第一章
『ティフォーーーーーーーーンッッ』
今日も爽やかな朝だ、と目が覚めて勢いよく起き上がりながら思う。そのまま寝間着から着替えることなく廊下へと飛び出して雷雨が轟く景色を見向きもせずに走る。
目的はただ1つ。
「お嬢様…!そのような格好で出歩いてはいけませんっ」
昨日も今日もこれまでも執事服である黒のタキシードがスラッと似合って彼の特徴である銀髪がよく映えている。それに細長く美しい指が手袋越しにも伝わり、そこから繋がる腕の筋肉が布越しにも透けて見えるように美しい。なんといっても私が好きなのは彼が喋るたびに動く艶やかな唇。その妖艶さは全世界の生物学上女である人なら誰もが一度はキスしたいと思えるくらいに魅了されるほどにエロい。本当に。この世にこんなにもエロいものがあっていいのか、と思うくらいに今すぐにでも吸い付きたい。ああでも自分のせいでこの唇が汚れるのは気が引ける…ううううううー--んん
「お嬢様?フフッまたどこかに行かれてるのですか?」
立ち尽くして彼、私の専属執事のティフォンの魅力を脳内再生していると本人がしゃがんでこちらを見上げていた。このビジョンも脳内に刻んで1日40回は再生しようと固く決意した。
目を細めて微笑んだティフォンは自分の着ているタキシードを脱ぐと私の肩に羽織らせるようにかけた。
「執事の私の服で申し訳ありませんがまだ朝は肌寒いですのでお使いください。さて、そろそろお嬢様の世界から帰ってきて学校へ行く支度をしてしまいましょう」
私が羽織ったタキシードを抑えるのを確認したティフォンはそのまま私を180度回転させてつい先程走ってきた道を戻らせ始める。
前を歩くわけでも隣を歩くわけでもなく私の少し斜め後ろをついてくるティフォン。
お互いにまだ子供だった頃はいつも手を引いて手間のかかる私を引っ張ってくれていた。それが歳をとるに連れて私の淑女教育やティフォンの本格的な執事としてのマナー教育が始まってからはこのように主従関係ができてしまった。
さて、紹介が遅れました。
私はティア王国の第三王女のベラ・ローダンディ。上にふたり姉がいることで自由気ままに生きている14歳。趣味は執事のティフォンを観察、妄想、かまちょすること。人生の目標はティフォンと生涯添い遂げること。
冗談ではないけど、この話は置いといて3歳の時に先祖代々ローダンディ家に忠誠を誓ってきたティフォンのご両親が第三王女である私の専属執事として連れてきたのが初対面。それからは一緒に遊び、学び、育ってきた。
「お嬢様、髪をセット致しますね」
『ティフォンの好みの髪形にしてね!』
「フフッお嬢さんに似合う髪型に致しますよ」
本来であればこういう身支度や身の回りの世話は同性のメイドがやることなのだが、小さい頃からそういったものをティフォンに任せていたらメイドは皆ふたりの姉の方へと配属された。
ティフォンも年々仕事が板につきちゃんとドレスに合った髪型やアクセサリーなどを選び、学校に行くのにも私の要望に応えたことをしてくれている。
うちの子はなんて出来た執事なの…!
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