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フェネスくん











主様にはとある癖のようなものがあります。
それは、いつも指輪を外して元の世界に帰られるときに顔を合わせないように背中を向けられることです。
理由は聞けていません。
もし、俺と同じで「行かないで」と引き止めてしまう気持ちを隠すためだったら…主様にもっと寂しい想いをさせてしまうかもしれませんから…。
だからいつも、お互いに必要以上の言葉を交わさずに主様を見送ります。



「主様、お帰りをお待ちしております」


『うん、またねフェネス』
















私はいつのまにか習慣付いたことがある。
フェネスと別れるときに、顔を見るときっと帰りたくなるからって背中を向けて指輪を外すようになった。
彼はこのことについて何も言ってはこない。きっと勘の良い彼だから私の考えていることなどお見通しだろう。
いつも、寂しい気持ちで胸が苦しくなる。
いつも、振り返ってフェネスの顔を見たくなる。



『明日は、忙しい?』


「ハウレスの仕事も落ち着いてきたのでそこまで忙しくないと思いますよ」


『…そっか。じゃあまた明日来るね』



元の世界の自分の部屋。
いつもはこの部屋にひとりで過ごすのが当たり前だったのに、今となっては隣にフェネスが立っていることの方が当たり前だと感じてしまっている。
フェネスのいないこの空間が私の心の中を表しているようで。なお孤独がつらい。


『…仕事、行かなきゃ』












少しでも長くフェネスと一緒に居たい。
いつもそう思う。けれど生きている世界が違う私がそう思ってもいいのだろうか、ふとそんな気持ちが頭をよぎる。



『私はいつまでも一緒に居るよ』



そんな言葉が嘘になりそうで。
お互いを傷つけあう言葉になりそうで。
でも、そんな自分を見て見ぬふりしてフェネスとの時間を過ごしている。



「主様、今日は元気が無さそうですね。俺なんかで元気が出るか不安ですけど良ければ励ましますっ」


そう言って私に微笑みかけてくれる心優しい彼。
こんなにも幸せな時間を彼の思い出の中で残してもらえたらどれほど嬉しいことだろう。



『ありがとう、仕事で嫌なことがあってね……』



この不安をいつかフェネスに伝えられたのなら、彼はきっと寂しそうな笑顔で言葉を選んで私を傷つけないようにするだろう。




「主様といる時間は、俺にとって心が安らげるんです」



『あはは、それ私も一緒!』



元の世界で孤独から耐えるから。記憶の中の私はせめて美しいままでいさせてね。
もし本当の別れが来る時があったら、その時はちゃんと顔を見て「またね」と言うから。


今だけは、この幸せを噛みしめさせて。






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