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ばいばい






『こんなもんでいいか……よしっと…ってうあっっ?!』



荷物をまとめたリュックを背負って玄関の方を向くと少女がたたずんでいた。いつからいたのかわからないが幽霊だから気配もしなかった。
驚いた拍子に転びそうになるのを気合で耐える。



『いちいち心臓に悪ぃな本当……これから前に俺らが行った心霊スポットに行くからちゃんとお前もそこに帰れよな』


「……」



少女は唇をきゅっと噛むような動作をして何も言わずに消えた。
何も言わないことに疑問も感じたが、特に気にもせずにそのまま家を出た。
海流の車で行くため海流の指定した場所まで急ぎ足で向かう。
数十分歩いた先に、海流が車から降りて近くに立っているのが見えた。どうやら俺が一番乗りだったらしい。



『よっす』


「おぉ、やっと来たか。あれから幽霊ちゃんとは話したんか?」


『ちらっと出てきて無言で消えたわ』


「なんだそれwおちょくられてんだろw」



他人事だからと笑うだけ笑って車に乗るよう促した。
言われるがまま車に乗ってリュックを膝の上にのせた。
どうやら足で来たのは遊馬だけでこれから女子達を迎えに行くらしい。
腹立たしくも思ったが家が女子達とは逆方向にあるため仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。



1時間ほど車を走らせて女子ふたりを拾い終えた。
心霊スポットに行くことにまだ女子はいやそうな感じだったが晩御飯を奢るという海流の勝手な提案で手を打つことになった。
車が心霊スポットへ走り出して順調に公道を超えて森の中へと入っていった。
ここまでくるとすれ違う車も極端に減り、街灯さえも無くなってくる。




「相変わらず嫌な雰囲気だなぁ」


『まぁ一回目よりかは感動は薄れるわな』


「感動してたの?」


「桜子…多分そこつっこんじゃいけないところ…」



桜子が用意したであろうお菓子を4人でつまみながら目的地へと着実に近づいていく。
仲のいい4人の談笑は尽きることなく、海流と桜子は終始大声で笑い、遊馬はいじられ、繭も桜子ほどではないが笑っている。
どれほど時間が経っただろうか、二回目ということもあり海流は道を覚えており気づいたら目的地へとたどり着いた。



「お、ここだここ」


『案外はえーな』


「うっわぁ…」


「今度はもう降りなくていいよね…」



4人で前方にある大きく口を開いたトンネルを覗き込む。何度見ても本当に不気味なトンネルである。
目的地へとたどり着いたもののここからどうするかまでは決めてなかった4人は作戦会議が自然と始まる。



「もう辿り着いたっちゃ辿り着いたわけだし、帰らない?」


「遊馬くんのお化けも満足したかな」


「遊馬、その幽霊ちゃん召喚できないんか?」


『召喚て…使い魔じゃないんだから…どうだろ、気づいたらいつもいるからな…』



遊馬が辺りを見回してもそれらしい少女はいない。いつも白く背景から浮いてるからすぐに気づけるはずだ。
どうしたもんか、と海流があごに手をあてて考えている。女子ふたりはすぐ帰ろうと言わんばかりに帰ることを押している。



『おーいいるなら出て来いよー』



試しに呼びかけてみる。その様子に3人はぎょっとした顔をして周りをおそるおそる見回している。
呼びかけた本人も周りを見回してみる。



「おいばか!違う霊も来るかもしれねぇだろ!」


「そうそう!これ以上霊持ち帰ってどうするのよ!」


「もうこれ降りない方が絶対良いよね…」


『あ、ごめんそこまで考えてなかった……あれ』



そう謝りながら視界の端に何かが見えてそちらに顔を向けると、遊馬の座っている助手席の扉を挟んで外側に少女がたっていた。
ビクッと身体を震わせて落ち着いてその少女に問いかける。



『お、おいここで合ってるんだろ?満足か?』


「え、本当に召喚したのかよ…」


「こっわ…」



少女は大輝の方に向けていた身体を反転させて周りを見渡すようなそぶりをしている。
何かを確認しているのか、探しているのか、ただ眺めているだけなのか…それは少女自身にしかわからない。
しばらく少女の行動を見届けてから彼女にまた話しかける。



『なんかアクションしろよ、こっちに伝わらねぇよ』


「俺ら事情知ってっからいいけど、ただの変人だな遊馬」


「うん……いつもの遊馬じゃない」


「お化けと会話するってどんなんだろうね…」



少女はこちらを振り返った。振り返り際に前髪が揺れ動いてきれいな瞳がこちらを見据えていた。
そのまま少女は遊馬の方に手のひらを前に突きだした。
急な出来事に驚きつつ怪訝そうな顔で少女を見る。



『コイツ急にパーをこっちに向けてきた』


「パー?じゃんけんか?」


「なんかアクションしろって言ったからなんかしてんじゃないの?」


『…意味が分からんなんだこれ』



少女の手のひらをよく見る。白くて青白いその手は子供さながら小さくてふんわりしている。
遊馬から見て右側の手なので少女は左手を突き出している。



『…ん?なんかついてる……指輪?』


「え、小さな女の子が指輪つけてんの?」


「指輪って…」


「桜子、ここに確か指輪落ちてたよね」


「う、うん…まさか…」





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