第一章
「ベラさん、こんな問題猿でも解けますわ」
『うぐ…』
「もう一度説明致しますね、ベラ様」
学園を終えてベラの屋敷へと来てくれたエリザとフローラ。楽しくお茶会でもしたかったがもちろん勉強会のためだ。
明るいうちはきれいな中庭で勉強することになり自然に囲まれながらエリザとフローラに見てもらっている。
エリザの毒舌とめげずに解説してくれるフローラに挟まれながらノートと教材とにらめっこする。
授業で聞いたことがあるような内容を必死で考えながらエリザが考えてくれた問題をひとつずつ躓いていく。躓いている。うん。
フローラがヒントや解説をしていてくれているだけマシだがスパルタなエリザは容赦なく問題を提示してくるのみ。
「お嬢様、集中力が切れながらのお勉強は効率が悪いです。よろしければ紅茶でもお持ちしましょうか?」
『ティフォーン……尊いぃ…』
「ティフォンさんと申しましたわね、ベラさんを甘やかしすぎないでくださいませ」
「…」
後ろで控えていたティフォンが声をかける、がエリザはキッとティフォンを睨みつける。フローラは何も言わずにいる。
私の尊い執事はエリザに深く謝罪を入れて下がっていった。
『やだーティフォンとお茶したいぃ』
「王女が執事とともにお茶をするなんて聞いたことがありませんわ!」
『ティフォンは私の唯一の執事で私の友達だもん…』
「ベラさん、わたくしは国で唯一の王女でありますけど、ベラさんには第一王女様と第二王女様があられますでしょ。第一王女様は王妃様に継いで次期王妃様になられ、第二王女様は婿を迎え血筋を残しますわ。第三王女であられるベラ様は…きっとほかの国との交流を深めるためにお嫁に行くことになるのですよ」
「え、エリザ様…」
「私が言わなくたってベラさんの家の者がいつかは言うことですわ」
『…私は……ティフォンといられればいいもん…』
「いいえ。それはありませんわ。嫁に行く王族貴族は侍従メイドをひとりふたり連れることはありますけれど、執事を連れて行くなんて言語道断ですわ。名に傷を残す行為ですわね」
『ティフォンはどうなっちゃうのかな…』
「そこまでは知りませんけど、この家で必要であれば執事か使用人として働くか、本家に戻って執事をするのではないかしら」
「確か…ベラ様の執事様は代々王家に従えている…えっとクライアン家でしたよね…」
『うん…小さい時に私の専属になって…それからずっとメイドもつけずに一緒…』
「まぁ、良い執事離れの機会になりそうですわね。ぜひ私の国へ来た時には私のお屋敷にも招待いたしますわね」
『エリザ容赦なさすぎぃ……慰めてよーう…』
「もう少し王女らしく自覚を持ってはどうですの」
エリザのお説教には慣れているつもりだが今回の話はなかなかにダメージが大きかった。
ずっと一緒にいると思っていても主従関係の私たちが一緒にいれるなんて現実問題ありえない。わかってはいても現実逃避したかった。していたかった。むしろ時よとまれ。
そのあとはズーンと落ち込んだままの私に勉強を教える気力の無くなったエリザは迎えの馬車を呼び、フローラと一緒に帰っていった。