大悪魔を召喚するはずだったのに!!
『あなた……もしかして…悪魔じゃない…?』
「おや、悪魔をご所望でした?それは申し訳ないですねぇ」
男が目を細めて笑う。その瞳は宝石のような金色。艷やかな唇から覗く鋭い犬歯。その特徴は本で見たことがある。
その姿はまさしく。
『吸血鬼(ヴァンパイア)…』
「はい、ご名答。ご褒美を差し上げましょう」
男の言葉とともに私の身体がふわりと浮く。初めての感覚にわたわたともがくが自分の身体のはずなのに自分の言うことを聞かずに、男がクイと自分の方へ指を動かすと私の体はふわっと男の方へ吸い寄せられた。
至近距離の顔と顔を合わせて男は笑う。
「人間の世界では初対面の男女は自己紹介をするらしいですね、申し遅れました。私、吸血鬼のアルカードと申します。お気軽にアルとお呼びくださいお嬢さん?」
『……はぁ……。私はライカ・ウィンターソンよ…ライと呼んでくれてかまわないわ』
宙ぶらりんにされたまま諦めてアルカードの流れに任せる。どこから取り出したのかアルカードは長く黒いマントを肩にかけるとフードを被った。その姿はまさしくヴァンパイアだった。
アルカードが自分の腕に私を乗せると洞窟の入り口を指1つで穴開けた。そのまま外へ出た私達は地面を蹴ったアルカードが宙へ飛ぶと大きな木の上に着地した。
街が一望できる。お城に城下町、私の行ったことのない街や青々と茂った野原。
そこからの景色を眺めながら私は口を開いた。
『……結局あなたは私と契約をしてくれるの?』
「私はかまわないよ、あなたといるのは楽しそうだ」
『…褒めていると捉えましょう……。なら、私のお願いを叶えてくれるの?』
「ええ。復讐ですか?支配ですか?あなたは何をお望みで?」
『そうね……私は平和よ。平和を望んでいるわ。世界を平和にしてちょうだい』
私が遠くを見つめながらそう答えると、アルカードは驚いたように少し目を大きくして私を見た。今まで契約してきた者たちはこんなことを言ってこなかったのだろう。
アルカードの方を見る。彼は私の次の言葉を待っていた。
『私はね、もうこの世界には要らないって言われたのよ。連れて行かれた両親もきっともう死んでるわ。どこへ行ってもきっと私を殺そうとする人たちで溢れているのよ』
「あなたの言う平和とは…あなたの身の周りを平和にってことであってますか?」
『ふふ、そうできたらいいけど。私はもう生きたくはないの。だから私が生きている間だけでもこの国の平和に手を貸してはくれないかしら』
「……あなたはそんな大きなことを望むのですか。それ相応の対価が払えるとでも?」
『代償のことかしら?そうね…私にはそんな確かに価値はないわ。………でもね正直言うと別に望みなんてないの。そんなことで悪魔の召喚なんてしてはいけないことをわかっているわ』
「……」
『望みを言い直してもいいかしら』
「はい」
『私が死ぬまで一緒にいてはくれないかしら』
「…私はヴァンパイアですよ?人間と相違れない種族だ」
『わかってるわ、それでもそれが私の望みってことにしてくれないかしら。それくらいもできなきゃ私が困るわ』
私は怖がるでもなく、悲しむでもなく、だからといって希望に満ち溢れてるでもなく、その表情はアルカードからは何もわからなかった。でも何か、何かライカの中に感じるものがあった。
アルカードがそれを考えていると私はきゅっと片手でアルカードの肩を掴む。
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