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ロノくん






最近の主様は元気が無い。
そう気づいたのはきっと俺だけだろう。表面では元気な姿を見せているが、ふとしたときに表情が曇っているのを俺は見逃してない。



「……俺にできることは、励ますことと料理を作ることくらい…か」



キッチンで夕食の仕込みをしながら悩む。
主様に少しでも癒されてほしい。心からの俺の感情。
ティータイムでスイーツを頬張る姿は本当に愛らしい。
そんな主様の幸せそうな表情を見ているだけで俺も癒される。執事の立場でこんなことを言ってはいけないのだろうけど。


「おや、ロノくん。お夕食の仕込みですか?」


「ベリアンさん!はい!仕込みしているところです!」


「いつもありがとうございます。なにか手伝えることはありますか?」


「いえいえ!そんなベリアンさんの手をわずらわせることは……あ、手伝いというか…相談なんですけど…」


「?どうしました?」


「主様は、なにをしてあげたら喜ぶんすかね?」


「そうですね、それは私も常に考えていることですけど……男としての私たちの目線と女性としての目線が違う気がして…難しいですね、ふふ」


「なんか、楽しそうっすね。主様が来てからベリアンさん」


「そうですか?ふふ、確かにそうかもしれませんね。たのしいです」



ふにゃっと笑うベリアンさんに俺もつられて頬の筋肉が緩む。
ここの執事は本当に主様のことが大好きなのがわかる。だから俺も負けられない。



「俺も俺なりに主様をよろこばせられるように頑張ります!」


「頑張りましょうね、ロノくん」


ベリアンさんがキッチンを去った後、また悩む。
















「主様!」


『ロノ、おはよう』



今日も主様は微笑む。その笑顔の裏に疲れを隠しながら。



「主様、失礼を承知で申し上げます。今日は俺に付き合ってくれないか?」


『え?どういうこと?』


「主様のためにいろいろ考えたんだ。いつも頑張ってる主様を癒せるように」


『そうなの?』



本当に主様を癒せるか不安ではあるが、何もしないよりかはきっと少しでも楽になってもらえるかもしれない。そう自分に言い聞かせる。



「さぁ、主様。まずはゆっくり疲れをとりましょう」


『わ…え?お風呂?』


フェネスさんと相談をして疲れを取れるようにローズバスを用意してもらった。
ゆっくりと入る湯舟は疲れをとるには必要不可欠!
何をするにもまずは身体の筋肉をほぐさねば癒しにならない。



「ゆっくりとお湯につかって頭を空っぽにしてください!俺が髪を流してあげます!」



ぐいぐいと背中を押して主様を脱衣所に促す。
強引だっただろうか、と少しだけ罪悪感を感じる。



『ロノ』


「は、はい!どうした?」


『…用意ができたから、髪流してくれる?』


「…!任せてください!」



そうして俺はドキドキしながら丁寧に主様の髪を洗った。あたためたタオルを目元に置きながら抵抗も無く主様は俺に身を預けている。
お湯は花びらが浮いていることもあって中は見えないが視線は自然と反対側を見てしまう。
泡でもこもこになった髪を顔にかからないように気を付けてお湯を張った桶の中で流す。
仕上げにシャワーで流してからトリートメントを揉み込む。



「主様、終わりました」


『…、ん』


俺の声に主様が少しだけ唸る。どうやら眠っていたようだ。
目元のタオルをとって腕を伸ばして伸びをした。主様の肌が見えて俺は慌てて脱衣所の方に走った。









『次は何をするの?』


脱衣所で服を着た主様の髪を拭いていると少しこちらを見上げながら主様が口を開いた。



「次は俺の得意分野です!」


『あ、ご飯?やった!』



鏡越しに笑顔になる主様を見て少しだけほっとした。顔色が良くなった気がする。



「主様の好物ばかりを用意したからお腹いっぱいになるまで食べていいからな!へへ!」


『ロノのご飯だいすき!』



拭いた髪を櫛で梳かし終えるまでそんな話をする。こういう何気ない会話でも楽しそうにしてくれる主様。
癒せている実感がわいて俺も自然と笑顔になれる。




「さぁ主様、こちらにどうぞ」


『すごーい!本当に好物ばっかり!』




主様の椅子を引いて主様を促すと目を輝かせながら椅子に腰かけた。
隣に立って得意げに笑うと主様が手を合わせた。



『いただきます!』


主様の口に俺の作った料理が運ばれる。
もぐもぐと味わっている。すると主様の頬が緩んで幸せそうにほころんだ。


『んんん~おいしい~』


「喜んでもらえてよかった!」


主様の手は止まることなく次々に口に運ばれる。
俺も見ているだけでお腹が幸せで満たされている。
ある程度食べると口元をナプキンで拭ってコップの水を飲んだ。



「スイーツは食べれそうですか?」


『ん、いただこうかな!』


「ちょっと待っててくれな」


俺は速足でキッチンに向かい、冷蔵庫から用意したスイーツを飾り付けて主様の元へと持っていく。


「はい、お待たせしました!」


『わ!かわいい!食べるのがもったいないくらい!』


俺の飾り付けをまじまじと見て感想を述べてくれる。
そして俺の方を見て満面の笑みを向ける。



「いつでも作ってあげるんでぜひ食べてください主様っ」


『ふふ、いただきます』



飾りをできる限り壊さないように一口食べる。
チョコレートが溶けるように、主様の頬もとろけた。


『ああ、もう幸せぇ…』


「本当に美味しそうに食べるよな、主様」


『本当に美味しいときは素直に顔に出ちゃうものだよ』



少しだけ恥ずかしそうに顔を背けながら主様がそういった。
愛らしいお方だよ、本当に。









「満足したか?主様?」


『うん!久しぶりにこんなに満たされた感じ』


「じゃあ、最後は寝ましょう!」


『…え?』



主様の自室に帰ってきた俺と主様。
俺の言葉に目を丸くして主様は振り返った。



『ね、寝るって?』


「ん?睡眠は大事だからな!今日は何も考えずにゆっくりと寝てください」


『あ、ああ…なるほど』


「外でたっぷりと日の光に当てた布団なんで気持ちいいはずですよ!」



ベッドの方へ主様を引っ張り布団の中に押し込む。
しっかりと布団をかぶせてあげてベッドのそばに花を飾る。



『そばにいてくれる?』


「へへ!主様が望むならいつまでも一緒にいるぜ」



俺の方を見る主様の顔色は最近の表情の中で一番よくなっていた。
少しでも癒されただろうか。
もそもそと布団の中から主様の手が出てきて俺の裾を握った。
程なくしてウトウトしていた主様が眠りに着いた。


元居た世界では休むことがなかなかできない俺の主様。
せめて俺がそばにいる間だけでも癒され疲れを取ってほしい。
そのためなら俺はもっと頑張れる。努力する。なんでもしてあげたい。

だから主様、遠慮なく俺に甘えてくれ。
俺はやっぱり満面の笑みで笑う主様と幸せそうに食べる主様が大好きだからよ。



そんなことを想いながら眠っている主様の頭を優しくなでる。



「いつもお疲れ様、主様」








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