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第三章




コツ…コツ…


キッチンのテーブルに突っ伏していると廊下から足音が聞こえてくる。
2…いやもっと複数人の足音。ティフォンの綺麗な足音はしない。
最近はなぜか来客が多い。
もしかしたらまた王太子の可能性も否めない。そうなるとキッチンから出ていくのは良くない。王女がキッチンから出てきたなんて王太子に何を言われるか。
悩んだ末にキッチンの小さな窓から中庭へと出る。


『この格好じゃ誰が来たとしても出迎えられないわね…』


極力足音を立てないようにティフォンが来るまで耐え忍ぶことにした。
が、訪問者であろう人たちの話し声が聞こえてくる。


「もぬけの殻なわけがあるまい。なんとしてでも第三王女を見つけ出すのだ」


「はっ!」


聞いたことのない声…。中年男性のようなしゃがれた声。そして付き人を付けられるほどの位。貴族だろうか。
探されているとなるとじきにこちらにも来るかもしれない。
走って入り組んでいる中庭の中に飛び込んだ。
ここの中庭なら地形をわかっている私の方が分がいいはず。


「…おい!外から物音がしたぞ」

「動物ではあるまいな?」

「探す価値はある」

「分かれるぞ、ふたりは外へ、残りは中をくまなく探せ!」


窓を超えてふたりが外に出てきた。一体何人連れてきてんのよ…。
耳に集中して出くわさないように慎重に移動をする。
緊張感に足が震えだす。


「…見つけたぞ」


バッと後ろを振り返ると、いつの間にか回り込まれてこちらに手を伸ばす人物がいた。
髪を掴まれて痛みに顔をゆがめる。声を上げようにも口で手を塞がれた。


「王女とあろうものがこんな誘った格好しやがって」

「見つけたか?!」

「おう、見ろよ王女様がお誘いだぜ。ちょっとくらい味見してもバレねぇだろ」

「ほんとだ、良い体してんな、さすがは王族だぜ」


無造作に身体を触られる。抵抗しようにも男の力には敵わず、逆に男たちを興奮させることになった。
ニタニタと汚く笑う男たちは地面に私を押さえつけると両足の間に無理やり体をねじ込んだ。


「やべぇ、王族とヤるとか興奮しかしねぇな」

「第三王女、心配しなくても痛くはしないつもりだから安心してくだせぇな」

「見張りしとけよ他の奴らに見られたらやべぇからな」

「任せとけ、終わったらさっさと代われよ」


男たちの会話にさすがの私でもこれから自分自身の身に何が起こるかなんてわかりきっていた。恐怖で涙がこぼれる。じたばたもがいても男の身体はびくともしない。
汚い手が私に身体にまとわりつき、男の呼吸が荒くなる。気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!


「あなた方、お嬢様に何しているんですか」


「ヒ…ッ」


聞きなれた声、愛しい声、大好きな声が聞こえた。
閉じていた目を開くと、私の目の前にいる男を殺気に満ちた目を見下ろしているティフォンが短剣を男の首元に当てていた。
男の血の気が引き、私から手を離す。


「お嬢様。目を閉じて、耳を塞いでください」


先程とは違う私に向けられた優しい声。震える手で耳を塞いで目を固く瞑った。
しばしの暗闇の中にかすかに何か物音が聞こえる。何も聞こえないように強く、強く抑える。何かに気を反らさないとこの暗闇にあの男の汚い手の感触と汚い顔と汚い息遣いが思い出される。





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