フルーレくん
俺は、人見知りをする。
どうしても慣れてない人の前だと頭が真っ白になって思うように話せない。出てくる言葉はどもり、えっとえっとと無意識に言ってしまう、
心臓がバクバク鳴って相手の言葉も聞こえない。
そんな自分が恥ずかしいし情けないと思う。
だから、主様が初めてこのお屋敷に来た時、ぜひ話してみたいとは思うもののこの人見知りでまもとに話せないと思った。
『フルーレ?』
どうしたら主様と話せるのか考え込んでいると後ろからいつもの執事の声と違う声に呼ばれた。
身体が強張って機械のようにぎこちなく振り返る。
主様がこちらを見て微笑みながら首をかしげている。
「あ、…主様……あの、その…こ、こんにちは…」
弱弱しい自分の声。
緊張で呼吸の仕方を忘れて小刻みに息を吸う。
『うん、こんにちは。良ければ少しお話しない?』
「あ…はい…ぜひ…」
内心では主様からのお誘いが嬉しいのにどもるせいで主様に伝わっていないかもしれない。
俺のこの人見知りのせいで主様が俺に失望して嫌われたりしないだろうか。そんな不安が胸いっぱいに広がる。
『よかった。フルーレが喜んでくれて安心した』
え…?主様は俺が嬉しいことをわかってくれた?
今までと違う意味の胸のドキドキに思わず主様の顔をまじまじと見てしまう。
主様も俺の瞳をまっすぐと見つめて目を細めて微笑んだ。
『どこか落ち着いて話せるところを知ってる?』
「え、あ、えっと……その…」
必死に屋敷の中を思い出す。
主様のために考えなければ、そう考えれば考えるほど頭の中が真っ白になって考えられなくなる。
冷や汗がたれる。
『迷うほどあるのなら、ふらふら歩きながら探そうか』
主様の言葉に思わず涙が出そうになった。こんなにもお優しい主様。
今までこの屋敷以外で出会う人たちは俺たち悪魔執事にいい印象を持っていない人や、悪用しようとする貴族たちばかりだったのに。
主様は、俺たちが怖くないのだろうか。
キョロキョロと見回して歩き出す主様の後ろをついていく。
「あ、その…各階に…し、執事達の部屋があります…」
『あ、うんうんさっきベリアンからそんな話聞いたよ』
「す、すみません…1階には…主様の部屋と…リビング…キッチンがあって…」
『うんうん』
俺の必死な説明を主様は優しく微笑みながら聞いてくれている。
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかるくらいに緊張をしているのがバレバレだろう。
『フルーレは初対面の私にも一生懸命接してくれて、優しい子なんだね』
「…なっ、そ、そんなことない…別に…」
しまった、と口をふさぐ。いつもラトに接するような反応をしてしまった。
俺の言葉に主様の反応をおそるおそる見ると、目を丸くしてこちらを見ていた。
「す、すみません…」
『ううん、少しずつこうして心を開いてくれたら嬉しい』
また主様は俺の瞳をまっすぐ見てそう言って微笑んだ。
少しだけ、俺の緊張がほぐれた気がする。
主様は、俺を失望したりする人じゃない。なぜかそう言い切れる気がした。
こんなにも優しい主様に俺もまっすぐと向き合いたい。
「主様、俺……主様に俺を知ってほしいです」
今までのどもりがなくなってハッキリとそう伝えられた。
優しい微笑みと違ってくしゃっと笑ってくれた主様。
俺は、この人のためになんでも頑張りたい。尽くしたい。
初めてそう思えた。
主様が俺をまっすぐ見てくれているから。
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