ばいばい
『ふぅぅーーー…………』
ドサッとソファに倒れ込む。
自宅がこんなにも安心するのは初めてかもしれない。
あのあとトンネルを引き返した4人は特に何もなく車のところまで帰れた。
そしてそのまま車に乗り込んで、行きとは違うルートを使って海流がひとりひとり家へと送り届けてくれた。
遊馬もその間例の人影を見ることはなかった。
見間違いだったのだろうか。今ではそう思う。
トンネルの外にあった木が影になって見えたのだろう、と。
ソファの柔らかさと家に帰ってきた安心感で眠気が襲ってくる。お風呂に入りたかったがだるくなって本能に従ってそのまままぶたを閉じた。
翌朝。
早く目が覚めた遊馬は朝風呂を浴びる。
ソファで眠ってしまったために体中が痛かったが今日は昼から単位が必要な授業があるためにムチを打つ。
大きなあくびをしながらお風呂からあがりガシガシと髪を拭く。
適当な服を手にとって大学用のリュックを手にとって電車の時刻表を携帯で確認する。
駅まで距離もあるし大学も何駅か離れたところにあるために通学時間はそこそこかかる。
『あー。もっとゆっくりしたかったなぁ』
愚痴をこぼしながら靴を履き家を出る。そのタイミングで携帯が通知音を鳴らし、画面を確認すると昨日の4人で作ったグループラインがトークに花を咲かせているところだった。
ポコン
海流 ーおはよーっす。今日授業ある?
ポコン
桜子 ー私は朝は単位足りてるしサボリかなぁ
ポコン
繭 ーえ、桜子来ないの?
ポコン
海流 ー繭かわいそ〜
ポコン
桜子 ーえー!繭も足りてるじゃんんん
ポコン
海流 ー俺と遊馬は昼一からだし飯でも行こーぜ
ポコン
遊馬 ー俺これから向かうからギリギリだ
ポコン
桜子 ー最後に来た人が奢りね!よーいどん!
ポコン
海流 ー遊馬確定で草
ポコン
繭 ー遊馬くんがんばれー!
ポコン
遊馬 ー俺は行くとは言ってないから桜子だぞ
ポコン
海流 ーなるほど、一理あるな
ポコン
繭 ーごちです〜
ポコン
桜子 ー手のひら返すの早くない?!
そんなトークを眺めながら駅へと向かって歩いていると、ふと後ろから視線を感じた気がした。
何気なく後ろを振り向く。
すると、そこには明らかに雰囲気の違う女の子が佇んでこちらを見ていた。
目があった瞬間にバッと顔ごとそらす。心臓がバクバクと大きく脈打つのがわかる。
覚悟を決めて走り出す。心臓が痛くても駅に向かって走る。もう携帯も見ていられない。携帯に通知音が鳴っているがかまっていられない。
ただ、あの女の子に気付いたことを相手に悟られてはいけない気がした。
人通りがある道に出た。誰か知らない人でもいないよりかはいたほうが何故か安心した。肩で呼吸をしながら後ろを振り返る。あの女の子は見当たらなかった。
本当に人なのかと疑うくらい恐ろしいほど整った顔の女の子。真っ黒な髪は肩ほどの長さで揃えられており前髪は綺麗に眉のところで揃えられていた。顔は青白く服装も変わった格好をしていたような気がする。
昨日心霊スポットなどに行っていなければ単純に可愛い子だと一目惚れでもしていただろう。
だが、普通あんな可愛い子が道の真ん中で突っ立ってこっちをじぃ、と見ているはずがない。
『連れてきちまったのか…?』
嫌な予感がして背中がヒヤッとした。
人通りの中に突っ込んでいき、そのまま駅へと向かう。
改札へと向かう間も心臓はバクバクと鳴り続け、改札を抜けたあとも冷や汗が止まらない。
電車に乗り込むと人が密集しており、いつもならイライラしているところだが、今日はなぜか安心感すら感じた。
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