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ばいばい









『うっわ〜…やっべぇ。雰囲気出てんなぁ』





とある夜の山奥。男2人女2人で車に乗った集団が道があるのかないのかわからない道を走っていた。
1時間ほど前は普通の公道を走っていたのだが、山を登り始めてから少しずつ街頭も少なくなり、対向車も減っていき、ここ数十分自分達以外の人を見ていない。
そんなのも雰囲気作りのひとつだと車内は盛り上がり携帯のナビを頼りに走り続ける。
そして、携帯のナビが案内を終えたとき運転していた男が車のブレーキを踏んだ。
昼間だったら神秘的、などと言えたであろう木々に囲まれた空間は真夜中の闇に佇み、異様な雰囲気を醸し出していた。
運転席の男が車を降りる。女ふたりはその雰囲気に圧倒されて降りるのを戸惑っている。
もうひとりの男は車を降りると女の子のいる席の扉をあけて手を差し伸べる。




『怖いならふたりで残ってていいけど、どうする?』


「…遊馬くんがいくなら、いこ繭」


「うんっ」




遊馬と呼ばれた男の手を握って女が降りる。
先に降りていた男はリュックから懐中電灯を人数分出して待機している。
全員が降りて改めて目的地を眺める。




ここは地元の人なら誰でも知っているトンネルの心霊スポット。
サイトの中では上位に入るほどのところではないが怖いもの見たさで来る若者は多い。
50年ほど前にこの山を経由しなくてもいい便利なトンネルが作られたことによって閉鎖されたトンネルだが山奥ということで人気がないため自殺者が跡を絶たないと言う噂が流れ始めた。一時は自殺スポットなどと言われていたこのトンネルは規制が入ることによって自殺者が減ったものの減ってからは規制もずさんなものになり今となっては自殺者の霊が出ると心霊スポットになってしまったのだ。
心霊スポットとしてはよくある話だが、今回大学生4人がこの心霊スポットへと肝試しをしにきた。
今回の物語の主人公、桜井 遊馬(さくらい ゆうま)
運転席に座っていた、岸田 海流(きしだ かいり)
遊馬の手を取った、七海 桜子(ななみ さくらこ)
そしてその友達の、安藤 繭(あんどう まゆ)
大学入学してから何かとつるんでいる4人。



『海流、いきなりトンネル入る前に色々周りも見てみよう』


「お、ありあり。なんか見つかればいいけど」


「あはは!私らの他にもたくさんの人きてるからあってもせいぜいゴミくらいでしょ〜」


「ばっか、ロマンがねぇなぁ」


「心霊スポットにロマン求めるのはなんか違うよ海流くん…」



『ん…?』




他の連れが談笑をしている頃、なんとなく周りの雑草が無操作に生えた道を懐中電灯で照らしながら歩いていると何かが懐中電灯の明かりで反射したのに気付いた。
足元に気をつけながら近づくと、それは指輪のようなものだった。
しゃがんで照らして見ても指輪だった。拾い上げてよく見てみる。指輪に見えたゴミかとも思ったがちゃんとした金属でできた女性用の指輪。
遊馬がしゃがんでいるのに気づいたのか3人が駆け寄ってくる。




「どしたー?遊馬くん?」


「怖くてちびったか?ははは!」


「体調でも崩した?」


『ん?ぁあ、こんなん見つけた』




先程見つけた指輪を手のひらにのせて3人の前に出すと覗き込むように見る。
不思議そうに見ては、海流がつまみ上げる。
試しに繭の指にはめようとし、それを見た桜子がバシンッと良い音を立てて海流の背中を叩いた。
海流がもがきながら遊馬に指輪を返すと、繭と桜子が改めて指輪を見つめる。




「前に来た人の忘れ物かな?」


「まぁそう考えるよね」


『こんなところに忘れられて可哀想にな』


「彼氏からもらったとしてもここまで取りに来ようとは思わないね」


「うんうん」




誰かの落とし物であろうと心霊スポットで拾ったものは持ち帰らないほうがいいと聞いたことがあるので元の場所に返した。
あらかた周りを見終わった4人はとうとうトンネルの前に立ち、意を決してトンネルの中へと足を踏み入れた。
カツン、カツンと女子のヒールの音が響く。




「ひゃー…歩く音が更にこえーよ」


「うわーんヒールなんか履いてくるんじゃなかったー」


「まあ…心霊スポットに来るなんて思わなかったからしょうがないよ」


『懐中電灯4つ持ってきて正解だな暗すぎるこのトンネル』




各々感想を述べたりしていると、入り口からの距離と出口からの距離が同じくらいの中間地点にたどり着いた。
海流が足を止めたのに合わせて3人も立ち止まる。
不安そうにお互いくっつきあってる桜子達。
興味津々に壁や天井を照らしている海流。
遊馬は海流がどうするか待っていると。




『ん…?』


「ん?遊馬、なんかあったか?」


「えーなんにもないでーお願いー」


『………』




遊馬は気付いてしまった。
入り口の方はさっき確かめた。なのに何かに気付いてもう一度入り口の方を見たとき、トンネルの暗さとはまた違う黒いものがあった気がする。
何も言わない遊馬に怪訝そうな顔をして、遊馬の見ている先を海流も追って懐中電灯を向ける。
肉眼ではただ黒かった物が照らされる。
あれは




『人影だ…人影が見える…』


「は…?どこだよ」


「え…?遊馬くん何が見えてるの……」


「驚かしとかなしだよ?!冗談ならやめてよ!」


『え、だって、あそこに…』






直感で気付く。他の3人には見えていない。
そのことに身震いをした。だが、確実に、遊馬には見えている。トンネルの真ん中に誰かが立っている。たまたま他に心霊スポットに来た人とは思えない。ただこちらを見ているかのように突っ立っているその姿はまさに異様だった。




『はは…嘘だよ、こんな冗談も言わないともったいないだろ…』


「やだもー悪趣味!もう怒ったからね!」


「ったく、お前演技うますぎだろ、ちょっとビビったわ」




冗談だと引きつりながら笑い次々に文句を言ってくるのも耳に入れずトンネルの出口に向かって早足で歩き出す。
とりあえず今はこのトンネルから抜けなくては、そう思うばかり。
すっかり怯えてしまった桜子達も遊馬に合わせて早足でついてくる。海流は相変わらず周りを懐中電灯で照らしながらマイペースに歩いていた。




「まぁ、心霊スポットなんて所詮こんなもんかー」



「遊馬くんのが1番怖かった!!」



「あんな冗談言うの珍しかったよね」



『そ、そうか?まぁ何もなかったしもう帰ろうか』




トンネルの出口を出たところで遊馬は気付く。
今トンネルの入り口から真っ直ぐと出口に出てきただけなのだ。だから車のある入り口へ戻るにはもう1回トンネルをくぐらなくてはならない。
桜子達も戻るのが怖いと言っているものの、車がなくては帰れない。
海流はタバコに火をつけて一服をし始める。
しばらく小休憩を挟んでから帰るつもりらしい。
遊馬は極力周りを見渡さないように3人と一緒にいるよう気をつけた。
そして5分ほど経ったところで一服を終えた海流が立ち上がった。




「さてと、帰るのが遅くなっちまうからそろそろ引き返すか」



「早く帰りたい〜」


「遊馬くん、いこ」


『ぁ、ああ。さっさと帰っちまおう』




覚悟を決めてトンネルへと入った。



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