第五章
それから私は目まぐるしい毎日を過ごしていた。
テストに向けた勉強に、夜会に出るためのマナー作法とダンスの勉強と美容にも気を遣いいろいろなケアも始まった。
自由な時間などわずかで、朝から夕方にかけての勉強にそのあとは身を引き締めティフォンにも手伝ってもらって自分を磨く。
終わった頃には疲れ果てて眠りにつくルーティーン。
夏休暇にティフォンとどうするかなんて全然考えられない。
『ティフォンと…夏休暇…』
そうして今日も眠りにつく。
翌日、学園が休みのため朝からティフォンとダンスのレッスンをしていた。
いつ覚えたのか華麗なその身のこなしを何回見ても見惚れてしまう。このティフォンに合わせられるくらいの実力を私も身に着けたい、そう思えるくらいに。いつかどこかでティフォンと踊れる日を夢見て。
「お嬢様、だいぶ形になってきましたね」
『ほ、本当?夜会でも大丈夫かな』
「ふふ、最後の追い込み次第ですね。国王陛下様によると夜会は2週間後に決まったらしいです。それまでに完璧に致しましょう」
『うん!よろしくね』
体力が尽きてソファに倒れこむ。ダンスもなかなかのエネルギー消費量を費やす。ティフォンからレモン水をもらってちびちびと飲んでいると、息1つ切らしていないティフォンがこちらを向いて口を開く。
「お嬢様、少々事務作業をしてまいりますので休憩なさっていてください。戻り次第、昼食にしながらマナー作法のお勉強をしましょう」
『はぁ~い』
気の抜けた返事にティフォンはクスッと笑って部屋を出て行った。
悲鳴を上げている足を揉みながらふぅと息を吐く。慌ただしい毎日のおかげで考えることは減ったがエリザといまだに仲直りできていないことがいつも頭にひっかかっていた。
自分の失敗は後悔しか生まない。
コンコンッ
『あれ、どうしたの?』
「失礼します。お嬢様。お嬢様宛にお手紙が届いております。この紋章はマクラレン家からですね。フローラ様からでしょうか」
『…!見せてっ』
ティフォンに手を伸ばすとトレーから手紙とペーパーナイフを受け取る。
手紙をきらないように慎重に切って中を見る。隣でティフォンがペーパーナイフを回収する。
『………。フローラが近々訪問したいみたい。直近で来客予定は?』
「そうですね…夜会の日までは来客は控えております。お嬢様がよろしい日程でいいかと思います」
『…そう。なら今日中に返事を送るとして…2日後にしましょう。学園のあとにそのままフローラと帰って来ることにしようかな』
「かしこまりました」
ティフォンが棚から返信用の手紙とペン、紋章印を取り出した。
それを受け取って早速返事を書くことにした。学園でも約束を取り付けることができるフローラがわざわざ手紙で決めようとするのにはなにか訳がありそうだ。
「お嬢様、紅茶をお持ちしましょうか」
『…ありがとう。もらおうかな』
ティフォンがまた部屋を出ていく。ペンにインクを付けて走らせる。
エリザと何か関係があることかな、とふと頭の中に考えが浮かんだ。それならば学園で話しづらいのはわかる。現に言い合いをしたあの日から振り回されている一番の人物はフローラだ。私とエリザの補佐が役目な彼女は別行動をする私たちに困っていた。
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