ばいばい
そのとき4人に記憶がフラッシュバックする。
最初にここに来た時にトンネルの入り口付近で見つけた指輪。
誰かの落とし物だろうか、と拾わずにそのまま置いてきた。
『あの時の指輪か…?』
「遊馬くん、降りるとか言わないよな…?」
「やばそうじゃない?」
『前だって散々騒いでトンネル往復して帰っただろ、今更だよ』
そういって遊馬は扉を開けて外に出た。
桜子と繭はお互いに身を寄せ合って遊馬を見ている。
ため息を吐いた海流も扉を開けて外に出た。
記憶を頼りに指輪を探す。一応持ってきていた懐中電灯で地面を照らして目を凝らして草むらを探す。
『…あった』
「それか。こんなところで不気味だよなぁ」
『おい、探してんのはこれか?』
少女がゆっくりとこちらに近寄る。遊馬の隣までくると指輪がある場所を覗き込む。ここまで至近距離で近づくのは初めてだ。
指輪に気づくといつも無表情の口元が笑顔になった。そして首を縦に振った。
『じゃあ、これは持ち帰るか…』
「は?!まじかよ、大丈夫か?」
『こいつのらしいから大丈夫だろ』
指輪をひょいと拾い上げて服の裾で軽く汚れをふき取ってポケットにしまう。いぶかしげにこちらをみる海流の視線を振り払うかのように踵を返して車に乗りこんだ。
心配そうに声をかけてくる桜子たちに先程あったことを伝えると、海流と同じような反応をしていた。
「うっそ、大丈夫なのそれ?」
「心霊スポットのものは持ち帰らない方が……」
『誰のものかわからないものは持ち帰りたくはないけど、一応この幽霊のもんっていうのはわかるし、現にもう俺は持ち帰ってるようなもんだからな……』
苦笑い交じりにそう話すと桜子たちはもう何も言ってこなかった。
そのまま遊馬たちは心霊スポットを後にして各々の家に帰った。
家にたどり着いて一息吐く。
ソファに座り込んでポケットから先程拾った指輪を取り出して観察してみる。
至ってシンプルな指輪だ。よく見ると内側に何か刻まれている。
『…B.R…?イニシャルか何かか…?』
結婚指輪なのなら少女とその旦那かなにかのイニシャルだろうか。けれど、少女は幼すぎて結婚ができるような歳には見えない。
その指輪からわかることは謎の文字だけだった。
いつものように神出鬼没に現れるだろうか、と部屋を見回す。
だが、今回は少女の姿は見えなかった。
『おい、いるなら出てきてくれ』
心霊スポットで呼びかけた時のように呼んでみる。
だが、あの時とは違って少女はその日現れることはなかった。
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