執事vs執事
「主様、今日も中庭に行くっすか?」
『うん、アモンもお手入れしたいでしょ?』
「流石主様っすね!俺のことをよくわかってるっす」
アモンを専属執事にしてからしばらくが経った。
日常を他の執事よりも親密に過ごしたためお互いに理解をする間柄になっていた。
今日もアモンのお花の手入れを見に行くためにふたりで中庭に移動をする。
「~♪」
『ふふ、上機嫌だなぁ』
お花の手入れをしているとき、アモンの表情はより一層輝く。
その様子を見ながら私も中庭を散策する。
ふらふらと綺麗な花たちを見ていると、草の茂みの中に人影が見えた。アモンのいる方とは違うため、アモンではない。
『誰かいるの?』
「へへ、主様~♪」
『ラムリ?』
ガサガサと茂みから顔をのぞかせたのはラムリだった。
こちらを見てふにゃっと笑っている。
よいしょと立ち上がるとそこら中に着いた草を払っている。
『こんなところで何してたの?』
「休憩です!」
なるほどサボリか、と納得しながらラムリの頭に着いた葉っぱをとってあげると彼は嬉しそうに笑った。
「主様!僕とお散歩しようよ!」
『え?でも……』
私が言い終わる前にラムリが私の手を引いた。よろけながらついていくとどんどん中庭から離れていく。アモンを呼ぼうにもこの距離では声が届かないかもしれない。
『ま、待ってラムリ!!止まって!』
「主様に見せたい景色があるんです!きっと感動しますよ!」
いつもながらにマイペースな様子のラムリに半ばあきらめてついていく。
とりあえずはラムリに付き合って早めに戻ってこよう。そう思ったからだ。
そのあと、屋敷から抜けて森を抜けた先。そこから見える景色は本当に綺麗な世界だった。
思わず息を飲む。
「ね、すごいでしょ。見つけた時は主様に一番に見てほしかったんです!」
『うん…本当に綺麗…ありがとうラムリ』
ラムリの方を見て微笑むとラムリは満足そうにへにゃっと笑った。
「…まー……るじ…」
すると遠くからアモンの声が聞こえた気がした。
バッと振り返ってラムリの方に声をかける。
『ラムリ、帰らなきゃ。アモンになにも伝えずに来たから探してる』
「えー?ローズくんなら大丈夫だよ~」
『ダメ、戻らなきゃ』
今度は私がラムリの手を引く。
ラムリは先程とは違って口を尖らせて拗ねたように私を見ていた。
私たちは元来た道を速足で歩いて屋敷へと戻ってきた。
『アモーン!』
「…!主様?!」
屋敷の入り口からアモンを呼ぶとすぐにアモンが走ってきた。
相当心配してくれていたのか表情にはいつもの余裕さがなく、息を切らしている。
『ごめん、ラムリに連れ出されちゃって』
「ラムリがっすか?!」
はぁ~…と脱力したように座り込むアモンの前に私もしゃがむ。
「なにかあったとかじゃなくて本当に良かったっす…でもこれからは一言言ってほしいっす。心臓に悪いんで本当に」
『あ…それは本当にごめんね』
「まぁ大方ラムリが強引に連れてって声をかけることもできなかったんでしょうけど」
『あはは、正解』
控えめにアモンの頭を撫でてみる。意外にも大人しくなでられている。
いつもならバッと後ずさって離れているだろうに。
「主様……」
『ん?』
「んーん、なんでもないっす」
俯きながら髪の隙間から見える耳を赤くしてそういうアモンに少しだけ笑ってもう一度頭を撫でた。
すると、急にお腹のあたりに何かが触れて一瞬で視界が変わった。
『きゃっ!』
「…え?主様?!」
「やっぱりローズくんには主様の専属は無理だよ。僕に任せてローズくん!」
「ラムリ!!!!」
私はラムリによって抱きかかえられて身軽なラムリは軽々と中庭から走っていった。
こんな細身のどこにそんな力があるのかと疑うがにこにこしながらラムリは屋敷の中を走っている。
『だ、だれか!ラムリを止めて!!』
「あ!主様!だめですよ怒られちゃう!」
『ラムリは怒られなさい!』
わたわたともがくも頬を膨らませてラムリは言うことを聞く耳をもたない。
そうして走ること数分。屋敷の屋根にたどり着いてラムリは私を降ろした。
『はあぁ…しぬかと思った…』
「僕が主様にそんなことさせません!」
『本当に心臓に悪いからこういうことはやめて…』
「だって主様、ずっとローズくんの頭を撫でてるんですもん」
『アモンには心配かけたから』
「僕だってずっとローズくんが専属執事になってて心配してたんですよ!ローズくんより僕の方が主様を大切に思ってますもん!それにお役に立てます!」
『…アモンはちゃんと私のことを考えて、思いやってくれる。それに私にアモンの考えることがわかるくらいアモンだって私の考えてることなんでもわかってくれるんだよ』
「…主様!!!」
『ほら、こうしてアモンのそばにいたいって私の気持ちをわかって助けに来てくれる。そんなアモンが専属執事として心配するようなことないんだから』
「……主様は僕じゃ力不足なんですか?」
『ふふ、ラムリも私を元気づけようと励ましてくれたり楽しませてくれたりしてくれているのいつもわかってるよ。いつも感謝してる。でも生活のお手伝いにはアモン以外考えられないの』
屋根の下からアモンが私を呼んでいる。屋根の上に立ってアモンのいるほうに歩く。
『アモン!!!ちゃんと受け止めてよね!!!』
「え?!いやいやいや!!!主様!!!それは無理…!」
意を決して屋根から飛び降りる。二階分ある高さは死にはしないだろうけど当たり所が悪ければ怪我につながるだろう。
アモンはわたわたと慌てて私を止めるも降ってくる私にがむしゃらに手を伸ばす。
「…わぷっ!!」
『……おお、私、生きてる…』
「主様……冗談にならないっすよ……」
受け止めきれずに私の下敷きになっているアモンは顔を抑えて呆れたようにそう言った。
屋根の上からラムリが笑っていた。
『アモンがちゃんと私を無傷で受け止めてくれるの信じて飛び降りたんだから』
「…俺はラムリやハウレスさんみたいに力あるわけじゃないっすよ…」
私のお腹に腕を回して起き上がりながら抱きしめるアモン。
されるがままに抱きしめれていると心底安心したように息を吐いている。
そんなに受け止められる自信なかったのね…。悪いことしたな。
『今度ティータイムにアモンの分のスイーツも用意してもらうから、それでチャラね?』
「…しょうがないっすね、主様はほんと…ボスキさんよりも手がかかる」
『それは言いすぎじゃない?』
「そうでもないっすよ」
ふたりで笑いあう。気づいたら屋根の上にはラムリの姿はなかった。
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