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第四章





コンコンッ



『…………っティフォン!』




ノックの音に相手が扉を開けるよりも先に私が扉を開ける。
ドアの外にいた人物は私の行動に驚いた様子で見ていたが、私の顔を見て困ったように笑っていた。




「お嬢様、遅くなってしまい申し訳ありません」


『ほ、ほんと……遅いよ…』



ティフォンの顔を見て安心してしまった私の瞳からは涙が溢れた。
部屋の中に入ったティフォンは私に体を向けて両手を広げた。
涙を止めようと拭っていた私はそんなティフォンを見て彼の胸元に飛び込んで力の限り抱きしめた。
優しくぽんぽん、と背中を叩きながら抱きしめ返してくれるティフォンに子供のように泣きじゃくった。



「………落ち着きましたか?」


『ご、ごめん……服汚しちゃった…』


「これくらい大丈夫ですよ。………怖かったですよね」


『……ぅん』




抱きしめていた身体を離して、ティフォンが私を姫抱きする。
唐突な行動に驚いてティフォンにしがみついた。そのまま何も言わずにティフォンは私をベッドへと寝かせ起き上がろうとする私の上へと覆い被さった。




「怖かった思い出は…………違う思い出を重ねれば薄れるらしいです」


『な……ティフォン…ど、どういうこ……ひゃうっ』




ティフォンの言葉に聞き返そうとするも、私の言葉を遮ってティフォンが私の頬に唇をくっつけた。
彼の顔が近いのと念願だった彼の唇の柔らかさに思わず声が出てしまう。
ゆっくりと頬から顎、顎から首、首から鎖骨…と唇を移動させる。



『てぃ…っフォン!やめ…』


「ダメです。お嬢様にはつらい思い出など持ってほしくはありません」



唇を離してきっぱりとそういった。そしてまた腕へと唇を這わせる。くすぐったい感触なのか恥ずかしい気持ちなのかもういろんな感情があふれ出てはそれはすべて吐息と一緒に吐き出される。



『…も、やめっ…大丈夫だからっ…』


「お嬢様、今何を考えていますか?誰で頭がいっぱいですか?」


『うぅ……てぃふぉん…』



顔を高揚させ、涙目になりながらつぶやくようにそう言うと、ティフォンは満足したように微笑んでもう一度軽く頬にキスをした。
覆いかぶさっていた身体を起き上がらせて襟を正すティフォンの姿を見ながら暴れている鼓動を落ち着かせる。


なんだったのだろう今の時間は。
今までのティフォンからは感がられない行動に思考がいまだに追いつかない。



「お嬢様、私はお嬢様が幸せであることを祈っております」


『え…あ、うん…知ってる、けど…』


「ふふ、私はお嬢様の幸せのためならなんだっていたします」



ティフォンの笑顔、ティフォンの言葉に今日のことがよぎる。
今まではただただ私に尽くしてくるという主従関係の言葉かと思っていたが、ティフォンにとってはたとえ人殺しだろうがなんだろうが私が関係することはなんだってするということなのだ。
その事実に行きついた時、初めてティフォンに恐怖を感じた。
いつからだろう、いつからティフォンがこうなったのだろう。







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