモンが振り返る。



「どーしたっすかそんなに息まで切らして?もう俺の顔見たくなかったんじゃ〜?」



少し前に喧嘩をして『もう専属から外す!!顔も見たくない!!!』と口走ってしまった私。アモンはそれを守って私を避けて生活していた。
久しぶりに顔を見れたのにアモンの言葉にちくりと胸が痛くなった。



「中庭の散歩するなら俺は引っ込みますっす」



くるりと踵を返して歩き出すアモン。



『…な、なによ…!1日私のこと考えてたんじゃなかったの?!出会えて良かったって……!!!』



感情に身を任せて喚き散らす。



『じ、自分は薔薇なんかで気持ちを伝えようとしてるのに…私が伝えようとするときは逃げるの?』


「………お言葉っすけど、主様の気持ちは顔を見たくないってことじゃなかったでしたっけ?」



足を止めて背を向けたままアモンはそういった。
薔薇のように棘のある言葉にもうその背中すら見たくなかった。



『じゃあ……じゃあ"愛してる"なんて言わないでよ……!!!』



3本の薔薇の花言葉。
意味は"愛しています"。告白の花言葉。



「…っ」


アモンが振り向いた。
俯いていた私はそれに気付かずに続けて口を開いた。



『私を…からかって楽しい…?花言葉の意味を考えさせて……浮かれる私を想像した?それども怒ると思った…?……良かったね、どっちも正解だよ!!!』



言い切ったとき、うつむいた視界にアモンの靴が見えた。
バッと顔を上げると目の前にアモンが立っていた。
切なそうに顔を歪める彼はゆっくり口を開く。



「からかうわけないじゃないっすか。俺は花に嘘はつかないっす。俺の気持ちを込めたものを否定しないでほしいっす」


『…なにが、したいのよ…』


「それは俺が聞きたいっすね。主様は俺にどうしてほしいんすか」



いつもはヘラヘラ笑っている彼が冷たい視線で私を射抜く。
その視線に居心地の悪さを感じて少しだけ後ずさった。



『…わ、私は…アモンの顔を見たくない、なんて思ったことない…アモンの気持ちも嬉しかったし…薔薇も…』


「主様こそ、そうやって嘘ついてるんじゃないっすか?」


『嘘なんかじゃ…!!!!』



アモンの言葉に反論しようと顔をあげると、同時にアモンが私の腕をつかんだ。
ぐいっと引っ張られた腕に足がもつれる。



『な、なにを…』


「また言い逃げされたらたまないっすからね。無礼をお許しくださいっす主様?」


『…そんなに私のことが嫌い?』



なにこれ…意味わかんない。
何がアモンの本当?どれがアモンの本心?
どうして薔薇の花びらのような美しい花言葉を送ってくれたのに今は無数ある棘の茨を巻き付けられているように胸が痛いの。



「…嫌いじゃないっすよ」


『…もう、もういい…ごめんね、アモン。私が全部悪かった』



アモンに掴まれている手の抵抗をやめる。
全身から力が抜けると涙腺も緩んだ。



『…ごめん、もう私、傷つきたくない』


「……」


アモンが手を離した。
おぼつかない足で数歩後ろに下がって涙を拭う。



『今までありがとうね……』



言葉を続けようと口を開く。
でも、この言葉は今言うべきではないと思って歯を食いしばって飲みこんだ。
左手にはめられた指輪に手を添える。



「お待ちください、主様」


不意にアモンでない声が後ろから聞こえて指輪に添えられた手を握られる。
驚いて振り返る。



『ハウレス…それにフェネスも……』


「アモン、ちゃんと素直にならなきゃ。そんな苦しそうな顔をしてどうして心にもないことしか言わないの?」


「…っ別に…」


「このまま主様が帰ってこなくなったら一番つらいのはアモンじゃないの?」


「…主様、アモンが失礼なことを言ってしまいすみません。けれど、ちゃんと気持ちを聞いてやってください。俺からもお願いします」


『き、聞いたよ……聞いたもん…これ以上、私は何を聞くのよ…』



ポロポロと涙がこぼれる。
先程のアモンの棘を思い出すと更に心が痛んだ。



「あ、主様……」


戸惑うハウレスに私はかまわずに泣く。



「…アモン」


「……わ、わかってるっす…」



アモンが私に近づいて、ハウレスが握っている私の手を引っ張った。



「こら、アモン…!」


「ハウレスさんが先に主様に触れてたっすよ」


「な…っ。…ったく…アイツらしくないな」


「あはは、本当にね。小学生じゃないんだから好きな子いじめて気を引こうなんて…アモンらしくないね」



私を引っ張ってハウレスたちから離れていくアモンを見てふたりはため息を吐きながらも少しだけ安心したように微笑んでいた。







『アモン…!やめて…!』


「だめっす。ちゃんと…ちゃんと言うっすから…」



屋敷の裏の方に連れてこられた私は壁に手を掴まれて押し付けられる体制になっていた。



「…俺は、俺は…主様が好きっすよ……執事の誰よりも」


『やめてよ、また、そう言うこと言うの…』


「これが!!…これが俺の本心っす…」


『……』


「さっきまでのは…その……すみませんっす…俺が先に謝るべきだったのに…なかなか言えなくて…」


『……』


アモンの手に力が入る。必死に伝えようとしているのがわかる。



「…あ、主様に嫌われたくなかったっす。だって、主様にあんなこと言われて……俺、…」


『…うん』


「主様にちゃんと好きって伝えたかったっす…でも、俺の口はいつも…違うことばかり話してて…」


『…うん…』


「ずっと、好きだったんですよ、主様」



眉を下げてさみしそうに笑うアモン。手を離して私を抱きしめる。
ぎゅうっと身体が包み込まれて薔薇の香りが鼻をくすぐる。



「俺を…もう一度……専属にしてくれませんか…?」


『…いいよ、私も、私にも、アモンが必要なの』


「…ありがとうございます、主様」


『…私も、大好きだよ。アモン』



その日から、私とアモンは変わった。
と、思っていたのも最初だけで。




「主様はわからずやっすねぇ~。男心を学んだ方がいいっす」


『はあ?なにが男心よ!!ただの好みの違いじゃない!私のせいにしないでよ!』


「俺はセンスのない主様と違ってこうした方がかっこいいと思っただけっすよ~?」


『センスないって…あーもうあったまきた!』



今日もアモンと言い合う。
私をみて笑うアモンに頬を膨らまして睨みつける。
よく見ると手元では新しい花を飾っているようだった。
あの時以来飾られていなかった薔薇の花束だった。



『もういいから反省するまで部屋から出てって』


「了解っす」



アモンが出て行ったのを確認してから花瓶を覗き込む。
大きい花瓶にも関わらずきつきつに詰められた薔薇。



『数えるのは…骨が折れそうね…』



でも気になる。
アモンの本心が。



『………50……ふぅ、50まで数えても…まだまだある…』


黙々とまた数える。



『99…100!100本…やっぱり何か意味がある!!』


鏡台の引き出しにしまった薔薇の花言葉の本を開く。
パラパラと目的のページを開いて指でなぞって100本の意味を確認する。



『”結婚してください”……』


ぼんっと顔から火が噴いた。
いまだにアモンの本心を見抜く力量は私にはないけれど、こうして伝えてくれるのも悪くはないと思えるようになった。
素直じゃない私達だけど、お互いに自分なりに気持ちを伝えようとしていることを見逃さないようにするの。

そうすると、見えてくるから。



「俺は主様が、本当に好きっすから」



ほら、照れながら伝えてくれる薔薇のような男の子の言葉が。







※お話に出てきた薔薇の花言葉はあくまで私の知識です。実際と異なる可能性があります。(ごめんなさい)



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