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大悪魔を召喚するはずだったのに!!








『アル、湖の水美味しいよ』




近くにあった木から大きな葉っぱを1枚手折って湖で軽く洗ってから舟形に形を折る。その葉っぱに水を汲んで日陰で休んでいるアルの元へ零さないように慎重に持っていく。
水を運ぶのに夢中になって気付かなかったが、アルカードはフードを取って腕を組んで目を閉じていた。
あの洞穴で見たときとは違う、明るい場所でのアルカードはより一層人間離れした美しさを醸し出していた。
少しだけ、アルカードのその姿に見惚れる。





「ん…お嬢さん。どうしました?」



『…え?あぁ、お水持ってきたよ』



「ふふ、私のようなものには聖域の水は毒なんです。お嬢さんがぜひ飲んでみてください」



『あら…心が綺麗な私にしか飲めないだなんて』



「それは心外ですねぇ。私だってこんなにも美しい心を持っているのに」




話しながらアルカードの隣に腰を掛けた私は水を飲む。
しばらく水分をとっていなかった身体に染みるように行き渡る。
アルカードの肩に目が行くと服やマントに血が付いている。




『アル…怪我したところはまだ痛い?』



「今治癒してるので大丈夫ですよ」




目を閉じながらでも微笑みながらそう言ったアルカード。
すっと、アルカードの肩に手を置いてこちら側に引き寄せる。不審に思ったのか閉じていた目を薄く開いてこちらを見る。
少しだけ目をそらす。




『休む間だけなら、膝貸すよ』


「……ぇ?」




想像もしてなかった言葉に珍しくアルカードが驚いていた。
バツが悪くなって一層力を込めて引き寄せると先程より隙ができたのか体制を崩して私の身体に寄りかかる形になった。
そこで観念したのかため息1つ吐いて私の膝を枕にアルカードは横になった。
長い足を組んで腕は組んだまま瞳は閉じずに下から私を見つめている。
サァァ、と春風のような風が吹いた。
昨日のことが嘘かのように今すごく平和な時間が流れている。
目の前で自分の膝に吸血鬼がいるのにも関わらずに。
今この人から離れてしまえばまた悪夢に襲われるのだろうか。
そんなことを考えると少し身震いした。




「………お嬢さんはーーーですよ」



『ごめん、風の音で聞こえなかった、なに?』



「…いえ。変な人間だなぁ、と」



『私達知り合って1日も経っていないのによくもまぁ、そんなことがぽんぽんと出てくるわね…』




その時見えたアルカードの表情はどこか切なそうにも見えた。
昼間に動くのはやはり吸血鬼には苦しいのだろうか、と思っていたが、そうじゃない表情にも見える。考えても吸血鬼のことなど分からない、と瞳を閉じて思考を遮断した。





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