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執事vs執事








『バスティン!』



「…ん、主様。何か用か?」



『もう、用がなきゃ来ちゃだめなの?』



「そうではない。そんなに駆け寄られたら何かあったのかと思う」



『なるほどね、まぁ用事はないんだけど仕事がないのならお散歩にでもいかない?』



「ああ」




私はバスティンと屋敷から少し離れた川沿いにきた。
他の執事達の目がなくなったところで私はバスティンの手を握った。



『バスティン』


「…主様」



どちらからともなく唇を重ねあう。
お互いの欲望のままに抱き合い求めあう。




「…っ主様」


『バスティン、大好き』



私とバスティンは恋人になってから密かにこうして愛を育んでいる。
堂々と付き合うことができないのは仕方のないことだが、こうして一緒に過ごせる時間が幸せだから今でも満足している。
自己表現が苦手なバスティンだが、私を愛してくれていることがわかっている。



「俺もだ、愛してる」


『…っ』


不意に微笑みかけられてドキッと心臓が跳ねた。
この時間が続けばいいのに。そう思う。
























『ロノ、いる?』


「おう主様、どうした?」


『うーん、バスティンがどこにいるかしらない?』



朝からバスティンの姿が見えなくて屋敷中を探し回っていた。
一度探しに来たキッチン付近に戻ってきたが見つからずロノに聞きに来た。



「そういや今日は朝からフルーレの荷物運びに付き合わされてたと思いますよ」


『ええ?そうなの?』


「朝から貴族共に呼び出されて執事の数が少ないんで朝飯も俺だけで作れるって話してたらフルーレがバスティンをよびだしてたっすからね」


『そっかぁ、わかったありがとう』


「…主様」


『ん?どうしたの?』


「ああ、いや、あとでティータイムのデザート持っていくんで主様の自室に帰ってきてくださいね」


『おっけ!わかった!』



ロノの言葉に元気いっぱい返事をして屋敷を巡回しながら時間をつぶすことにした。
今日は本当に執事の数が少なかったがムーもいてくれたおかげで充実した時間を過ごせた。

















『うーん、良い運動になった』


あらかた巡回を終えて自室に帰ってきた。
まだロノは来ていないのか部屋には私だけだった。
軽く伸びをしてベットに腰かける。
するといいタイミングで入り口の扉がノックされた。


コンコンッ


『はーい?』


「主様。俺です!」


『あ、ロノ!ナイスタイミング!』



扉を開けたロノがおぼんにデザートを乗せて部屋に入ってきた。
ベットから立ち上がってテーブルに腰かける。
心待ちにしていた今日のデザートはケーキだった。



『わああ!おいしそう~!』


「今日も張り切って作ったんだぜ」


『いただきます!』



さっそくフォークを手に取って食べ始める。
この甘さが幸せで満たしてくれる。ロノの作るスイーツはどのデザートにも負けないくらいに美味しい。
癒しとも言える美味しさに頬をゆるめているとそれを見ていたロノが私に負けないくらいに幸せそうな顔をしていた。



「ほんっと主様は幸せそうに食べるよな」


『美味しすぎるのが悪い』


「ははっ!ありがとな」


『食べ終わるのが寂しいなぁ』


「また明日ももっとうまいもの作るから楽しみにしてくれな」




食べ終わって紅茶を飲む。




「主様は、バスティンをよく専属にしてますよね」


『え?ぁあ、バスティンはなんだかんだ一緒にいてくれてるから』


「…バスティンが迷惑をかけたりしてませんか?」


『ううん全然。むしろ私の方がわがままいって振り回してるくらいだよ』


「…俺は…主様がバスティンのことをどう思っているかはわかっているつもりです…。これだけは聞きたい。俺じゃダメなんですか」


『え?ロノ?』


「俺!主様の笑顔が好きで…それよりも主様が幸せそうに食べる姿も好きです。主様のために作る料理は俺も幸せになるし、俺の料理で主様を幸せにしたいと思う」


『ロノ…』


「俺は主様を縛りたいわけじゃない。ただ惹かれているだけだ。……俺は主様を愛してる。……愛しちまったんだ」


『ごめんね、ロノ私は…』


「言わないでくれ…主様」


『……ロノ、私にはもう心に決めた大好きな人がいるの』


「…ははっ……言わないでくれって言ったのに」



私に背を向けたロノの肩がわずかに震えている。
けれど私はロノに伝えなければならない。何も言わないでお互いに傷つかない方法なんてないと思うから。
そして何よりロノのためにならないと思ったから。



『私はその人ともうこの先も一緒に幸せになることを誓い合ったの』


「主様……」



振り返ったロノが私の方を見て切なそうに顔を歪めて私の肩に自分の顔をうずめた。



「俺は…主様に応えてほしいなんて思ってません。同じ気持ちでほしいとは思うけど……でも主様の気持ちは尊重したい」


『……』



「……主様は、俺が一方的に主様のことを想うことも許してはくれませんか…」


『…ロノ、それは…』


「俺は…この気持ちを忘れることはできない」



今のロノを見て胸が痛まないわけではない。
だっていままでロノと過ごした時間は楽しいことも笑いあったことも苦難に立ち向かったことも何気ない日常もたくさんたくさん積み重なっていたから。だからこそ、こんな風に傷つけたくはなかった。
それに、ロノからは切実に私への気持ちが伝わってくる。
こんな時にも私の心にはバスティンがいる。それに罪悪感を覚えている私もいる。



「今は…今だけはこのままでいさせてください…」


『…わかった』



だから私はロノを突き放せなかった。
必死に嗚咽を我慢しながら身体を震わせる姿。謝ることも考えた。けど、それはロノを傷つけるだけなのをわかっていた。






















『バスティン!』


「主様。今仕事を片付ける。待っててくれ」




あれから日常がかえってきた。
バスティンとは相変わらず愛し合っている。
ロノはというと。



「バスティン!もういいぜ、あとは俺がやっとく。お前は主様に付き添ってくれ」


「ああ、わかった」



前と変わらずにバスティンとも私とも接している。
私達との関係を知った今、心境はどうなっているのだろう。気になったこともあったが私にそんな資格はないのかもしれない。



「主様?」


『ん?どうしたの?バスティン』


「いや、今日は日差しが強く暑いからまた川沿いに行こう」


『いいね、行こ!』



手を繋いで歩き出す。
今は最愛の人のことだけを考えよう。
ごめんね、ロノ。









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