ばいばい
大学へたどり着くと教室にはもうすでに3人が集まっていた。
会話が盛り上がっているのか海流と桜子の笑い声が聞こえる。
声を頼りにその集団へ駆け寄ると3人がこちらに気づき振り返った。
「よっす。遅刻しなかったかー」
「おはよう遊馬!」
「おはよう遊馬くん。こっちの席どうぞ」
各々のあいさつに返しながら繭が引いてくれた席に座る。
遊馬が席に座ったタイミングで海流と桜子が会話を再開した。その話題を聞き流しながら鞄から必要なものを取り出す。
「そういや、昨日帰った後ちゃんと寝れたんか?」
「子供じゃないんだからwちゃんと寝れたよ」
「桜子、昨日寝れるまでトーク付き合ってーって…」
「わーっ繭っ!」
「あははっ!桜子まじかよw」
「もう繭のばかぁ……遊馬はギリギリまで寝てたってことは寝れなかったの?」
『え?俺は速攻ソファで寝落ちしたな』
「昨日の心霊スポット、結局なにもなかったもんね」
「4時間かけて運転したのになぁ」
「運転お疲れ様、海流くん」
はしゃいでいる海流にそれを笑う桜子と繭。
いつもと何も変わらない日常だ。
そのことに安心してさっきまでの恐怖は徐々に薄れていった。
講義が始まりノートに落書きをする海流ときちんと授業内容をノートに書く繭に挟まれて時間を過ごした。講義が終わるころには今朝のことなど忘れてしまっていた。
「ふあああやっと終わったなあ!」
「帰りどっか寄って行こ!」
「桜子、こないだ良い店見つけたって言ってなかった?」
「あ!そうそう、美味しそうなインドカレー屋さん見つけたのよ!」
『カレーか、いいな。最近食べてないわ』
講義を終えた遊馬達は大学から出ながら寄り道することで話していた。
4人とも大学に入って一人暮らしをしているので時間は合わせやすい。
色々なお店が集まっている駅周辺を歩き回りながらこのあとどうするかを4人で話す。
最終的にカレーを食べ、カラオケで時間をつぶし、ネカフェで各々自由に時間を過ごした。
『はぁー!楽しかったわぁ!』
「やっぱ学校のあとの遊びは最高だねぇ!」
「ここ当たりでお開きにしますかぁ!寂しいなら俺と寝てくれてもいいんだぜ?」
「きゃはは!やだやだいびきうるさくて寝れないわw」
「桜子、素直に言いすぎだよー」
「繭もそう思ってたのかよ!」
3人の会話を歩幅を合わせながら聞き流す。
街はもう日が沈んで建物からの光や通り過ぎる車のライト、街灯などで照らされている。
駅までの道のりをゆっくりと歩いていると遊馬の視界に何かが映ってそちらに目をやる。
『…っ』
視線を向けた先には朝見かけた不気味な少女だった。不思議な格好をした裸足の色白い少女がなぜかこちらを見てたたずんでいた。
一気にあの時の恐怖感に襲われて身体を震わせると、それを不思議に思った海流が顔をのぞかせて遊馬の方を見た。
「どした遊馬?好みの女でもいたんか?」
「えーっ!遊馬そういうのに興味なさそうなのにぃ?」
「俺らも年頃だから急に目覚めるもんよw」
「海流くんと、遊馬くんは違うんじゃ…」
肩に腕を回してゲラゲラ笑われてもその少女から目を離せなかった。離してしまったらいけないような強迫観念のようなものに身体と脳が支配されている。
海流と桜子が笑っている中、繭が遊馬の異変に気付いた。
「遊馬くん、大丈夫…?」
繭が遊馬の視線の先を追って細い路地のような場所を見る。
そんなにくぎ付けになるようなものは見当たらなかった。不思議に思って海流と桜子も呼びかけて指を指すがふたりも首を横に振って遊馬を見やる。
「おい遊馬、どうしたんだよ?」
「えー?大丈夫?」
「なんだか変だよ?」
『なぁ……お前らにはあの子が見えねぇのかよ…』
遊馬がぽつりとつぶやいた言葉に3人はわけがわからないという顔で互いの顔を見合わせる。
海流が力強く遊馬の身体を引っ張る。そのおかげで強張っていた体に自由が戻り、乱れた呼吸を整える。
恐怖からか全身に汗が噴き出して真夏にランニングをしたかのような滝の汗が服にまとわりついた。
『なぁ!あの心霊スポットに行ってからおかしいんだ!!!』
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