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ばいばい







遊馬宅ー…



「えーとつまり、なんか霊っぽいの連れてきちまったってことか?」


「え、普通に怖いんですけど」


「ほ、本当におばけなの?」



あのあと遊馬の家にとりあえず移動することになった。
そして通り道のコンビニでお酒を購入してそれで乾杯しながら遊馬の話を一通り話し終えた後である。
とても信じられない話だからかまだ半信半疑な表情を浮かべている3人。
元々心霊系など信じていない4人だったから面白半分で心霊スポットに行ったのだ、信じていなければまだ遊馬の勘違いだと思うだろう。



『異様な雰囲気なんだよ…なんか、こう本能がかかわっちゃいけないって言っているかのような…』


「うわぁ、まじやばぁじゃん」


「その女の子がそれっぽい格好してるからそう思っただけじゃね?心スポにいった直後だしなおさら」


「あー…それもあるかもね」



つまみのイカをしゃぶりながら海流が喋る。それに繭も納得したのか首を何度も縦に振っている。
こればかりは見えている遊馬にしか伝わない恐怖なのだろう。
ひとりだけ切羽詰まった表情をしている。
桜子たちもなんとかしたいという感情はあるのだろうけど、見えない限りはどうしようもない。



「ま、怯えてる遊馬を置いて帰るわけにもいかないし今日は泊まってこ!」


「ぇえ!なにも準備してないよ…」


「さんせーい!」


『おいおい…俺の確認もなしにきめるなよ…』



実際は誰かいてくれた方が安心するのだが、信じてくれていない3人に怯えてる姿を見せ続けるのも少しプライドに障る部分もある。こんなちっぽけなプライド気にしなくてもいいくらいなのだが。



「なぁ、今度その女の子が出てきたらなんか話しかけてみたら?」


『は、はああ?!霊と関われっていうのかよ…』


「それはまずいんじゃない?やばそう」


「うんうん、遊馬くん憑りつかれちゃうよ」


「相手の目的が分かればそのまま成仏するかもしれねーじゃん?」


「それは話が分かる相手のみだってw」


『他人事だと思いやがって…』




前言撤回。やっぱ安心できない、と確信した遊馬であった。
そのあとはお酒も入ってふわふわとした気分の4人はゲームをしたり大学での愚痴に話を咲かせた。
眠気の限界に達した繭が眠りについたのをきっかけに桜子と海流も寝る準備に入った。
遊馬はまだ眠気が来ずに部屋の片づけをし始める。



「ゆうま~…もう寝るよ~…」


「桜子ー胸触らしてくれー…」


「やっだもうぅ~…」


寝転がって抱き着きあうふたりを足蹴りしてまとめたゴミ袋を結んで玄関に放り投げる。
ふぅ、と一息ついて雑魚寝して毛布を3人並んでかけている姿を見て残ったお酒をあおる。
大学生の狭い部屋で3人もよく寝れるな、と思いながら空いた缶をつぶして次のゴミ袋の中に突っ込む。
なんとなくもう一本飲めそう、と思い冷蔵庫からお酒を取り出す。
アルコールが回って思考がうまくできないが妙に頭の中はスッキリしている不思議な感覚。
プシッといい音を鳴らして缶を開ける。



『…ぷはっ』



勢いよく流し込みすぎて少しこぼしてしまった。
今度はゆっくりと缶をあおった、その時。



『…なっ…げふっごほっごほっ』



先程まで視界になかったものが目についてチラッとそちらに視線を向けると、あの少女が部屋の隅に立っていた。
今までよりも距離の近いその少女は今までよりもより鮮明に見えた。
思わず缶を手放してしまい絨毯の上に缶が転がる。その中身が流れようと今は気にしていられなかった。



『な、なんなんだよお前は……』



思わず、問いかけてしまった。
今までは声を出すよりも逃げ出していたが、もう逃げ場は少女の横にある玄関。
窓の前には3人が寝ている。
少女の横を通るにはリスクがでかい。それに3人を置いて自分だけ逃げるわけにもいかない。



『な、なにが目的なんだよ…』


「……ア、ウ…」


少女の口がかすかに動く。
何か話が通じそうなことに少しは安心した。話も通じないやばいタイプだったらと考えるだけで身震いがする。
とりあえず、少女の言葉に耳を傾ける。話が通じるタイプなのなら先ほど海流が言っていたこともできるかもしれない。
慎重に、警戒心は常に持って少女の声を聴く。



「…ア…アグ…ゥァ…」


『…?お前、話せないのか?』


「……ァ…」



少女の顔が少しだけ縦に揺れた。
別の意味で意思の疎通ができないことに困り果ててどうするか悩む。
とりあえずこちらの言葉は理解できているようだから思っていることをすべていってしまおう、と遊馬が口を開く。



『あ、あのさ…そのお前はしんでる幽霊で俺は生きてる人間なんだ。その、お互い関わっちゃいけないからどっか行ってくれないかな。ほらお母さんのところとか』


「……」



少女は今度は小さく首を横に振った。
それがどの言葉に対する否定なのかがわからなかった。前髪からのぞく瞳はかすかに悲しそうな感情が見えた。
そこでハッと自分の思考をかき消す。ぶんぶんっと頭を振って一度頭の中をリセットさせる。
どこかで聞いたことがある。霊に同情をしてはいけない、と理由は忘れてしまったが、その言葉が頭をよぎったのだ。
今のこの少女に同情をしてしまえばいつまでも俺に憑き続ける可能性だってある。




『頼むからもう目の前に出てこないでくれ、俺の平穏を返してくれ』


「…ア…グゥ…」



少女がこちらに手を伸ばす。
その少女の行動を見て咄嗟に身体をのけぞらせてその手から逃れようとする。心臓が早鐘を打つ。何をしてくるかがわからなくて少女から目を離せない。
行き場の無くなった少女の手は静止をして、ゆっくりと名残惜しそうに引っ込められた。
声を出したいのか喉元に手をあてて声にならないうめき声を発し続
けている。今にも吐血しそうなくらいにガラガラとした少女とは思えない声。



『…』



苦しそうなその声を聴いていると思わず「もうやめてくれ」と止めそうになる。けれどそれは彼女に同情するのと同じだと自分に言い聞かせて拳をぎゅっと握った。
少女は、そのまま雪がとけるようにすぅっと消えていった。
少女がいなくなったのを確認して一気に脱力する。
先程までお酒が入っていたのに跡形もなくすっかり抜けきってしまった。
もう何も考えたくなくて3人の寝ている毛布に一緒にもぐりこんで無理矢理目を閉じて眠りについた。




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