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第五章








そのあと私は紅茶を飲みながらティフォンを待った。しばらくして昼食を作り終えたティフォンが私をリビングへと迎えにいた。
本当にいつものティフォンと変わりのないことに困惑を隠せない。



「では、昼食をとりながら軽くマナーの復習を致しましょう」


『う、うん…』



ティフォンに見守られる中、ゆっくりと昼食を始める。
いつも通りに食事をしながらもマナーのことを頭で考えながら一口ずつ口に運ぶ。
食べる順番、食べ方、ナイフとフォークの扱い方、ナプキンの使い方、置き方などなど…。
普通なら所作だけ気を付ければいいものだが、今回の夜会は必ず私に注目が集まる。品定めをするような視線に囲まれながら食事をすることだろう。
そのときに私のマナーや所作に問題があればそこを指摘してくる貴族も少なくないだろう。
ひとつでも粗が見つかればこの作戦は失敗につながり、そのせいで私を支持してくれる貴族も減ってしまう。
そう思うと、食事をする手が止まってしまう。急に、食べ方がわからなくなってしまう。次はなんだっけ。どうするんだっけ。もう食欲もない。気持ち悪い。




「お嬢様」



ハッとなって声がした方に顔を向けるとティフォンが私の隣に立っていた。
心配そうにこちらを見るティフォンに絡まった思考がゆっくりとほどけていく。




『…夜会のこと考えたら緊張しちゃって』


「…やはりお嬢様に負担が大きいでしょうか…」


『が、頑張るよ。もともとは私の問題なんだから。私が頑張らないと意味ない』


「ですが…」




カチャ、とお皿にナイフとフォークを置いた。そのままナプキンで口を拭ってテーブルに置く。
そして、ティフォンの方を向いてにっこりと笑って見せた。これ以上は言わないで、と思いながら。
優しいティフォンはきっと私のことを守ろうとするだろう。




『…もうお腹いっぱいになっちゃった』


「かしこまりました。ではもう片付けますね。食後のデザートはいかがなさいますか?」


『ティータイムの時にお願い』


「かしこまりました」



ティフォンは食べ終わった皿を片付け始める。
キッチンへとさがったティフォンを見てからため息を吐く。少し前までの何も考えないで楽しい日々を過ごしていた時間が懐かしい。
ティフォンだけが大好きでティフォンのことだけを考えてそれをエリザとフローラに笑われたり呆れられたりして…。



『…領地の管理に、夜会に、テストに、夏休暇……エリザとの仲直りにティフォンの変化……ああ、あとは王太子と陛下、貴族たちの動向にも気をつけなきゃね…』







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