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ばいばい






朝、体の重みに気づき目が覚めた。
起き上がろうとしても身体が動かない。拘束されている様子もないのになぜか動かぬ体に焦燥感が出てくる。
かろうじて動かせる頭で周りを見渡すも、そこはいつもと変わらぬ自分の家の風景だった。



「…あの、」


『…?!』


突然どこからか声がする。驚いて見渡すも人影は見当たらず、聞き間違いでもない声の行方がわからないことに恐怖感が募る。
無理矢理身体を動かそうとするも自分の身体でないようにびくともしない。
どうしたらいいのかわからないことにパニックを起こしそうだ。



「…指輪、ありがとうございました…」


『……っまさか…お前は…』


謎の声の言葉に思い当たる人物が頭の中で思い浮かばれる。
わかったとしてもこの状況では恐怖心は増すばかり。
だが、そんな中でも疑問が浮かぶ余裕ができている自分が一番こわいのかもしれない。



『声…出るのか』


「…指輪が戻ってきたからかもしれません…」


『…そうか。ならよかったな…っていうか今の俺はお前のしわざなのか』


「…あ、その、私の姿を見てほしくなくて…」


『…え、で。この状況はなんなの?』


「…あ…えっと…お礼を言いたくて…」


『…え、それだけ?』


「……」



なにか言いたいのか、会話が終わったのかわからないような沈黙が流れた。
数日間しかいないからこの幽霊の性格や考え方がわからない。
どうしたものか、と考えてとりあえず聞いてみることにした。



『あー…言いたいことがあるなら全部吐いて行けよ。とりあえず指輪が見つかって成仏できんだろ』


「…うん。全部話します」



そうして少女はぽつりぽつりと話し始めた。か弱く消え入りそうな声だが、彼女の声しかしないこの部屋ではよく聞き取れた。




「私は……多分今から130年ほど前に死んでしまったんだと思います。
その当時お見合いをして新婚の仲でした…。結婚をして初めての旅行の最中に、あのトンネルで事故を起こしてしまったんだと思います。今となっては私には最愛の人がいたという記憶しか鮮明には思い出せないのですが…。

それから、指輪を失くしてしまったことで成仏ができずにあそこにいたんだと思います…。
そこにあなたが来てくださった…。

どうして自分なんだろう、とあなたは思っていたかもしれませんが…。あなたは私の結婚相手…私の最愛の人の生まれ変わりなんです。

信じられないかもしれません。でも、あなたとの記憶をまだ覚えている私にはわかるかもしれません…。

だから、あなたに指輪を見つけてほしかった。また、私に贈ってほしかったんです。

自分勝手で、個人的すぎる理由で振り回してしまって本当にすみません。」



経緯を説明し終えた彼女。
俺は何も言えなかった。なんて声をかければいいかわからなかった。
必死に考えている間に自分の体の違和感に気づいた。

先程までの身体の重みが無くなり、自由が戻っていた。そして気づいたら外の車のエンジン音、鳥のさえずり、聞こえていなかった環境音が耳に入る。
バッとおきあがって部屋中探し回るが。あの幽霊はいなかった。

もう、成仏してしまったのだろうか。

自分が彼女を放っておけなかったのも、魂のどこかで彼女を覚えていたからだろうか。
真実を話すだけ話した彼女は本当に出会った当初から自分勝手で個人的な理由で自分を振り回す困った女性だった。






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