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第四章






伯爵を見送ったであろうティフォンが玄関に入ったタイミングで気配をできる限り消していた私は彼のネクタイめがけて手を伸ばす。


ガッ


『いっっ…』


「お嬢様…?!」



私なんかの体術なんてたかが知れているからティフォンには通用せずに反撃を食らってしまった。床にねじ伏せられた私が悶絶していると私に気づいたティフォンが慌てて私を解放した。



「隠密が下手な輩だとは思っていましたがまさかお嬢様だとは思わず…申し訳ありません…」


『いたた…ごめん、私も紛らわしいことした…』



ティフォンが私の身体に優しく触れて支える。



「お嬢様の自室へ参りましょう」


『いいえ、応接室でいい』


「…え?」


『応接室へ連れてって』


「か、かしこまりました」



そうして私たちは応接室へと向かった。
先程まで伯爵とティフォンが話していた場所。ここなら私がふたりの話をきいていた証拠にもできるはず。



『ティフォン。そろそろ私を蚊帳の外にするのはやめて。ここでの話は聞かせてもらったから』


「…やはりお嬢様だったのですね」


『…バレてたのなら仕方ないけど、私には聞くべき権利はあるわ』


「かしこまりました。ちゃんとした計画を立てたうえでお嬢様にやってもらうことを伝えようとしていましたが…お嬢様が知りたいと思うのならばそれに応えるべきですね」



そうしてティフォンは少しずつ私に説明をし始めた。



「まず、私は国王陛下様との謁見の日から行動をしておりました。まずは、私たちを助けてくれそうな人材探しから」


『え…それって』


「はい。まずは私の家門クライアン家です。こちらは干渉できる範囲の援助をしてもらえることになりました。そして次に貴族の方々です。クライアン家と繋がりがあり、なおかつ王家に対して中立である立場の貴族から厳選し、何人かとお会いしました」


『それが…最近出かけている理由だったのね』


「はい。…そして同時に私が考えた事業についての力添えも頼んでみましたが、資源の確保の目処は立ちました」


『事業って?』


「服飾のアクセサリーの類です」


『アクセサリー…なんでまた?』


「お嬢様が陛下から任された領土はサーダルーンという土地です」


『そうらしいね…名前だけは知ってる…』


「あの土地は表面だけ見れば穀物も植物でさえまともに育たない環境の悪い土地なのです。けれど、中身を見れば未開の鉱石や宝石などが眠っているのでは、と噂されているところでもあるのです」


『……そんな悪い土地に…』


「人の寄り付かぬ土地なので獣や魔物なども出てきますが、逆に人よけにもなっていてまともに調べられた学者は少ないようです」


『魔物って…』


「お嬢様。この機会をチャンスと見ますか?それとも、無理難題を押し付けられた、と見ますか?」


『そ、それは……』



正直後者だと答えたい。そんなにも条件の悪い領地を任されたなんてティフォンの命も危なくなる。
言葉を発せずに黙り込む私にティフォンが席を立って私の足元にひざまずく。



「お嬢様。私はお嬢様のためならなんでもいたします。お嬢様がこれからもご自由に過ごされたいのならこの仕事も全うさせていただきます」


『…ティフォン』


「お嬢様」




ティフォンが差し出した手のひら。
まだ不安ではあるが、その手に私の手を乗せる。
柔らかく微笑んだティフォンがそっと私の手の甲に口づけをした。




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