アモンくん
アイスの行方
「へへっやっぱ夏はアイスっすね!」
冷凍庫に「アモン」と名前を記したアイスクリームを仕舞う。
13人+主様がいるこの屋敷では個人的なものを冷蔵庫あるいは冷凍庫に入れる際は名前を書いてしまっておく。
誰かに勝手に食べられてしまうからだ。現に1か月になんかいかはそれで揉めている。
「晩御飯のあとのデザートにしよーっと。楽しみっす!」
後の楽しみがあることはそれまでのモチベーションにもなる。
ハウレスのトレーニングをいかにサボるか考えるのにも熱が入る。
今日はどうサボってやろうか。
ー数時間後
夕ご飯を食べ終え、ボスキがお風呂に向かったことを確認してアイスクリームを食べるチャンスを見つけた。
キッチンではロノとバスティンが忙しそうに夕ご飯の後片付けをしていた。
「お疲れっすふたりとも」
「ああ、アモンさんか。今日も残さず食べてくれてありがとよ!」
「ロノの料理はうまいっすから!さすがっすね!」
「へへっ!うれしいぜ!それよりキッチンに来てどうしたんすか?」
「アイスクリームを食べようと思ってとりにきたっす。ボスキさんも風呂に向かったんで邪魔されずに食べれるんす」
「さっき主様もムーと食べるとか言ってたっすね」
「じゃあ一緒に食べよーっと!」
冷凍庫を開ける。
そこにはアイスクリームはなかった。
「はあ?!アイスクリームがない!!」
「ど、どうしたっすか?アモンさん!」
「俺の名前をかいたアイスクリームがなくなってるっす!」
「あ、じゃあさっきムーがもっていたのって……」
「ムーっすか?」
鋭い目つきでロノを方を見ると引きつった顔でロノが頷いた。
冷凍庫を閉めてキッチンを出る。主様の部屋へと向かう。
「失礼します。主様」
『あ、アモン。こんばんは』
「こんばんはっす、主様。ムーはいるっすか?」
「はむはむ…おいしいです~」
「ムー!誰のアイスクリーム食べてるっすか!」
「え?ロノさんが作ったアイスクリームですよ!」
猫のくせに器用にスプーンを使って食べているムーの目の前には皿に盛られたバニラアイスがあった。
アモンの買ってきたアイスクリームではない。
疑問に思いながら主様の方を見ると、見覚えのあるカップのアイスクリームが手の中に収められていた。
「あー!俺のアイスクリーム!」
『え?!これアモンの?』
「俺のっす、ちゃんとここに名前が…」
と、名前を書いたところを見ると主様が触れたのか結露で消えたのかそこには名前はなかった。
しゅん、としおれたように元気がなくなり主様から離れた。
『ごめんアモン。てっきりこれもロノが作った物かと思って…』
「主様、それはあげますけど…これはひとつ貸しっすよ」
『そんなこと言わないで、半分こしよ?』
「あ、主様のものを執事が食べるわけにはいかないっす!」
『私が良いって言ってるんだから大丈夫だよ、ほら、あーん』
「だ、だめっすよ!他の執事から怒られます!」
『ここにはムーしかいないしムーはアイスに夢中だよ』
主様が差し出すスプーンから溶けたアイスクリームが落ちそうになっている。
早く早く、と急かす主様の食べかけのアイスクリームを口に含む。
火照った顔を冷やすかのように冷たくて甘い。前に同じアイスクリームを食べた時よりもおいしく感じた。
「お、美味しかったっす……」
『ふふ、半分こって言ったでしょ?一緒に美味しいのを共有しよ?』
「も、もう勘弁してくださいっす!」
真っ赤な顔で部屋から飛び出した。
主様の笑顔はいつもずるい。俺の気も知らないでああやって胸をざわつかせる。
口の中に残っているアイスクリームの甘い香りが主様を意識させる。
「もう、あんなアイスクリーム買わないっす……」
だってあのアイスクリームを見るたびに、主様の食べかけのアイスクリームをを思い出してしまうだろうから。
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